第25話  進撃のかなでちゃん


「タ、タクトに妹がいたのかっ!?」

「ああ」

 驚きすぎだろ。


「こんにちは♪ おにーさまが人様を連れてくるなんて、初めてですわね♪」

「おい、かなで……お前、あとで覚えてろよ?」

 女じゃなっから往復ビンタですぞ。


「そ、そっか、タクト……本当にダチがいなかったんだな☆」

 なに笑ってんの? ミハイルさん?

 ひょっとして、これ同情されてない?

 いやいや、やめてね。


「はい♪ おにーさまはいっつもぼっちで非リア充で、彼女もなし。夜な夜な『妹を使う』クズ男子です♪」

「つかう? ゲームでもすんの?」

「はい♪ エロゲーですね♪」

 頭痛い……。


「ところでまだお名前をうかがってませんね」

「あ、オレはミハイル。タクトのはじめてのダチだゾ☆」

「え!? おにーさまにおっ友達がっ……」

 貴様、そんなアゴが外れぐらいの大口開けやがって!


「ちょ、ちょっとお待ちください……ううっ……」

「かなで、お前。なぜ泣いている?」

「だって……おにーさまにおっ友達ができるなんて……奇跡ですわ」

「お前な」


「しばしお待ちを! ミハイルさん!」

 なにを思ったのか、スマホを取り出すと電話をかけ出すひなた。


「おっ母さま! 大変ですわ! おにーさまが……」

『ど、どうしたの? かなでちゃん! タクくんが痴漢でもしたの!?』

 声が漏れている……。


「違いますわ! 痴漢ならまだしも……」

 痴漢はダメだろ!

『いったいどういうことですってばよ!?』

「お、お、お……」

『オ●ニーを学校でしたの?』

 爆ぜろ、この親子。


「おっ友達を連れてきたんですのよ!」

『……わかったわ。かなでちゃん、すぐにパーティーの準備よ!』

「御意ですわ!」


 ひなたは俺とミハイルに背中を見せると、イケメンばりに親指を立てた。

「あとはこの私、かなでにお任せください!」

「は? お前、どこに行く気だ?」

「決まっていますわ! 駅前5分の『ニコニコデイ』ですわ!」

 近所のスーパーのことだ。

「お二人はお先に我が家に!」

 走り出す妹。

 かえってくんな、永遠に。


「なあ今日って、かなでちゃんのお祝いでもすんのか?」

「いや……俺たちを使って遊びたいだけだ」

「そ、そうなのか! オレもあそんでいいのか!?」

 君は勉強にきたんじゃないの?


 ミハイルは目を輝かせて、真島商店街を眺めて「あれはなんだ?」「こっちは?」と俺に質問の嵐。

 それに対し、俺は各建物や店の情報を教える。

 答える度にミハイルは「すごいな!」と喜ぶ。


 歩くこと数分、我が家についた。

「ここが……タクトのいえか……」

 ミハイルさん、顔が真っ青……。

「悪いがそうだ」

 知人が俺の家へ中々遊びに来ないのは。俺自身の性格、ぼっちだからではない。

 我が家の敷居が高すぎるのだ。


貴腐人きふじん


 ブルーの看板には、裸体の男と男が接吻する寸前の環境型セクハラが描かれている。

 店の中には痛いなんてもんじゃないぐらいのBL雑誌、推しのポスター、コミック、小説、映像作品、同人誌で溢れている。

 ここでオタクショップと思った初見の方は、まだまだである。

 そんな腐れ果てた店内は、なんとただの美容院なのだ。


 ドアノブに手を掛けると自動で『どうしてほしいの?』とイケボ声優の甘ったるい声がささやかれる。

 これがその界隈の女性陣からは身震いを起こすらしいのだ。

 俺としては『イキスギィ~』の方がインパクトあっていいと思ったが却下された。


「タクくん~!!!」

 

 『かけ算』している痛い自作エプロンをした母が両手を広げて出迎える。

 満面の笑みで眼鏡が光っている。

「母さん……やめないか」

「え? やらないか!?」

 クソがっ!


「まあまあ可愛らしい、おっ友達ね! あなたは受けかしら?」

「え? ウケってなんすか?」

 ミハイル。お前まで腐ってしまっては親御さんに謝罪せねば。

「あらあら……最近の子たちは『かけ算』もしらないの?」

「かけ算はガッコウで一応ならったすけど」

「時代ねぇ、最近の学校は進んでいるのね~」

 会話になってねぇ!


「母さん、この子は古賀 ミハイル。俺のクラスメイトだ」

「かなでちゃんから話は聞いているわ! ミハイルちゃん! あなた可愛いわね!」

「か、かわいい……」

 顔を赤らめてまた床ちゃんとお話しちゃったよ……。

 ただ我が家の床ちゃんは痛男(イケメン)だがな。


「ええ、記念に写真をとりましょ!」

「は? なんでそうなる?」

 ここは入学式会場ですか。


「はーい、もっとからんでからんで!」

 息子になにをいってんだ! ババア!


「からむ? こうかな?」

 命令通り、俺の左腕を組むミハイル。

「こ、古賀?」

 貧乳……じゃなかった絶壁が俺の肘にあたる。


「うひょ~ 尊すぎるぅ~ デヘヘヘ……」

 悦に入るなクソババア!


「は、早く撮ってくれ、母さん!」

「なにを怒っているんだ? タクト」

 首をかしげて上目遣いすんな! こんな至近距離だと色々とドキドキキュアキュアだぜ。


「はーい! BL!」

 ちな、ピースの意味な。

 どこにログアウトの選択肢があるんでしょうか?

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