第16話 伝説のヤンキー『それいけ! ダイコン号』
廊下を歩いていると、どうやら『事後』のミハイルとすれ違う。
視線をやるとやはり不機嫌らしく「けっ!」と舌打ちしていた。
や~ね~、反抗期っていつ終わるのかしら?
トイレにつくと、先客がいた。
おかっぱ頭の少年がお花を摘む……じゃなかった放出中。
俺も隣りに立ち、コトに入る。
「……」
「……」
いや、人が隣りにいると出るものも出ませんね~
「あ、あの……1つお伺いしても?」
おかっぱがこっちを見ている。
目を合わせようとしたが、前髪が邪魔してその目は見えない。
「ん? なんだ?」
「あの……氏は奴らとどういう関係で?」
「奴らとは?」
「あいつらですよ、伝説のヤンキー三人組」
なんのことかサッパリだった。
「……誰だそいつら?」
「あの三人ですよ? 知らないんですか?」
「だからどの三匹だ? どこぞの時代劇の再放送なら平日の朝に見ろ」
「違いますよ! 『剛腕のリキ』、『
「……」
千鳥だけそれっぽいけど、ミハイルは外見だけ。最後の花鶴に関してはただの悪口だろ。
センスないな。
小便を終えた俺はトイレを出て、廊下で詳しい話を聞く。
「それで、その三人……つまりあのアホどもがなんなのだ?」
「何って……怖くないんですか!?」
おかっぱは必死になって、俺に説明する。
なにをそんなに焦っているんだか。
「全然……むしろ、奴らは言語能力において著しく欠落している……かわいそうなバカどもだろう」
「氏はわかっておられない……奴らは、うちの地元ではそれはもう酷い噂ばかりです」
「ふむ……つまりお前の地元では手もつけられないようなヤンキーという認識なのだな?」
「はい、奴らは
まあ個人的にはご老人が多いイメージはある。
「伝説ってお前……なにが伝説なんだよ?」
「いいですか、あいつらは十年前に発足された伝説の暴走族『それいけ! ダイコン号』の後継者です」
「……お前、俺をおちょくっているのか?」
酷いネーミングだ。笑わせたいのか怖がらせたいのか、意図が読めん。
「某は真剣ですよ! いいですか、『それいけ! ダイコン号』は初代から少数精鋭の武闘派で、それはもう酷かったんです」
なにが? 名前のことだろ?
「十年前にグループは消滅したのに、一年前に急遽、復活を遂げ、
笑いの渦だろ?
「そう……あの三人は本当に手もつけられないようなヤンキーであり、暴走族です。うかつに近づいてはあなたの命が危ぶまれますよ」
一通り、事情を聞かせてもらったことが、何ともしっくりこない。
奴らが伝説のヤンキーだと、笑わせる。
俺は鼻で笑うとこう切り出した。
「……言いたいことはそれだけか?」
「え?」
「正直、俺はあのバカどもに関しては何の恐怖なぞ感じない。むしろ本当にどうしようもないクズ、バカ、アホというのが第一印象だ」
まんまだしな。
「な! そんなこと口に出したら……」
「いいか、俺は白黒ハッキリさせないと気が済まないんだ。お前の言い分も分かった。だが俺はあのバカたちがそういう犯罪絡みの所業をしていたとしてだな……それをこの目で確かめるまでは『ただのバカ』という認識だ」
「氏はいったい……」
チャイムが鳴る。
「じゃあ、これで駄弁りは終わりだ。授業に遅れるぞ? お前、名は?」
「あ、申し遅れました。某も新宮くんと同じ“ニーゼロ”生の
ニーゼロ生とは今年の一年生ということだ。
2020年に入学したからニーゼロ生。
一ツ橋高校は単位制でもあり、通信制でもある。
また留年する生徒が多いらしく、3年間で卒業を目標にしているものは少ない。
よって、留年を想定した上で、入学した年で生徒たちを区別する仕組みになっている。
また入学するのも春だけにとどまらない。
夏から願書を出せば秋にも入学できる。
その背景には中途退学者の前学校における単位が残っていれば、不足分を補えるというメリットが売りなのだとか。
気軽に入って卒業。それが売りらしい。
「日田か……認識した。俺は新宮 琢人だ」
「某は新宮くんのことは存じ上げてます」
「なぜだ?」
「だって入学式であの『
あれがケンカだと! ただの暴行だ!
「そんな噂が立っていたのか」
「ええ……では遅れますのでこれにて!」
そう言うと足早に、
俺はこんな時でも急がない。
まあ急ぎはするのだが、『廊下は走ってはいけません!』なところだからな。
途中、曲がり角で人影を感じた。
「……」
またお前か、古賀 ミハイル。なにをそんなに顔を真っ赤にさせて、床と会話している。
お前の推しメンは床か? 『ゆかちゃん』と名付けてやる。
「おい、古賀。もうチャイムなったぞ?」
「わかってるよ……」
「そうか、じゃあ俺は先に行くからな」
言い残すとゆっくりと俺は歩きだす。
途中振り返ると、ミハイルはやはり『ゆかちゃん』とお話中だ。
ヤンキーってのはわからんもんだな。
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