第7話 赤髪のギャルとハゲ


「おまえ! もういっぺんいってみろ!」

 少女のような少年は顔を真っ赤にして激昂している。


「だから、かわいいって思ったことが何が悪いんだ?」

「この……」

 拳を振りかざしたその瞬間だった。



「ミーシャ、こんなことでなにやってんのよ♪」

「おいおい、ミハイル。お前、初日からケンカかよ? 退学すんぞ」



 片方は赤色に染め上げた長い髪を右側で1つに結んだミニスカギャル。

 スカートの丈がミニすぎる。

 床に腰を下ろしている俺からはチラチラと言うよりはパンモロだ。


 もう片方は対照的に髪の毛一本もないスキンヘッド。ガチムチなマッチョで老け顔。

 四十代ぐらいに見える。


「ミハイル、こいつ。ヤンキーじゃねーだろ? ダメじゃないか。カタギに手出しちゃ……」

 カタギってあんた……。

「うるせー! こ、こいつはオレのことを……」

「なんだ? ケンカでも売られたのか? そんなヤツには見えんけど」

「それはその……」

 と言って顔を赤らめる。

 いやもう男と分かったからには、俺は萌えないよ。


「あんちゃん、大丈夫かい? ほら」

 と言って、俺に手を差し出す。

 あれなにこのデジャブ。なんか今日で2回目じゃない、手を貸されるのって?


「あ、ありがとうございます……」

「ハハハ、敬語なんていらねーよ。タメ口でいいっての!」

 そう豪快に笑うハゲは頼もしささえ感じる。

「いや、でも年上の方は敬ないとですね……」

 俺がそう言うと赤髪ギャルが吹き出す。

「年上って! あんたこそ、年いくつ?」

 お前がタメ口かい!


「俺は十七だけど」

「あーしもこのハゲも十七だよ」

 と言って腹を抱えて笑っている。

「リキ。あんたがハゲてるからだよ!」

 いや、ハゲは関係なくて老け顔のせいだと思いますけどね。

「ああ? ハゲてねーよ! 俺は剃ってるって言ったろが!」

 タコがゆでダコになる……。

 心中お察しいたします。


「まあいいや、俺は千鳥ちどり りき。そんでこっちのバカ女は花鶴はなづる ここあ。そんでお前さんは?」

 いや聞いてもないし、なんなの。この身勝手な暴力からの自己紹介タイム。

 あのパンチはヤンキーになるための通過儀礼なの? 俺、ヤンキーとかなりたくないよ?


「俺は新宮。新宮しんぐう  琢人たくとです」

「だからタメでいいってんだろ」

 そう言って俺の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回す。

「はぁ……」

 俺のセンサーではハゲの千鳥がコミュ力、2万5千。

 ギャルの花鶴が3万といったことろか。


「ねぇ、琢人ってさ。オタクでしょ?」

 花鶴はニタニタと意地悪そうな顔で俺を見る。

 てか、女子に初めて下の名前で呼ばれたわ。惚れちゃいそう。

「まあオタクとは自覚しているな」

「じゃあさ、今度からオタッキーね」

「それ悪口だろ。やめろ、断る」

「ダメダメ、もうあーしは決めたんだからさ♪」

 決めたんだからさ♪ じゃねー。返せよ、俺の純情。


「いや、俺もオタッキーには反対だな」

 なんか嫌な予感。

「俺が思うにオタクで琢人だろ? タクオでいいだろ?」

 よくねー。なんかもっとランク下がっている気がする。

「人の外見で遊ぶな。怒るぞ」

「ハハハ、お前。いい度胸してんな」

「それはこっちのセリフだ」

 なぜ俺は非リア充でありながら、ヤンキーやギャルとトークをしているのだろう。

 こいつらのコミュ力は半端ない。その力が要因か。


「そうだ、肝心のこいつを忘れてたぜ。タクオを殴った張本人」

「……」

 未だ女男は顔を赤らめて、うつむいている。


「おい、ミハイル。自己紹介して仲直りしろよ?」

「そうだよ、ミーシャ。オタッキーもこれからウチらと同じ高校じゃん」

 いや、一括りにしないで。


「……」

「しゃーねーな」

 そう言うと、千鳥は女男の頭を無理やり、下げさせる。

「悪かったな、こいつの名前は古賀こが ミハイルってんだ。年は俺らより二個下でまだ十五。これから三年間よろしくな!」

「……」

 黙ってうつむいている。

 こいつもコミュ障なのか?


 咳払いして、改めて挨拶した。

「俺にも不手際があったかもしれない(知らんけど)。その事については謝罪する」

「いいってことよ!」

「そうそう、あーしらクラスメイトじゃん!」

 コミュ力たっけー。

「とりあえず、よろしく」

 依然として古賀 ミハイルは顔を赤らめたまま、床を見ている。

 床が友達なのかな?

 笑う千鳥と手まで振ってくれる花鶴を残して俺は教室に戻った。

 そこでやっと気がついた。


「トイレ、行き忘れた……」

 こうして、俺の最低最悪の入学式。

 高校生活がはじまったのだ。

 


 一ツ橋高校を後にした俺は駅のホームでクソ編集部の『ロリババア』に電話した。

 忘れているかも知らんが、一応俺はライトノベル作家。

『ロリババア』とはこの動物園(一ツ橋高校)を薦めた張本人であり、凶悪犯だ。

 怒りでスマホを持つ手が震えていた。

 しばらくベル音が聞こえはするが、一向に出ない。


「クソ、あのロリババアめ!」


 俺はメール作成画面に移り『クソ編集、騙しやがったな』と送る。

 するとすぐに返信があり『センセイ、ご入学おめでとうございます! センセイが高校とか、草生える』とあった。

 電話を無視したことにイラついた俺は『お前の身体(特に股間)には草は生えないだろ?』とディスる。


 よし、明日にでも退学しよう。

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