第5話 過去。現在。未来。

11月のある雨の午後、私は傘さして歩いてお店にむかった。駅前に近づくと恒例のサンタとトナカイが消えたり付いたりするクリスマスイルミネーションが今年の終盤をいやが上にも感じさせていた。

毎年この時期になると、過去を振り返ってしまう自分自身にも、少し嫌気が差す今日この頃である。

思いかえせば、私がこの街に住み着いて足かけ23年になる。23年前にはこの駅前には今のような高級マンションもおしゃれなお店も無かった。古本屋に喫茶店、写真屋さんに、洋食屋といった、今で言う絶滅危惧種達がそこここにあった。

私は、そんな幻覚を目の前に輝くイルミネーションの中に見つめていた。

田舎からこの東京に出てきて35年が過ぎた。つくづく時間という生き物は無情に走り去って行くものだなあと、あらためて感じた。

35年前は、今のようなネットに携帯、ましてやスマホなんて想像すら出来ない世界であった。もう、記憶も薄れかかっているが、私にも確かに10代、20代、30代と若い頃があったみたいだが、なんだか他人事のような気分である。

もし、これからも元気で運が良ければ30年はあるらしいが、私は80を過ぎた時、またこんなふうに、自分の人生を振り返っているのだろうか。

明日も午後から雨というニュースに、つくづく人間は未来が気になる生き物だと考えながら駅前をあとにした。

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