第36話 変装と尾行のわけ
ファミレスのボックス席にて、加奈とその友達である
一方で、由紀の隣にいる加奈は、落ち着きなくそわそわしている。表情も硬い。
空気が重い……。
店員に注文したあと飲み物で一息ついてたときはそうじゃなかった。加奈と由紀が楽し気に会話しててさ。そのまま3人で晩飯を食べて、良い1日だったなぁ、といきたかったんだけど、そううまくいかないみたいだ。
「あのさァ」
由紀が冷めた声音で尋ねてきた。やばい、鼓動が嫌に高鳴る。
「なっ、なんだ?」
「今から……、問い詰めるで」
おい!? どんな会話だ!! さらりと怖いこというなっ!!
すると由紀がストローを手に持ち、ビシッ! と俺に突きつけてきた。思わず喉が鳴る。
「あんたは、加奈っちと……、どういう関係なんッ?」
「えっ……? 関係……?」
えっと……、それってつまり……、友達とかそういうこと?
身構えていた体が緩む。最初の問いが答えやすいもので良かった。そんなの、決まっている。友達で良いんだ、そうだろ?
「そりゃあ……、俺は加奈の、とも……」
ん……? いや、ちょっと、待て……。ほんとに、それで良いのか?
小学4、5加年生のときは、まさやんの本屋さんで、友達として遊んでいた。でも、加奈が6年生のときに引っ越してから、一度も会うことは無かった。連絡も取りあってなかったし。
それは、『友達』とは言えないような……。じゃあ、俺は……、加奈の、なんなのだろう?
目線が加奈の方へ自然と向いた。
加奈がハッとしたように驚く。ん? なんか、俺すごい見られている? 興味深げな視線が、すごく気まずい。
加奈の綺麗な黒い瞳のなかに答えがある、わけではないのに、凝視していると、
「なに加奈っちをジトーっと見てんねん!」
「うっ!?」
由紀の指摘に面食らった。そんな風に言うなよ!? は、恥ずかしいだろ!! というか、
「そ、そんなことしてないっ」
「うそつけっ! ねぇねぇ加奈っち! こいつ、いやらしい目つきしてたやんなぁ!」
「へぇっ!? あ、あははっ……! そ、そんなことな、ないと思うんだけど……?」
加奈が激しく動揺していた。お、おい! 加奈に変なこと聞くなっ!! それと加奈! はっきりと違うって答えてくれ! 俺、ほんとにいやらしい目つきしてたみたいだろ!?
すると、由紀が心配げに加奈を見つめる。
「加奈っち……! 嫌なら嫌って言わなあかんで……! またこいつに、手をいやらしく握られるでっ……!!」
「はっ、はあっ……!?」
お、俺がいつそんなことした!?
「ちょっ、ちょっと、由紀ちゃん……!?」
加奈も心当たりがないのか、慌てて由紀に詰め寄る。すると由紀は不安げに加奈を見つめた。
「だって、加奈っち……! うちがあの本屋にいるとき、こいつに手を握られてたやん!」
由紀が本屋にいるときだと……? あ、あのときか!
記憶をたどる。
黒のサングラスに、マスク、野球帽をかぶった由紀に気を取られ、加奈が帰ってきたことに気づかなくて。
加奈に声をかけられて、びっくりした俺は尻もちをついてしまったんだ。カッコ悪くも……。そしたら、加奈が手を差し伸べてくれて……。
「ゆ、由紀ちゃん!? あ、あれはねっ! わ、私が最初に、手、手を、つ、繋いだ……、うぅ……!? じゃ、じゃなくて、手、手を貸してあ、あげたのっ!! こけちゃたから!! ねっ! 太一くん!?」
「いぃ!?」
加奈がいきなり呼びかけてきた。慌てているせいか、白い頬は赤みを帯びていて、体温の熱さを目で確認できる。形の良い小さな口元は、遠慮気味に、どこか落ち着かず、小刻みに揺れている。
照れている、のか、恥ずかしがっている、のか。
やばい、俺の……、耳元が熱い。
「あ、あぁ、そうだよ。加奈が手を伸ばしてくれたから、それで、お、俺はその手を、か、かりたんだよ」
由紀が、目を冷たく細め、俺に反論する。
「そうやとしても! あんたは手を繋いだまま本屋の裏に引っ込んだやろ! うちすっごく焦ってんで! こいつ、加奈っちに何するきや!? って」
「あ、あれは、お前が怪しすぎたせいだろ!? 強盗犯みたいな格好してさ! 逃げたくもなるだろ!」
「うぐっ!? そ、そんな……、そんなことないし……!」
「「あるよ!?」」
ここは、加奈と意見があった。
「ううっ……!?」
由紀がたじろぐ。
ここしかない、反撃の糸口!!
「そもそも、なんでお前はあんな不審な格好して、俺らのバイト先、本屋に来たんだよ」
加奈と友達なら、そんなことしなくてもいいだろうし。
「そ、それは……!」
由紀が戸惑う。チラチラと加奈の方を見て、何してんだこいつ。
すると、加奈が小さくつぶやいた。
「由紀ちゃん……、私に内緒で、あとをつけてたんだね……」
「つっ!? えっ、えっと……!?」
「それで、勝手に私のバイト先、調べて……」
「うぅ……!? そ、それは!? えっと!?」
由紀が言葉に詰まる。あまりにも戸惑っているので、なんだろ、ちと可哀想にも思えるが、由紀の自業自得だから仕方ない。でも、なんで、加奈に内緒にする必要があったんだろう。
それは、加奈も同じ気持ちだったらしい。
小さな声で、由紀に問う。
「どうして、そんなことしたの……?」
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