第8話 修練からの実戦へ

「はっ!やぁっ!」

力強い声が修練場にて響く。朱華の声だ。

能力の使い方を学ぶため、戦闘の基礎を身に付けるために話の翌日からサクトとの組み手を開始した。


「気合いの割にはまだだな。腕力だけで能力が出てねぇ。これじゃこないだのチンピラくらいしか倒せねぇぞ」


打撃の一発一発は女性にしては強く重い。

だが、屈強な男一人を倒せる程度では我々が相手にしている敵には到底勝てない。

サクトの煽りに応じる様に力強く拳を突き出すが、その手には能力が通っていない。

状況や感情の変化に応じて力を発揮するタイプだろうか。

ならばやはり実戦に連れ出したほうが早いか。

そう考えたサクトは朱華の拳を受け止め、一言「はい、これまで!」と言って手を下ろした。

唐突に終了した組み手にキョトンとする朱華にサクトは実戦に行くことを伝えた。


「これからゴブリンの巣窟に向かう。ちょうど被害が報告されているところだ。お前の修行相手にうってつけだろう」

それを聞いた朱華はゴブリンに関してあまり情報がないらしく少し考えながらにわか知識を話し始めた。

「えーと…ゴブリンってあれだよね?小さめで弱めな鬼みたいな感じのモンスター?的な?」

「まぁ、そうだな。だいたいそんな感じだ」

不安感を抱きながら朱華が続ける。

「まだ全然能力とか出せてないしあたしでも勝ち目あるの?小さくても鬼なんでしょ?」

鬼だモンスターだと聞いてビビらない奴はまぁいない。

「お前の力は能力無しでも大人の男より遥かに強い。1体2体のゴブリン程度なら大丈夫だろ」

そう言って一応の銃やナイフ、刀を装備して出発した。


ゴブリンの被害状況なんかを把握しておくため、道中でスマホを取り出して確認しようとした時、朱華がテンションを上げて反応した。

「えぇ!?スマホ?スマホだよね?それ!」

ギョッとして一歩後退したサクトの手からスマホを奪ってキラキラした目でスマホを眺めている。

「いや朱華、お前スマホを知っているのか?俺がいた日本にはスマホなんてなかったぞ。もしかして…」

もしや20年先の日本にはスマホが?と尋ねようとしたサクトに朱華が満面の笑みで答えた。

「そうだよ?今の日本じゃスマホ無しの生活なんて考えらんないよ~。こっちの世界にもあるなんてまさかだよね~。マジ最高!」

ゴブリンへの緊張感は何処へやら。爆上がりとはこのことか。

朱華の笑顔は眩しいばかりである。

「とりあえず返せ。ゴブリンの被害状況を確認するところだったんだ」

サクトの言葉に一気に我に返った朱華はしぶしぶサクトにスマホを渡した。


「で、どんな感じなの?ゴブリンってどんな悪さしてるの?」

「10代、20代の女性を拐った後、暴行をくわえて犯し、数日監禁して数回同じ行為を繰り返し殺害だそうだ」

問いに答えたサクトの言葉に朱華は足を止めた。

恐怖か怒りか。その両方か。朱華の体は震えていた。

その顔を見れば一目瞭然か。

怒りが勝っていた。殺気すら感じる鋭く激しい怒り。

さてお手並み拝見といこう。

サクトは後ろをついて歩く朱華に期待しながらほくそ笑んだ。

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