第5話 安楽城朱華
安楽城朱華(あらがきしゅか)
普通の女子高生だった彼女が突然こんな異世界に放り出されたわけだから不安だっただろう。
が、これ程の跳躍力があれば…いや恐らく身体能力すべてが強化されている。
そしてそれ以外にも能力を秘めているかもしれない。
なら1週間あの山を生き延びたのも頷ける。
サクトはひとっ飛びして朱華の目の前に降り立った。
朱華は目を丸くして「あなたも!?」と驚いた。
「このくらいの跳躍は軽いな。で、ほかには?」
一応、この朱華という少女がどれほどの力を持っているのか気になって聞いてみた。
「え、能力の話?それが怪物から逃げ回っただけだから、いまいち力のことわかんないのよね。ある程度、力持ちにはなってると思うんだけど。てゆーかあなたの名前!まだ聞いてないんだけど?」
そう彼女に言われてまだ名乗っていなかったことに気づいた。
「サクト・バルザック。日本で生きてた頃の名前は羽崎朔人だよ」
朱華は「えっ…」と小さく声をあげ驚いた。
「その名前、やっぱりここ異世界?ってやつ?で、あなたは元日本人で…今は…」
「あぁ、転生してこの世界アストレアで生きている。20年前から…だ」
覚醒したのは最近だがこの肉体が誕生したのは20年前なので一応そう朱華には言っておいた。
「転生…20年。あたしとはだいぶ違うね。そっか、あたしが生まれる前にあなたはこっちに…じゃ見た目若いけど中身はおじさん?」
しんみりしたかと思えばいきなりの失言か。
確かに向こうで生きていれば四十路で彼女から見ればおじさんではあるが。死んだのは二十歳なのでギリおやじは回避だろう。
「確かにあっちの世界での時間差的に世代にだいぶズレはあるだろうがこっちじゃ3つくらいしか変わらん。おじさんは失礼じゃねぇか?」
「ごめんごめん。で、この世界で生きていくにもお金は必要よね?仕事とか紹介してくれるところある?」
朱華は軽く謝って直ぐに限りなく現実的な話に切り替えてきた。異世界転移して間もないはずだが、動揺して泣きじゃくることも向こうを恋しがることもなく最早この世界で生きていくと腹を括っているようだ。
帰りたがらないとこを見るとこいつもこいつで日本でいろいろあったのだろうか。
「仕事か。まぁ日本と変わらないくらい普通な仕事もバイトも沢山あるけど。」
ふと頭を過る。
狩人という仕事を紹介すべきか否か。
まだ未知数ではあるが先ほどの彼女の身体能力は狩で活きるのではないか。
しかし、彼女に『狩る』という行為ができるのか。
つい1週間前まで只の女子高生だったのだから危険生物とはいえ狩る、つまり殺めることなど普通ならばできないだろう。
もっとも俺の場合は裏の仕事含め即日順応していたが。
「…狩りとかできるか?」
いろいろ考えたが言ってみた。朱華の能力に興味もある。役にも立ちそうだ。
「狩り!?ゲームとかであるクエストみたいな?やりたい!」
朱華は目を輝かせて身をのり出した。
「楽しそうって感じだが命懸けだぞ?勿論、こっちも相手の命を奪うんだ。そこ理解してるか?」
俺の言葉に朱華はハッとした様子だ。
「血とかって出るよね?」「あぁ」「苦しむよね?」「あぁ」「……」
やっぱりそうなるか、と思ったら突然「よしっ!」と意を決したように朱華は声をあげた。
「その危険生物っていわゆるモンスターで人間を苦しめたり殺したりしてるんでしょ?だったら誰かが退治しなきゃ!」
朱華はそう言って拳をぶつけて気合いを入れてみせた。
あっさり結論出したな、と思いつつ彼女について考えた。
今の朱華を見てわかるのは正義感が強いこと。
まだ『狩る』ということを解りきっていないこと。
そして
本当に厄介で狩るべきなのは人間の中にこそいる。
それをまだ彼女は知らないということ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます