第180話作戦の実行

253日目


朝、指揮所で行われた軍議は予想通り現在進行形で紛糾しています。


そりゃそうさね、昨日自分はノリで言ってみた作戦が急遽実行ってダダルインさんが言い出して決めちゃったんだもんね。

指揮官クラスの人達の1/3ぐらいは反対意見、そして1/3ぐらい日和見、最後に残る1/3ぐらいが賛成…、ていうか諦めてます?

うん、多分、ダダルインさんが言い出したら聞かない人って知って諦めてる感じかな。


一時間ぐらい紛糾した軍議が続きましたが、反対派の人が一人、また一人と諦めの表情を浮かべ日和見に替わり、最終的にはダダルインさんがすべての責任を負うという形で作戦を実行する事に決まります。


歳を取ると頑固になるって言うけど、まさに頑固、論破しようとした人にも、そんなの知らんで押し通しちゃったよ…。


そう思いながら兵士の配置や攻撃方法など詳細を詰めた後、自分は一旦陣地に戻りゾルス達に指示を出した後、魔物が集結している場所に向け、サンダーウルフ達を連れて出発をします。


ラルに跨り砂漠を進みますが、砂漠ってこんなに暑いんだね…。

基本防塁の内側の陣に用意した野営用の家でダラダラするか、防塁の上をブラブラ歩いているぐらいでしたが、砂漠に足を踏み入れると、照り返しや熱風が顔や肌に当たりジリジリと焼けるような暑さを感じます。


うん、のんびりと向かおうかと思ったけど、ラルにダッシュしてもらい一気に魔物が集結してる地点の近くに向かおう、どうせ影の中で夕方まで待てば魔物にも気付かれないし、影の中なら暑くも無いし。


そんな事を思いながらアルチを先頭にラルを走らせ魔物の群れから少し離れた風下に着くと影に潜ります。


う~ん、絶対に知能ある魔物が率いてるな。

外周を四足歩行の魔物がうろつき周辺警戒をして、その内側に2足歩行の魔物、そして真ん中の方には大型の魔物が控えているし、恐らくあの真ん中あたりに指揮してる魔物が居るんだろうな。


それにしてもあそこに居る大型で二足歩行の魔物、身長は4メートルぐらいかな、腹が出て頭が丸坊主でなんがゲームに出て来るトロールのような…。

うん、未知の魔物って事だし、そのまんまでトロールと名付けよう。


そして大型で四足歩行の魔物、あれはどう表現すればいいんだ?

サイのような身体つきに異常にデカく硬そうなふくらみのある頭部、明らかにあの頭で突進してくるタイプだよな…。

名前思いつかない、とりあえずスタンプビーストとでも呼ぼうかな。


その他にも、どう考えても脚力やジャンプ力に特化したような足を持つ人型の魔物や腕力に特化したような魔物が多数、オークがオーガの群れに交じっています。


まあ唯一の救いは武器が原始的な事かな?

木の棒に石を蔦のようなもので括り付けた石斧のようなもの、魔物の骨を削っただけのような槍やナイフ、見る限り弓もあるけど雑な造りで弦も蔦を利用した物っぽいし、大型の魔物と一部に特化したような魔物にさえ気を付ければ後は数の問題だけの気がするけど…。


さて、どうやって奇襲を仕掛けるか。

そう思いながら影の中でアルチ達サンダーウルフと作戦会議をします。


とは言え、魔物の集団を襲撃して混乱させて被害を負わせる事は簡単ですが、今回は適度に被害を与えながら防塁に誘引するのが目的です。


「う~ん、軽いノリで引き受けたけど結構難しいね、配置としては、アルチとラルと自分が正面、残りのサンダーウルフ達は四方から襲撃かな」

「マサト様、それで防塁まで誘引できますか?」


そうアルチが疑問を口にします。


「まあこれで誘引できるかは不透明だけど、5方向から襲撃して被害を与えた後は自分の所に集結し、襲撃と撤退を繰り返すしか思いつかないもんね」

「確かに、でしたら我々は派手に暴れ相手の頭に血を昇らせればいいんですね」


「まあそうなるかな、とりあえず自分が広域魔法を撃ち込むから、それが止むのを合図に攻撃開始して、自分の撤退に合わせて集結かな、撤退の際はアルチに合図させるから」


しばらくアルチ達と打ち合わせをしているうちに、外は夕方になり薄暗くなって来ました。


「さて、じゃあやろうか!」


そう言って指示を出すと、サンダーウルフ達は4グループに分かれ砂漠に散っていきます。

サンダーウルフ達が風上に行って匂いが流れても同じ魔物だし特に問題は無いでしょう。


そう思いながらも自分達も影から出て魔物の群れの正面に移動します。


気付かれないかと思ったけど、遮蔽物の無い砂漠だと慎重に移動しても気づかれるもんだね…。

周囲を警戒していた四足歩行の魔物が数匹自分達の方向に走って来ます。


もういいや、始めよう!

そう心を決めて、アルチには向かって来る魔物の対処を指示し、自分はラルに乗って魔物の集団へ一気に近づきます。


魔物の群れも自分達の存在に気付いてはいましたが、まさか向かって来るとは思っていなかったのでしょう、唖然とした感じだったので簡単に近づく事が出来ました。

襲撃の合図兼、奇襲の為、右手に魔力を集め炎槍を魔物の群れに撃ち込みます。


魔物の群れの中に炎槍が突き刺さり、着弾地点を中心に業火が周囲の魔物を焼き尽くします。

広域魔法を突然撃ち込まれ攻撃された魔物達が右往左往しだしますが、そんな事は気にせず炎槍を撃ち込み続けます。


4発、5発と狙いを変えて撃ち込み続けると魔物の混乱に拍車がかかります。

6発目を撃ち込み終えた後、ラルに乗ったまま魔物の群れに突撃し馬上から魔物を数匹斬り捨て魔物達に自分の存在をアピールします。


最初は混乱していた魔物達ですが、魔法攻撃が止み炎が収まると次第に落ち着きを取り戻し襲撃をした自分に向かって来ます。


最初はバラバラに向かって来たのでラルの機動力を生かし馬上から個々に斬り捨てていきますが、しばらくすると魔物達が集団で向かって来るようになります。

ラルに指示をし、一旦距離を取り、機動力を武器に魔物の群れを翻弄し被害を与えます。


四方に散ったサンダーウルフ達も攻撃を仕掛けているのでしょう、一旦距離を取り、魔物の群れの様子を確認する密集して円陣を組んでいる感じだった魔物の群れがバラバラになって一時的に統率を失ったような感じになっています。


「アルチ、ラル、一気に中央近くまで向かって、出来る限り中央まで切り込んで撤退するよ」

「かしこまりました。」


そう指示を出すとアルチを先頭に魔物の群れの中心に向けて突撃をし、馬上から手近な魔物を斬り捨てます。

とは言え統率を失ったように見えた魔物の群れですが、中心に近づくにつれ頑強な抵抗を見せ始め、徐々に突進力が失われる感じです。


「やっぱり中心まではいけないか…。 アルチ、ラル、中心の方に炎槍を撃ち込むから即離脱で!」


そう言って炎槍を魔物の群れの中心方向に向かって投げつけて、離脱にかかります。

アルチが走りながら遠吠えをし、サンダーウルフ達に集結を指示し、ラルは一直線に砂漠を走ります。


魔物の群れの外に向かって走るラルの速度に追いつける魔物はおらず、それどころか群れの中心から離れれば離れるほど魔物達の統率が失われており、魔物達は右往左往するばかりで自分達を追って来る魔物は皆無です。


まずは挨拶がわりの襲撃が済んだから次はチョイチョイとちょっかいをかけて防塁まで誘い込む感じだけど…。

そんな事を考えながら、魔物の群れから少し離れた場所で群れの様子を伺います。


外周に居た魔物はまだ右往左往していますが中心に向かうにつれ混乱も収まり、しばらくすると魔物達も落ち着きを取り戻しこちらに対して警戒態勢を取りながらゆっくりと前進してきます。


さて、魔物の群れも動き出したから、ここからは突撃と撤退の繰り返しだな。


そう思いつつ、アルチ達サンダーウルフに突撃を指示し群れの前衛に打撃を与えては退却してを繰り返します。

流石に30匹程のサンダーウルフにちょっかいをかけられて、魔物達も頭に来たのか、それともたかが30匹程になめられるのが癪なのか、見る感じムキになった感じでサンダーウルフを追ってきます。


うん、どんどん魔物の群れが移動する速度が速くなってきた。

この分なら朝方頃には防塁に誘導できそうだな。


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