第85話 近づく安寧

 全員で塹壕に入ると、ミリスとローナが休憩をしていた。二人もかなりボロボロだが、欠損などは無かった。


「マリーちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫ですよ。大怪我はしてないです。お二人も、ご無事なようで何よりです」

「うん。ローナと一緒に行動していたからね。互いに背中を守っていたって感じ。マリーちゃん、魔力はまだある?」

「いえ、大分消耗してます」

「それじゃあ、皆の治療からしようか」


 地面に座ったマリー達(マリーのみソフィの膝に乗っている)は、ミリスとローナから治療を受ける。この戦場で、二人も回復魔法に磨きが掛かっており、細かい傷であれば治せる。

 そんなマリー達の前に、カイトが現れる。唐突に現れたので、全員驚いて肩を跳ねさせていた。


「マリー様、リリー様。魔族の軍隊は、先程の一団で終わりのようです。どうやら、後方にいた魔族達は、全て倒されておりました」

「それは、多分、先生かな。それじゃあ、ここに攻めてくる魔族は、もういないって考えていいわけ?」

「現状確認出来る事から考えれば、そのように判断して良いかと」

「そう。なら、援軍も来るし、もう大丈夫そうかな。他の戦場の確認は出来る?」

「ご命令とあらば」

「じゃあ、お願い」

「はっ!」


 カイトは、直ぐさま別の戦場の把握をしに駆け出した。


(……どのくらいで帰って来るんだろう? まぁ、私を殺そうとしていた人だし、簡単に見つけるか)


 そんな事をマリーが考えていると、他の面々が驚いていた。リリーとアイリは、マリーが平然と話している事に驚いていた



「マリー、あれは誰だ?」

「なんて言えばいいのかな? 協力者的な人」

「曖昧な答えだな」

「だって、曖昧にしか答えられないし……」


 マリーは、視線を逸らしながらそう言う。


「姫殿下が様付けは分かるけど、何でマリーちゃんも様付けなの?」


 ミリスは、マリーも様付けされていた事に違和感を覚えていた。


「えっと……私の方が上の立場だからですかね?」

「……マリーちゃんって、女王様気質?」

「いやいや!」


 マリーは、なんとかしてローナの誤解を解くために必死だった。そんなマリーを皆は微笑ましく見ていたが、アルだけは、真剣な表情をしていた。

 その後、休憩を取るために皆が移動しようとする。


「マリー、少し良いか?」

「ん? 良いよ。ソフィ、アルくんに付いていって」

『かしこまりました』


 まだ義足の調整が出来ていないので、ソフィに背負われながらアルに付いていく。あまり人のいない場所に来たアルは、真剣な表情でマリーを見る。


「マリー、先程の男は、国王の影だな?」

「そうだね。私を殺そうとしていたって、自分で言ってた。国王が亡くなったから、その命令も無くなって、私を守ろうとしたんだって。良く分からないよね」

「ん? 自分で言ったのか?」

「うん。殺すのか、守るのか、はっきりしないから、まだ信用はしてない。でも、ここまでの感じから考えると、ある程度は信じても良いかなとは思うよ」


 マリーの話を受けて、アルが考え込む。


「そうか……取り敢えず、あいつとは一人で会うな。まだ、お前を殺さないとも限らない」

「うん。基本的にソフィと一緒にいるから大丈夫だよ」

「まぁ、それで良い。ソフィ、頼んだぞ」

『お任せ下さい』


 確認も終えたので、マリー達もコハク達の元に移動する。


(上手く利用出来ているようだが、そもそもそれ自体が演技という可能性もある。マリーは、あまり油断していないつもりのようだが、この戦場に長くいたから、疲れが酷いからな。いつ油断に繋がるとも分からん。コハクかセレナに付いて貰うのも有りだな)


 さすがに、男のアルが、付きっ切りで一緒にいる訳にもいかないので、同性で頼れるであろうコハクかセレナに頼む事にしていた。

 コハク達の元に着くと、マリーは義足を外して分解を始める。


「うわぁ……」

「酷い感じ?」


 マニカの件で手伝いをして、少し興味を持ったのか、セレナがマリーの横に近づいて覗着込む。


「うん。関節の内部機構が、完全に折れちゃってる。作り直しだなぁ……」

「へぇ~、そんな簡単にできるの?」

「まぁ、ちゃんとした機構にしなければね。その結果が、これだけど……」

「今は仕方ないって事?」

「そういう事。私、作業をしてくるから。皆は、休んでて」


 マリーは、自分の作業場に移動する。その後ろから、セレナも付いてきた。


「セレナ?」

「ちょっと興味あるからさ」

「ふ~ん、セレナも作ってみる?」

「えっ!? さすがに、ここじゃ無理でしょ」

「そりゃあね。向こうに帰ってからに決まってるじゃん」


 マリーの提案に、セレナは少し考える。


「う~ん……簡単なものからなら……」

「じゃあ、決まりね。セレナも、魔道具の魅力に気付いたか」


 マリーは、上機嫌になりながら、ソフィの背中で揺られていた。そのまま作業場に来たマリーは、セレナの手も借りながら、義足の関節部分を作っていく。一時間程で、関節部分が完成した。組み立ても終わらせて、義足を装着すると、マリーは身体を伸ばす。


「ふぅ~、つっかれたぁ~」


 義足の具合を確認しつつ、立ち上がったマリーは、そのまま歩いて行ってしまう。セレナは、慌てて後を追う。


「ちょっと、マリー!? もう歩いて平気なの!?」

「大丈夫。大丈夫。問題は、関節部分だけだから。それに、他の人の義肢もメンテが必要だろうしね」

「はぁ……ソフィ、マリーを背負ってあげて。あまり負担を掛けない方が良いんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」


 結局、マリーはソフィに背負われて移動する事になった。セレナも手伝った結果、義肢のメンテナンスは、マリーの想定よりも早く終える事が出来た。

 ただ、実際に早く終えられた理由は、セレナのおかげではなく、そもそもメンテナンスをする人が格段に減っていたからだった。それだけの犠牲が出たのだと、マリーも実感する。


「気にするなよ、マリーちゃん。こうなる事も覚悟の上さ。寧ろ、マリーちゃんの義肢のおかげで、本来よりも長生きしたって方が正しいしな」

「そうだと良いんですが……」


 少し気にしているマリーの頭を、少し乱暴に撫でてから、軍人達は去って行った。


「良い人達じゃん」

「まぁね。ソフィ、戻るよ」

『かしこまりました』


 ソフィに背負われて、セレナと話ながらマリーは、コハク達がいるサイラの部屋に向かった。ここまで戦闘が終了して三時間程経過している。この間、新たな襲撃は無かった。


「あれ? アルくん達は?」

「指揮官さんと話してる。今後の動きに関しての話し合いだってさ。ザリウス先輩も一緒に行ったよ」

「そうなんだ。じゃあ、私は、今の内に寝ようかな」


 マリーは欠伸をしながら、ソフィから降りる。


「ソフィ、念のため監視をお願い。何かあれば、いつも通りに」

『かしこまりました。おやすみなさいませ』

「うん」


 マリーとソフィがそんな会話をしている間に、サイラが膝枕の準備をしていた。マリーは、何の迷いもなくサイラの太腿で眠る。リリーは、その様子を少し嫉妬しながら見ていた。

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