第56話 学院トーナメント決勝
二時間の休憩中。
「はぁ、少し疲れた……」
控え室に戻ったマリーは、ソファの上に寝転がる。ザリウスは、相変わらず同じ壁に寄りかかって、目を閉じていた。
(ザリウス先輩はずっと、あのままいるのかな?)
特に居心地が悪いわけでは無いが、少し気になっていた。だが、交流があるわけでもなかったので、直接訊く気にはなれなかった。
(まぁ、いいや。私は少し寝ておこう)
マリーは、魔法鞄から、何か金属片のようなものを取り出して、握りしめると、そのまま眠った。
マリーの寝息が聞こえ始めた瞬間、ザリウスが片目を開ける。そして、マリーが眠っていることを確認すると、また目を閉じた。
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控え室でマリーが寝ている時、観客席にアル達は、これからどうするか話していた。
「二時間もどうする? お昼ご飯食べに行く?」
コハクがそう提案する。
「そうだな。恐らく、マリーは休んでいるだろうし、そうするか」
アルの他、セレナ、アイリ、リリー、リンも了承した。そして、学院に常設されている食堂に向かった。
「マリーって、いつの間にか戦術が増えていくよね」
食堂で焼き肉定食を食べながら、セレナがそう言った。
「ほとんど魔道具が増えるとかだけどね」
コハクは野菜炒め定食を食べながら、今までのマリーの戦いを思い出す。
「創意工夫を凝らしているということだろう。魔道具一つとっても、使いどころは考えられていると思うぞ」
アルは、セレナと同じ焼き肉定食を食べ終え、温かいお茶を飲みながらそう言った。
「体術に魔法、魔道具。戦術は多種多様だしね」
「あれは、カーリー先生の教えなの?」
リンとアイリが、コハクの方を見る。それに釣られて、アル達もコハクの方を見た。
「いや、そもそも師匠が、そういう戦い方だからかな?」
コハクは、マリーと一緒にカーリーに師事している。なので、カーリーの戦いを間近で見た事も多くある。世の中に伝わるカーリーは、大魔法を使うイメージだが、実際には剣や素手、多種多様の攻撃方法を使う。主に使うのは素手になっている。
「カーリー殿は、さすがにすごいな」
「王城にも、そんな噂は来ないですわね。市井に回っている噂と同じものだけですわ」
情報のほとんどが集まると言われている王城にも、カーリーの噂が届いているが、結局噂だけなので、真実ではないものも流れている。
「まぁ、噂なんてそんなものだよ」
「あっ、そろそろ時間だし、戻っておく?」
アイリが時間を確認すると、マリーの試合まで後一時間を切っていた。
「そうだな。早めに戻っておくか」
「……いや、アルは、まだ行けそうにないね」
アルも時間を確認して、アイリに同意して闘技場に戻ろうとすると、アル達とは違う方向を見ていたリンが、そっちに指を指してアルに言った。アルは、リンが指す方向を見て、事情を察した。
「ああ、先に行っていてくれ」
皆は、アルに言われた通り先に闘技場に向かう。
「どういたしましたか? 父上」
「ああ、少し話があってな」
そこには、アルの父グラスフリートの姿があった。
「話とは?」
「お前のやろうとしていること。そして、やっていることだ」
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二時間後。
「う……う~ん……」
時間きっかりにマリーの目が覚めた。まだ若干寝ぼけてはいるが……
「熱っ!」
マリーは、手を開いて金属片を床に落とす。
「これは……失敗かな。熱より、静電気とかの方が良さそう」
「面白いな」
「!?」
いきなり部屋に響いた声に驚くマリー。マリーは、声の発生源の方を向く。
「すまん。驚かせたな」
声を発したのは、相変わらず、壁に背を付けているザリウスだった。
「いえ、こちらこそ失礼しました」
「気にしないでくれ。いつも黙っているからか、声を掛けると驚かれる。それで、その金属片は、なんなんだ?」
ザリウスは、マリーが持っていた金属片に興味を示した。
「目覚ましです」
「時間指定が出来る様だな」
「そうですね。正確には、何時何分ではなく、何時間後という設定ですが」
「それでも、便利なものだ。失敗と言っていたが、自作なのか?」
「はい」
ザリウスは初めて表情を動かし、驚いた。
「優秀なようだな。さすが、大賢者の娘ということか。かなり仕込まれているんだな」
「私自身が望んだことですから」
そこまで話したところで、控え室の扉が開いた。
「二人とも、準備はいい?」
そこから審判を務める先生が顔を出した。
「はい!」
「はい」
マリーとザリウスが先生の傍まで歩いてくる。
「そうだ。さっきまでの試合もそうだけど、上の方の専用席で、国王陛下がご覧になっているから」
先生はさらっと重要なことを言ってきた。
「陛下が……?」
「ええ、学生の頑張りを見るためにね」
「そう……ですか……」
マリーの顔が一瞬陰ったが、すぐに元に戻った。このことに先生は気が付かなかったが、ザリウスは気が付いていた。少し気になったようだが、結局訊くことはなかった。
「じゃあ、闘技場に行こうか」
先生の先導に従って、マリー達が闘技場に向かう。
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闘技場に着いたマリーが、まず初めに顔を向けたのは、アル達がいた場所だった。先程の試合までいた場所に、同じようにアル達が座っている。そして、上の方にある黒く染まっているガラス板の方を見る。
(あそこに……)
あのガラス板は、マジックミラーのようになっており、外からは中を見ることは出来ないが、あちらから闘技場内を見ることは出来る。
『これより、学院トーナメント決勝戦を行います!』
先生の声が響き渡ると同時に、マリーは我に返る。
『はじめ!』
開始と同時にザリウスが巨大な剣を持って突っ込んでくる。
「『
それに対抗するように、マリーは大きな風の壁を展開する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
ザリウスは、それを一刀両断してみせた。
「嘘でしょ!? 『
ただの一振りで、魔法を斬り裂いたザリウスに、マリーは、出し惜しみ出来る状況ではないと考え、自分の剣を、十本全てを放った。
「ふぬぁっ!!」
ザリウスは、その巨大な剣で回転斬りをする。その一振りで、マリーの剣を全て弾き飛ばしてみせた。
「!?」
十本同時の攻撃を、ザリウスは、いとも簡単に防いでみせる。
『
マリーは、靴の魔道具を使って、すぐにザリウスから距離を取る。今までの相手なら、剣を十本出した時点で、相手に向かって突っ込んでいく選択を取る。しかし、ザリウス相手に、接近戦を取るのは命取りになると考えたのだ。
(距離は詰められない。魔法の連発で攻めていく方が良さそうだね)
マリーは、ザリウスから距離を取りつつ戦う事を決めた。
「『
炎、水、風の弾が三発ずつザリウスに向かって飛んでいく。
「『
ザリウスは、自身に防御力上昇の付加魔法を掛け、剣を盾にし、魔法を受ける。
「防いだ!?」
一、二発ほど、直撃を食らっているはずだが、ザリウスは、全く応えた印象がなかった。耐えきったザリウスは、先程よりも格段に速い速度で駆けだした。
「さっきより速い!?」
マリーは、急いで剣を操り、自分の前に配置する。剣での通常攻撃は効かないので、目眩ましに使っていた。
『『
五本の電撃がマリーの剣の隙間を縫って、ザリウスに向かって飛んでいく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ザリウスは、その電撃を完全に無視して走り続ける。
「ガルシアくん以上の耐久度って事!? それなら『
マリーは、地面に手を付いて大きな地震を発生させる。マリーの目論見は、揺れによって走りにくくさせる事だった。
「はぁっ!」
ザリウスは、地震が起こると同時に前に向かってジャンプした。
「空中なら!」
マリーは、自分の前に配置していた剣を空中に飛び出したザリウスに向かって、飛ばしていく。
「ふんっ!」
ザリウスは、自由自在に飛び回るマリーの剣を、剣で弾き、柄の部分を足場にして空中を駆け回る。
「私の剣を足場に!?」
ザリウスは、十人分の攻撃に相当するマリーの剣による攻撃を、いとも容易くあしらっていく。
「強すぎ……!!」
もう既に、マリーの頭上にザリウスが飛び上がっていた。ザリウスの剣が、マリーに向かって振り下ろされる。
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マリー達の試合が始まる直前。
黒ガラスの向こう側で、国王とカイトが闘技場を見下ろしていた。
「マリーナリアと六年生の戦いか。好都合だな」
「では……」
「いつでも結界を破壊出来るようにしておけ」
「かしこまりました」
カイトは、いつでも合図を出せるように準備する。その手には、何かのボタンがあった。
「なんだ、あれは?」
「マリー様の武器ですね」
国王は、自由自在に動くマリーの剣を見て、眉を顰めていた。カイトは、野外演習の際に見ているので、特に反応していない。
「ふむ、あれでは、マリーナリアが勝ってしまうのではないか? まだ、一年生で、あの戦闘力……ちっ! 大賢者め!!」
「それは、どうでしょうか。戦闘経験などでいえば、あの上級生に分があると思いますが」
「ふん! まぁ、良い。結界の破壊は出来るのか?」
「ええ、すぐにでも」
それから、戦闘が進んで行く。そして、マリーの頭上にザリウスが移動した瞬間……
「今だ!」
国王は黒い笑みをしながら命じた。カイトもすぐに反応し、ボタンを押す。それが、結界を破壊する合図となる
「終わりだ……」
国王は、マリーが死ぬ姿を見るためか、目を大きく開いていた。
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