第67話 シュラムニケへ 2
丁度シュラムニケまでの道程の半分を過ぎた頃だった。眼下に差し渡し10里ほどの森が見えた。その小さな森全体に、いきなり蝋燭がともされたような無数の小さな魔力が浮かび上がった。
『気をつけろ、鳥形の魔物だ』
アヤトからの警告と同時に、その魔力の元である鳥形の魔物が一斉に飛び上がってきた。
「変異種だ!」
クスモが叫んだ。魔力を隠蔽していたのも上位種に変異していたからできたことだ。通常の魔物には不可能な速度で上昇してきて、あっという間に周囲はとんでもない速度で飛び回る鳥形魔物に取り囲まれた。一羽一羽は小型で大した力は持たないが、この数とスピードと、一つの群れが見事に連携して動くのは飛竜騎士にとっても脅威だ。
「上空へ逃げろ!」
声は鳥形魔物の羽ばたきの音に紛れて届かない。遠隔通話で他の飛竜騎士と飛車の御者に命令した。長剣を抜いて、私に直接ぶつかりそうな魔物だけを払いながら私も上昇するように飛竜に命じた。鳥形魔物の多くが先頭を飛んでいた私めがけて飛んでくるようだ。あっという間に目の前の透明スライムの皮で作った風防が破られた。懸命に剣を動かしたが全部を払いきれるわけもない。何羽かの魔物が私にぶつかった。ぶつかっても精々が拳の倍くらいの大きさしかない鳥だ。多少は痛いが鎧のおかげで傷は付いていない。しかし何という数だろう。
「この!」
真正面から2羽の鳥がぶつかってきた。1羽を切り落としたがその陰に隠れていたもう1羽が私の剣をすり抜けた。そして、胸の真ん中に衝撃を感じたとたん、私の意識はなくなった。
―――――――――――――――――――――――
『あの森、なんか変だよ』
アリスが進行方向に見える森を指さしてそう言った。俺は特に気にしていなかったがアリスにそう言われて注視してみた。
『そう言えば変だな。森一面がうっすらと魔力に染まっている様に見える』
『うん、いっぱい鳥形魔物がいて、隠れているみたい』
『魔力は小さいが……、いや揺らぎがあるな。魔力の隠蔽か?そうだとしたら変異種だな』
『あっ、出てきたよ』
アリスがそう言ったとたん、魔力がいきなり大きくなって、森中から無数の小さな鳥形魔物が飛び上がった。やはり変異種だ、とんでもないスピードを出している。飛竜騎士達と飛車はそれに気づいて上空へ逃れようとしたが、先頭を飛んでいた飛竜騎士隊長、アビゲイルがたちまち鳥形魔物に取り囲まれてしまった。俺は舌打ちをした。
『どうする?』
アリスの問いに、
『助けに行くぞ』
多少は知り合った人間だ、見捨てるのも後味が悪い。それに戦闘服とヘルメットを装着しているから、体当たりしか攻撃手段のない小型の鳥形魔物は俺には脅威ではない。鳥の群れに囲まれているアビゲイルの方へ向かおうとしたとき、アリスが息を飲んだ。
『隊長が墜ちてくよ!胸に鳥が当たったみたい』
アリスに指摘されてみると手足を投げ出した様な形でアビゲイルが墜ちていく。
「意識がないのか?」
飛竜騎士は飛行魔法を持っているはずだ、あんな格好で墜ちるはずがない。俺は全速で墜ちていくアビゲイルを追った。墜ちていくアビゲイルを追っていく鳥形魔物を念動ではじき飛ばしながら近づいた。
「アビゲイル!」
大声で呼びかけても反応がない。手足をだらんと弛緩させ、まるで人形が墜ちていくようだ。このままでは地面に激突する。
「つかまえるぞ」
俺は声に出して、アリスに指示した。
「体は俺が保持する、アリスは頭を支えろ!」
アビゲイルの体を俺とアリスでつかまえた高度は地表から20mもなかった。
「息をしてない」
アリスが叫んだ。俺にも抱きかかえて直ぐに分かった。森の中に空き地を見付けて、急いで地表に下ろした。アビゲイルの体を横たえても全く反応がなかった。
アリスがアビゲイルの胸に手を置いた。
「心臓震とうだよ!心筋がでたらめに動いている。電気ショックが必要だよ」
俺は魔鋼製のナイフを抜いた。アビゲイルの鎧を服ごと切り裂く。その下に着込んでいる鎖帷子と下着も切った。ポロンと形の良い乳房がこぼれ出る。鎖帷子をアビゲイルの体の下から抜き取った。ベスト型で袖がないので手早く済んだ。電気ショックを与えるのに体が金属に触れているとまずい。
アビゲイルが墜ちたのに気づいた飛竜騎士が降りてきた。すぐ側に着陸すると、
「何をする、アビゲイル様を辱めるつもりか!?」
女騎士の方だ。
「離れろ!」
剣を振りかぶった。俺は念動で女騎士の動きを止めた。吃驚したような顔で固まっている。カランと剣が墜ちた。俺はアリスの方を振り向いて、
「やれ」
アリスが左手をアビゲイルの右の鎖骨に、右手を左の乳房の外側下に当てた。
「下がって!」
アリスが言って、俺がアビゲイルから離れたことを確かめて、両手の間に電流を流した。アビゲイルの体が反り返る。そして、横たわったアビゲイルの裸の胸が規則的に上下し始めた。頬に赤みがさす。その変化は女騎士にも分かったようだ。女騎士の目から涙がこぼれた。アビゲイルの目が開いた。
「アビゲイル様!」
女騎士が叫んで、アビゲイルがその方を向いた。
「オーヴェリア、私は一体?」
この女騎士、オーヴェリアと言ったんだ、紹介されたが忘れていた。俺は女騎士の拘束を解いた。女騎士がアビゲイルのところへ走っていって抱きついた。
「よかった。アビゲイル様、よかった」
アビゲイルに抱きついたまま、女騎士は泣き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます