第57話 悪夢の贄 3
4人の飛竜騎士はあっけにとられた顔で、俺が近くまで戻って着地するのを見ていた。
「吃驚しているみたいだな」
「そうだね、多分こんな高威力の魔法を見たのは初めてなんだと思うよ」
「魔法だけじゃないんだがな」
「だって、彼らには区別できないんだもの、ロケット砲も魔法だと思っているよ。吃驚させておけばいいんじゃない」
アリスと小声で喋りながらアビゲイルの方へ近づいた。俺が近づくに従って飛竜騎士達の緊張が高まった。魔法杖を固く握りしめている。アンディなど、顔が蒼くなっている。さすがにアビゲイルは隊長だけあってそこまで緊張はしていない。
「さて、これであの洞窟にいた魔物はほぼ全滅させたと思うんだが」
アビゲイルが頷いた。
「多分そうだろう。あんな攻撃を受けて生き延びる魔物がいるとも思えないから。でも
「今は無理だ、入れば蒸し焼きになる」
熱気が洞窟から吹き出している。それにロケット弾と発火の魔法で洞窟内の酸素を使い切ったはずだ。換気しなければ入ったとたん窒息してしまう。火だけではなく、酸素不足でも魔物を殺すつもりだった。いくら魔物と言え、生きている限りは酸素を必要とする。枝道にいてロケット弾や発火魔法の攻撃から逸れていても酸素不足からは逃げられない。
「わ、分かった。明日にしよう。夜が明けて直ぐからでいいかな?」
「ん?俺は確認に入るが、あんた達もわざわざ来るのか?」
変異種昆虫型魔物の
「我々も魔物を生み出していた所を見ておきたい」
アビゲイルも同じ事を思っているようだ。
「そうか、まあ、明日には内部の熱も下がっているだろうから構わないが……、あんた達、水中で活動できるような装備か魔法は持っているか?」
アビゲイルがきょとんとした顔をした。
「水中で?活動?何のことだ」
「たたき込んだ発火の魔法で洞窟内部の酸素を使い尽くしている。そのまま入ると死ぬぞ」
「酸素?」
そうか、そこから説明しなければならないか。
「冬の寒いときに、閉め切った狭い部屋で火を焚いていると死んだりするだろう?」
これは正確には酸素不足ではなく一酸化炭素中毒だが、閉所で火を燃やすことの危険性を説明できればそれでいい。ランダスが頷いているから理解したのだろう。
「いや、そんな道具も魔法も持ってない」
そのランダスが俺の質問に答えた。俺はため息をついた。
「仕方がない、俺が用意してやる。何人だ?」
「そんなものがあるか?」
「水に潜るための道具だな。空気を水中に持って行くためのものだ」
「そんなことができるのか?」
「ああ、俺たちの間ではよく使われる道具だ」
俺が頷いた。アビゲイルがまだ多少の不審を表情に浮かべたまま、
「とりあえず、この4人で頼みたい」
俺の背嚢にも、テディの背嚢にも潜水用のボンベが入っている。大樹海にある湖に住む水棲の魔物も居るからだ。わざわざ水に潜ってまで捕獲したい魔物が多いわけではないが、どんな拍子に水棲の魔物とやり合う事態にならないとも限らない。だから用意だけはしているわけだ。
口にくわえる筒の両横に長さが10cmの圧縮ボンベが付いている簡易型で、小さいため3時間ほどしか保たない。全部で5個あった。俺には必要ないからこれで足りる。ただ時間的にはどうか?洞窟がやたら広かったり、何かで手間取ることがあったりしたら時間切れになる可能性もある。そこは慎重にやらなければならないが、まあ、すこし中に入ってから判断すればいいか。
竜騎士4人はヤルガへ帰り、俺は崖の上の平地で夜営した。
次の日、夜が明けて俺が朝食を済ました頃、4騎の飛竜騎士が飛んできた。相変わらずアリスは軍用携帯食には興味を示さない。用意するのが一番簡単だから俺は食っているが、アリスにとっては不味くはない、というだけでは駄目なのだろう。
この世界は基本的に夜明けから日没までを活動時間としている。蝋燭のような灯りはあるし、魔法でも灯りを得られるものの、灯りを贅沢に灯せるなんて贅沢は庶民には手が届かないことだ。事情は貴族階級でも同じで、暗い時間に何かをするのは特別なことだった。この時間に飛竜騎士が来たと言うことはまだ暗い内にヤルガを出発したと言うことになり、彼らのこのことにかける熱意が表れていた。
近づいてきた4人を俺は立ち上がって迎えた。
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