即決しても主人公じゃない
え、俺が死んだのを見たとかではなく、俺を殺しているのか?混乱する頭で何が起こっているのかと思考を巡らせようとしたが、諦めた。というか、レイがそうさせてきた。
「後で話す。今はゴリラと話すことだけ考えるべきだよ。」
…そうだ、ここはとりあえずゴリラの質問に答えてこいつの意図を探ろう。えっと、死ぬってどんな感じなのか?死ぬまでは痛いが、『死』だけで考えると…。
「眠る時とそんなに変わらないんじゃないかな。」
その瞬間神妙な表情から一転、レイが吹きだした。俺から顔を背けて笑いをこらえているのがわかる。なんだ、面白いことなど言っていないと思うが…。また俺を騙したのだろか。
「そうか…。」
ほっとしたように、盃の酒を流し込むゴリラ。かっこつけているが、やせ我慢していると思うと笑えるな。ゴリラはそれ以上は何も言わずに、ボーっと足元を眺めていたが、俺の盃が空になっているのを見て、どうだ、もう一杯、と声をかけてきた。
「ありがとう、でも今日はもう寝るよ。」
ゴリラが俺を殺していたとはな。今のやり取りからは少し、懺悔のような何かを感じ取れなくもなかったが…。一時期ウッキーとして生きていたこともあり、ゴリラのことは身内とまではいかないが、親近感がわいていたので少し残念だ。
ビーク監獄へと向かう道中、俺はレイに話しかけた。今日はゴリラ同様、最後になるかもしれないと、ほとんどの者がビーク監獄から出て酒場に集まっているのを確認していたからだ。
「ゴリラはなんで俺を殺したんだ?」
俺は片付けられることのない、ビーク監獄の看守たちの骸から目を背けるように、俺の上を飛ぶレイを見上げる。『亡霊』は同じ囚人の死体は墓に運んだが、敵の死体は放置していた。やるなら徹底的に、か。
「多分間違えて。あの時ソーンの首を飛ばしたのはゴリラ本人だよ。」
あの時?というか首を飛ばされた記憶自体ないのだが。…もしかしてビーク監獄に連れてこられた時か?いつもと違い、一瞬で意識が飛んだからわからなかったが、首を飛ばされたのだとしたら、納得もいくような気がする。
んー…そういえば俺が目を覚ました時にゴリラが妙なことを言っていたような気がする。『本当に目を覚ました』だったか?
「ワンに言って頭をくっつけるよう頼んだんだけど、本当にくっつくとは…。」
俺をぬいぐるみか何かだと思っているのだろうか?というか、俺はどうやったら死ぬんだ?急所であるべき頭でも死なないって…。こうなってくるとリルレットの言っていたことが引っかかる。この体で完全じゃないというのはどういうことだろうか?
俺は再び視線を落とし、死体に目を向ける。もしかしたらあの時点で俺も、彼らの横に転がっていたかもしれないのか。そう考えると、ゾッとする。
「手錠以外って…手錠をしている人は殺すなって指示じゃなかったのか?」
「だから間違えたんだって。ゴリラ以外の人はソーンがあの時死んだって知らない。ゴリラも首をくっつけた後は気絶させたと言って誤魔化してた。」
間違えて人を殺すなよ…。俺がたまたま死なないからよかったが、探していたルベル本人だったら死んでいたぞ。
「そういえば、ビル達はなんの目的でルベルを探しているんだ?」
俺をルベルと間違えた理由はなんとなくわかる。そもそも軍服達が捕まえようとしたのがルベルであり、俺はルベルに濡れ衣を着せられて拘束されたから。つまり、『亡霊』は軍服に捕まったであろうルベルを取り返そうとしたのだろう。
では、なぜルベルを探していたのか?軍服達同様、墓荒らしが原因というわけではあるまい。
「その前に、ソーンは『亡霊』について何か知ってるよね?なんで隠したの?」
どういうことだ?
「なんのことだ?『亡霊』については本当に何も知らない。」
隠したところで何もメリットはないしな。しかし俺の気持ちは届かなかったようで、ご機嫌斜めになってしまった。めんどくさいな…。
「なんでそう思ったんだ?」
口を固く閉じたまま、意地を張るレイ。こちらに目は向けるが、自分で気づけと言わんばかりにそっぽを向いてしまった。埒が明かなそうだ。俺は面倒になり適当に話を合わせることにした。
「言う必要がないから隠したんだ。そのうち機会があれば話すけど、隠していたことは謝るよ。ごめんね。」
俺が立ち止まって軽く頭を下げると、目を細めながら顔を覗き込んできた。こういう、向こうが見透かした気になっていた時は意地を張らずに、お見事、といってやる。こちらが手玉に取っているのにも気づかず、相手の嘘を見抜いてやったと浮かれて許してくれるからだ。
レイはやれやれといった感じでため息をつくと、やっと口を開いた。本当にやれやれだよ。
「今回の戦いはものすごいことになると思う。」
大国であるブルムが関わる戦いなのだから当然だ。レイが言うにはそれに加えて、ゴリラのような世話係を任されるような動物ですら…間違えた、人間ですら、勝利を確信するほどの戦力が『亡霊』にあることも理由なんだとか。
言ってしまえば、ブルムとブルム以上の戦力のぶつかり合い。なるほど、とんでもないことになりそうだ。
「それを見届ける義務が私たちにはあると思わない?」
レイが唇を舐めて、俺が考える暇もなく
「歴史的瞬間になるはず。それに、ソーンの探してる子がそこに居たら死んじゃうかもよ?」
ああ、そういえばそんな目標もあったな。確かに、1、2を争うほどの大国なのだから、あの子がいてもおかしくないか。
「明日、こっそり戦いに参加しない?」
飲み会の後に二人きりの二次会でも誘うかのようなノリで、彼女は俺を死地へ誘う。実際に飲みの誘いであったならば、断っていただろう。あんなものを誰が好んで飲むものか。
だが、死なない体なのだ。死地の方がいくらかましであると、即座に頷く。
「わかった。参加しよう。」
誘われた時点で答えは決まっていた。迷うことなど一切ない。
なぜって?
俺は優柔不断ではなく冷静だからだ。
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