見惚れるのは主人公じゃない
薪割りをした後、いつもの場所に薪を重ねる。俺がここで生活をするうえでの仕事の一つだ。食事のスキルはないので技術のいらない薪割りを一任された。実は薪は既にあるのだが、湯を沸かすタイミングで薪を割らないといけない場合、条件によっては湯を沸かせなくなる。
例えば雨の場合。薪は乾かさないと燃えない。魔法を使えばよいが、今の俺は使えない。そしてそのことをルベルとレイには隠している。毎朝ばれないように魔法陣を書いてはいるが、どこまでごまかせるやら。公園のベンチで愛妻弁当を食っている気分だ。
ルベルには働き者と言われたし、不自然に思われてはいないようだ。レイはというと、薪割りを見るのがつまらないのか、薪割りの度にどこかへ消えてしまう。まあ終わるころには疲れた様子で帰ってくるからいいのだが。
しかし、今日はいつもよりも帰りが遅い。俺の近くにいないと家の中に入れないのにどこへ行ってしまったのやら。俺がどうしたものかとその場に座り込むと、レイが森の中から嬉しそうに現れた。
何やらいつも以上に上機嫌であり嬉しそうだ。不安…いや、何でもない。
「ソーン!こっちに来て!やっと見つけたの!!」
興奮のあまり腕を振る姿は、普通に愛らしいな。性格のため台無しになっているが、レイは普通に美人だ。いっそのこと発見しかない新たな世界に転生したかったものだ。
「すぐ行く。」
俺が言われるがままに森の中を歩いて行く。早く見せたいと焦り先走りつつ、俺が道なき道を進めているかと心配そうに振り返る姿、こいつこんなにかわいかったのか。何だろう、キラキラのどんぐりでも見つけたのだろうか。
雰囲気を台無しにしまいと蜘蛛の巣を斧で叩き切り、俺なりに頑張って歩みを進めていると、何も開けていない木々の中でレイがこちらを向きながらニコニコしている。
「じゃーん!」
そういいながら横にずれたレイの後ろには、これまた目がちかちかするような、ひと際存在感を放つ、一般的に言う警戒色を携えた植物が生えていた。思わす顔を歪めそうになるが、レイのどや顔を見てとりあえず鼻を掻いてごまかす。
「見たことないな。珍しいのか?」
本心だ。こんなもののために歩かせたのか?などという童貞臭いことは口が裂けても言えない。いや、言わない。俺がそんなこと思うはずがないだろ。
「これで1000ぐらいいけるかな…。」
花はなく、赤に青と黒の斑点模様が特徴的なアロエに似た植物。何が1000なのだろう?金だろうか?1000円ということはあるまい。ならば1000万円?
俺が説明を待っていると、見せるだけで満足したのか俺の視線に微笑みかけてくる。あれ、誰だこの可愛らしいお嬢さんは。レイがいなくなった?あいつどこ行った?
「ああ、ごめん、これは…これはそう、寝れないって言ってたよね。これでよく眠れるようになるよ。」
なるほど。1000とは回数のことか。俺は確かに埋められた後、眠ることができなくなっていた。愚者の呪いだとも考えていたのでここ一週間欠かさずに愚者の墓にもお参りをしていたのだ。俺を寝かせてくれ、と。
結果、効果はなく不眠不休で今日まで。いや、もしかしたら、ワンの失った記憶が俺を寝かせないようにしているのかもしれないな…。そんな馬鹿げた話はさておき、レイは俺のために薪割りの時間に睡眠薬を探しに行ってくれていたのか。
「あ…ありがとう。」
感謝の気持ちを伝える語彙が少なすぎて絶望する。そういえば何とかしてくれるって棺の中で言っていたような気がするな。それにレイの苦労と喜びよう。なんだろう、いっきに愛おしく思えてくる。
「何?照れてる?だから童貞なんだよ。」
く…何も言えない。というか、今は実用的なプレゼントを与えてくれたレイに感謝しかないため、無視して周りの雑草を抜いていく。
「普通に抜いて持って帰って大丈夫?」
「うん。あと使うときね。そのままじゃ使えないから干物にして水に溶かして飲んで。あと他の人には…」
「ああ、わかった、隠しておくよ。」
ワンはまだしも、ルベルはこの植物について当然の如く知っていそうだ。場所がわかっていても、来るのに一苦労したレベルなのだ。おそらく見つけるのが大変な代物。そんなものどうやって見つけたか問われれば、面倒なことこの上ない。
折角のレイからのプレゼントだ。大事に俺だけで使わせてもらう。
特に袋とか持参してこなかったため、肩にかけていた土だらけのシャツでくるむ。まあ隠す意味でもちょうどいいな。
毒々しいと表現できる植物は、触ると斑点模様が動き、まるで虫のようだった。気持ち悪い…。見えなかった葉の裏側は真っ黄色でキノコの傘のようだった。少しぬめっているのもマイナスポイント過ぎる。植物が全力で採取を拒んできているのが伝わる。これ本当に食べて大丈夫だろうな…?
俺が嫌そうにしていると、レイはより一層嬉しそうに笑っていた。俺の不幸でも笑うし、俺の幸福でも笑うレイは、今だけ天使のようで、つられてにやけてしまった。
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