墓参りするのは主人じゃない
「毎日毎日ご苦労なことで。」
俺が墓参りに向かう途中でレイが嬉しそうにぼやく。
「一応話を聞き終わるまでは、ブライとよりを戻したいと思わせないと。」
俺は周囲の警戒をすることなく口を開く。レイから話し出したのだ。周りに人の気配はないのだろう。
「でもわざわざ本当に行くこともない。」
まあ確かにと足が止まる。俺は水が入ってそこそこ重いバケツを眺め、必要のない苦労について考える。正直者が馬鹿を見る、ね。
「今まで実際に向かってたんだし、何かあった時話が食い違わない。それに本当に行っていた方が嘘をつかなくて済む。」
俺は無理矢理自分を正当化し馬鹿ではないと主張するが、お構いなしに満足そうな笑みを浮かべるレイ。
「もう少し早く言えばよかったかね?」
俺は無視して歩き出す。道のりは丁度半分といったところか。割と長い道を眺めながらため息をつく。こいつがいなくなって不安になっていた俺が馬鹿らしい。こいつは敵だ、本当に破れてしまえ。
今向かっているのは俺の墓のある墓地だ。連れていかれたのは墓荒らしこと、ルベルの隠れ家であった。隠れ家と本人は言っていたが実際は設備の悪い研究所という印象。
「君は、か…ブライさ…と知り合いなんだよね?」
「本当は神…ブライさんと恋仲であったことを隠しているんだろう?」
「仲良くしようじゃないか!私も死刑囚君と永遠を誓おうじゃないか!」
ルベルはブライを神と断言する気違いであった。神と崇めているというより、尊敬の念が強い…いや、どうなのだろう。何か他の必死さを…まあいいか。ご飯くれるし。
ルベルは声を容易に変化させることや、生活の節々から俺より魔法への理解があることはすぐに分かった。多分というかご主人に匹敵するレベルの魔法使い。そう、こいつも例外なく『超越』について研究していると思う。
「研究資料?見てもわからないと思うし、頭に入ってることをわざわざ書くのって必要なの?」
その割にはブライについての資料は充実しすぎていた。当然直筆の、おそらく聞き込みで得た情報もあり、その中に俺の体験したことを記述している最中。神と言っている割に神のことは頭に入ってこないようだ。
俺はブライの情報を与え、向こうは生活を与えてくれる。
生活するうえで、研究室に入らないことが条件として出されていて、レイが覗こうとしたが、強力なお守りがあるのか侵入できなかったようだ。俺が与えられた部屋は狭いが、居心地は悪くない。ベットと机があり、机にはどんぐりがおいてあった。
「キラキラできれいだろ?思わず拾ったんだけど、捨てるのもなんだかもったいないから、空き部屋に置いておいたんだ。欲しいならあげるよ。」
俺はどんぐりを探しながら歩くが見当たらない。ここらへんで拾ったのではないようだ。どんぐりを探しながら歩いていると、道のわきに倒れている木に目がいく。
魔法にも限度があり、人に対してならまだしも、それ以上の物質に対して効果を及ぼすのは相当の魔力か技量が必要だ。俺の腕の長さ以上はある木を魔法で倒すなどもっての外。
魔力が宿っているいないだとかそういう難しい話は置いておき、そんなこと常識の範囲である。そのため、この木をなぎ倒す、また、床や壁に当然のごとく穴をあける魔法を使うレイは凄腕の魔法使いだったのだろう。
「え、できないの?」
訂正、非常識の化け物である。
俺が全裸で、知り合ったばかりのルベルの後をついて行っている時だ。そう、生まれたばかりの子供もこの仕打ちを受けていたのだろうと、泣きそうになっている時だ。突然前方で聞き覚えのある爆発音とともに木が倒れたのだ。
それを見たルベルは一目散に走り出す。俺はというと、急所を隠しながら走るのは難しいためゆっくり後を追う。今思うと、ルベルはレイの魔法をブライのものかもしれないと考えて走り出したのかもしれないな。
「止まって!」
俺が振り返ると疲れた様子のレイがいた。心なしか薄くなっている気がする。薄くというか、存在感がなくなっていたのだけど。
話を聞いたところ、ルベルに近づけないらしい。彼を中心に半径20m。何かしらの力が働くらしい。
「ああ、これだよ。確かに墓地行くの怖いし、幽霊とかも。だからこの破魔の…お守りを持ってるんだ。」
まあ幽霊だしそうだろうけどこいつは魔ということだ。なにやら少し気分がいい。俺もお守り欲しいな。レイはお守りがあっても俺の体に憑りついていれば大丈夫らしい。
「ソーンといれば性質上、普通にしていられるから気にしないで。」
棺を開けたとき俺から離れすぎたため消えかけたらしい。それで薄くなっていたが、今はしぼんでいた風船に空気を入れたかのようにふわふわ浮いている。
やっと墓が見えてきた。
墓参りは流れで行くことになった。
「ブライの話に食いついてきてない?試しにブライと寝たことあるっていってみてよ。」
まあ嘘ではないし、レイが楽しそうだったので話してみた。
「そ、うなんだ、まあ、うん。そうだな。とりあえず着るものがないと困るでしょう。これ。」
目に見えて嬉しそうな反面困惑し、動揺を隠しきれていなかった。そこで、ブライが自分の墓参りに来るかもしれないから、毎日自分の墓に向かわせてくれと話をつけたのだ。
一見メリットはない無駄な苦労に見えるかもしれない。だが、そんなことはない。絶対だ。例えば、拠点を中心にこのあたりの散策をする口実を得たし、仮にルベルがやばいやつでも逃げることができる機会を得たということだ。
レイは、俺が言われたことをそのまま実行するのがあまり気に食わないようだった。
「少しは自分の言葉にしたり考えたりしろよ…。」
まあオウムになっていたのは認める。
墓につくと自分の墓周り掃除をしながら整える。落ち葉を払ったり、雑草を抜いたり、花を飾ったり。供物は早々にかたずけ、すぐ近くにもう一つの墓を建てた。
いくら可哀そうでもさすがに自分を殺した男。本当は作るつもりはなかったのだが、最初の墓参りのみルベルがついてきたのだ。
そのため、自分の浮気相手を蔑ろにするわけにもいかず、セカンドを俺の墓の傍にに供養してあげたということだ。
まあ折角なのでそちらにも毎回墓参りをしていたりする。
だいぶ血の汚れが取れてきたな。ごしごし
ここに毎日墓参りしていたら本当にブライと合流してしまうのではないだろうか。レイはあまり気にしていないようだが、俺はレイの言葉を気にしてブライと行動することをやめた。もし合流した場合どうすればいいのやら。
レイは棺で目を覚ました時からか、とてもご機嫌だ。たまに俺の行動に愚痴をこぼすが、楽しそうにしている。今も俺が俺の墓参りしているのがツボらしくクスクス笑っている。何が面白いのかわからないが、悪い気はしない。俺の視線に気づくと、何?と首をかしげるレイ。
「いや…。明日はお供え物を持ってくるか。」
「それは楽しみだ。」
立ち上がると同時に、背後から声がする。レイはうわ、と嫌悪感全開の声をあげた。振り返ると、地面から何者かの手が突き出していた。
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