恋愛物語の主人公じゃない
朝、荒い息遣いに目を覚ますと、レイが涎を垂らし興奮していた。まさかと思い跳ね起きようとした俺を待っていたのは、丸太のように太い腕でガッチリとホールドされピクリとも動けない現状だった。
痛くはなくどこか優しさを感じる…じゃなくて。俺は暴れようとして、少し思考を巡らせる。暴れたらこのままひと捻りまでないか?これ以上の悪化はだめだ。落ち着いて現状再確認。
ズボンははいている。ブライは寝ているようだ。床は冷たいし割と悪い気がしない。が、レイを見て居心地が悪くなる。レイ…お前そんなに汚い顔ができたんだな。
「…っ!」
落ち着こうとしたが、恐怖に負けて息をのむ。大丈夫、まだ慌てる時間じゃないはずだ。こんな恐怖死ぬことに比べれば大したこと…あるかも。死ぬときは一瞬だ。しかし今は…。
俺の呼吸に反応してブライの瞼がぴくっとし、俺の恐怖をよそにあくびをしながら起き上がる。朝は弱いというより、早く起きたため眠いのだろう。あっけなく解放されてしまったが、恐怖のあまり動けない。強姦など、襲われているときは怖くて逃げられないというのは迷信だと思っていた。俺って腰抜け…。
「ふあぁ…おはよ…。」
寝ぼけているようでまだボーっとしている。でかい図体のくせに服がはだけようとしたのか、服の首の穴から肩が窮屈そうに出ている。目に見える方が強烈すぎて、ぶかぶかのパジャマの少女に脳内変換できない。ブライは色黒のおっさんであると脳が明確に認知している。
というかここは?俺の寝床?ブライが夜中に潜り込んできたようだ。
どう攻める?いや、あっちの意味じゃなくて、言葉攻め?隠語に聞こえて仕方ない。とりあえずこの刹那、俺は寝起きの頭に鞭を打ち思考を加速させる…!
何も気にしない感じでおはよう返し?明日もされるのはごめんだ。…いや、寒くないし添い寝ぐらい…。いやだめだ。レイが目障りである。
ならば、俺の寝床に来たことを怒
「…おはよ。」
しまった、自分のスペックを高く見積もりすぎてしまった。間に耐えきれず第一候補が、デメリットを無視して俺の口から具現化してしまった。
加えて現状を拍車をかけたのは、俺の静かなおはようだ。どこか照れ隠しにも受け取られかねない、何も始まってないのに二回戦が始まりそうな代物だった。
「え…っ!!?」
すると、ブライは俺が自分の懐にいることに驚愕し、人間とは思えない速度で距離をとり勢い余って壁に激突する。うわ…壁にひび入ってない?
「な、なんで?なんで私のベッドに…いや、私が死刑囚ちゃんのベッドにいた?まさか…!?」
いやないし。引きずり込むわけない。俺の行動選択肢にそれがあることについて異議を唱えたい。え、どうして?完全に
なお顔を赤らめもじもじする姿は、素でやっているようにしか見えない時点で素直に拍手するとともに同情をする。驚いたのに声が低くならなかったことにも。お前は生まれる性別を間違えたようだ。
「ねえ、なんかいいなさい!」
照れながら怒っている。意外なのはブライが夜這してきたのではないことと、俺を強引に襲うつもりはないことだった。二つ目に関してはむしろ逆で、俺から襲われるのではないかと気にしていたようにも見える。
ていうかブライは服が少しはだけているだけで何かした形跡はないと思うんだが、こいつは何に顔を赤くしているのだ?
…。
めんどくさいな。このままでいいか。
「特にいうことはないかな。」
ブライは声にならない声を上げて自分の寝床に逃げ、体育座りしながら両手で頬を挟んでいる。俺は眠くなりあくびをするが、外からの冷たい風に目が覚め二の腕をこする。さむいな。
ある程度狭い空間でこの情報量は勘弁してほしい。多量の情報の一部である、声を殺していたレイは興奮が収まりつつあるようだ。こういうのに否定的ではないが、自身がネタにされているのは勘弁してほしいものだ。
目に焼き付けよう。
ブライの背中には傷一つない。もっとうるさそうで傲慢なおっさんにブライの肉体を与えるべきだったと、壁にはいった大きなひび割れを見て思うのだった。
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