美少女じゃないから主人公じゃない
ブチブチ。
雑草を抜くような音が聞こえて俺は目を覚ます。傍らを見ると、そこにはなんと超絶可愛い美少女…!というわけではないが、おおよそ普通より可愛い方に部類する女性がいた。
愛嬌があって可愛らしくはあるが…。まあ、悪く言わなければブスや男じゃない。しかし、見るべきは行動であった。硬く縛られた紐をせっせと切ってくれてるのだ。
俺は声をかけるべきか迷ったが、気まずくなりそうだったし、そこまで話したいと思わなかったので敢えて目を閉じた。
しばらくすると、右腕から左腕に移る女性。俺はゆっくり目を開ける。どうやら既に足の拘束は解いてあるようだ。窮屈な感じがしない。右手の拘束も切ってもらえたようだし、残すは左手だけだな。
俺は目を半分閉じて頑張る彼女を密かに応援していた時事件が起こった。
「んーめんどくさいな。もう切っちゃうか。」
めんどくさい?切っちゃう?どういうことだろうか?普通は3/4まで終わっていたらめんどくさいよりあと少しっておも
「痛っ!」
ちょっと、考えてる途中じゃん。彼女は驚いて俺の左手首に切り込みを入れている包丁から手を離す。いや俺が驚かせたみたいになってるけど俺の方が驚いたし。
「…え、なんで?」
「…え、なんで?」
彼女が驚きに満ちた顔で尻餅をつく。俺は思わず同じ言葉で聞き返してしまう。包丁が落ち金属音が響くと思ったが、木の板に突き刺さるドスッという少し重い音が聞こえるだけだった。丁度今の空気ぐらいの音だ。
どんな心優しい人かと思ったらとんだサイコパス女だったようだ。俺は切り込みの入った左手首を押さえて、出血を抑える。なんか普通に痛いし。ガッツリ切られてるし。
「だってあなた、死んでたじゃん!」
え、そうなの?そういえば餓死してたような気もするな。いや、死んでるからって人の死体で遊ぶのよくないでしょ。
「多分生き返った。」
彼女と俺は互いに混乱していたが、俺の方が支離滅裂なのかもしれないと思った。
暫く間が空き、彼女はキッと目を細くして眉間にシワを寄せる。
「まあ生き返ったとしても私がいたんじゃ意味なかったかな。また生き返れるといいね。」
え、急にサイコじゃん。この流れって俺殺される?俺は少し身構えるが、そんな俺を気にも留めずに通り過ぎ窓を開ける。彼女の目もくれない行為に俺は思わず引き止めてしまう。
「まって、名前は?」
そんなサバサバされたら少し傷つく。一期一会って知ってる?一応3/4助けてもらった身であるのは確かだ。1/4は切られかけたけど殺意はないようだし。
俺は引き留めようと手を伸ばす仕草をとってしまう。彼女は俺の言葉に対し、こちらを向かずに足を止めてくれた。
「あなた、名前は?」
いや、さきに聞いたの俺なのに…。名前…。俺は自分の名前をいうのをなぜか拒み、というか自分から言うのが不服ってのもあるけど。しかし、自分の名前を言いたいという衝動を抑えられず結果、とんでもないアンサーを叩き出してしまう。
「僕の名前はウッキー。」
彼女は振り向き動揺している俺を見て吹き出す。先ほどからムッとしていたせいもあるが、笑顔を見て何故かほっとしてしまった。
「名前は?」
「生き返れるのでしょ?そしたら聞きに来るといいかな。」
どういう意味だ?ていうかその話方はちょっと…ありだな。彼女の微笑んだ顔の威力は凄まじく、窓から入ってくる光も相まって俺をぶち抜いた。
可愛い。
「じゃあね、ゾンビのウッキー。」
彼女は再び外へと歩き出してしまう。俺は行ってしまう彼女に何か言わないとと思い、衝動に任せて柄にもなく叫んでしまうのだった。
「僕はゾンビじゃなくて猿だ!」
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