第1章 放浪系主人公
猿は主人公じゃない
俺はどうやら転生してしまったようだが、転生場所は考えて欲しいものだ。
世界観は前と同じかわからないが、少なくとも魔法は使えた。おかげでこんな山奥にいるのにまだ生きていられる。
俺の体は少しだけ若く、前の俺よりヒョロイが一般的な男の体へと変わっていた。なんか知らん奴の体を動かしているみたいで気持ち悪いが、悪く言わなければ他人事のように物事を運べて気が楽だった。
俺は異世界転生主人公になってしまったのだろうか?
とりあえず下山し、集落というか、他の人との接触を図ることにした。幸運なことにそこまで時間はかからなかった。
遠くにいかにもな文明の遅れた集落が見えたのだ。俺が無双してしまうというシナリオが見え隠れしてしまう。
俺は他に集落がないかと探したところ、少し奥の方に明らかに時代錯誤な文明の片鱗が見えた。なぜ山奥にビルが建っている。時空でも歪んでいるのか?
あっちはあっちでやだな。ここ数日の野宿の成果として小汚い格好になった俺が、どんな扱いをされることか。猿といって石を投げられても文句は言えまい。
仕方ないからとりあえず猿山の王になってからあの文明に接触を試みるとするか。
「あ、見ろ!猿だ猿!」
「それ、石投げろ!」
俺は間一髪逃げることに成功した。まさか
「あら、服を着るお猿さんとは珍しいわね。」
え、俺ってもしかして猿に転生してる?ふと顔を上げると絶世の美女とまではいかないまあまあな女が立っていた。
注目すべきはその格好。先に言うが裸ではない。
「ウキキ!」
俺が返事をすると、目を細めるまあまあな女。なぜか俺を自分の家に匿ってくれることになった。優しいな。
「あなたは何者なの?」
「ウキ!ウキウキ!」
俺もよくわかっていないので、しばらく猿の真似をして様子を見ることにした。
女はどうやら魔法使いのようだった。それっぽい家に住み、俺を外の犬小屋のようなところで飼っていた。不満に思えなくもなかったが、ダサいが清潔な服や、ご飯の時は外で食べてるのを見てくれてるので悪い気はしなかった。
毎日何かの研究に明け暮れ、小さな悲鳴を上げていた。俺はその間に鏡を作って俺が猿かどうか確かめることに躍起になっていた。
ある日少し大きな爆発が起き、家の窓から紙の資料が外にばらまかれた。俺はすかさず拾い集める。
「ありがとう、ウッキー。」
「うぃ。」
俺は1週間の間ウキしか言わなかったためウッキーと呼ばれていた。このあと俺は拾い集める最中に、きっと、資料が目に入り彼女の研究内容を知り、多分、ここから物語が発展していくのだろうと考えた。
敢えてギリギリまで、目を通さない。返すときにたまたま目に入り驚愕することになるのだ。
俺は驚愕した。ここ、彼女の研究がすごく浅ましくて俺が教える立場になって、教祖ウッキーみたいになる展開じゃないの?
彼女は俺の知識の及ばない、かろうじて何をしているかわかるレベルの研究をしていた。主席とまではいかないが頭のいい方であったため少しショックを受ける。『超越』に近しい時空間に関するものだ。
俺が庭で作っていた鏡をみて、なんで猿如きがこんな高等魔法を!?という展開になるかもとせっせと作っていたのに、これでは魔法使いのペットの猿が庭で遊んでるだけの構図になってしまった。
主人公になると心の中で考えていたのに、まさか猿のままでこの話が終わるとは…。俺は先程やっと作り終えた鏡をみて、思わず呟くのだった。
「全然猿じゃないじゃん…。」
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