フミノノオト
榊文乃
第1話 タンポポ
やれやれと重い腰を持ち上げて草むしりに取り掛かる。予報では秋晴れと言っていたはずなのにどんよりとした空気。小さな庭は荒れている。小まめに手入れをするのが苦手だ。
手袋はしない。素手がよい。
大きく育った雑草たちは根元をもち踏ん張りながら抜く。根っ子がするりと抜ける。パラパラと乾いた土がこぼれる。蔦のような絡み付く草を強引にひっぱる。ぶちぶちと音が切れる。ピンと上にむかって伸びる草は指先に力を集中させる。一気にいくのがコツだ。
大方の取り易いのを終える。残すはあのしつこい奴らだ。地面を這うように葉を広げている。
たんぽぽが…なんていうと可愛らしくもあるが、なかなかどうしてしぶとさの塊。抜いても根は残るし綿毛になって無数の種を飛ばす。生命力が逞しい。だから種が生き残ってるんだ。
強いね。君たちは。
なにかと雑音の多い一日のほんの数時間、無心に草をむしるのも悪くない。青臭いにおいと爪の中まで黒い指を石鹸で洗う。一回じゃ落ちない。何度も洗って薄まった黒は、嫌じゃなくて少しだけの達成感みたいな。
今は気になっているだけで忘れ去られる感情。
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