僕は君と踊る夢を見る
沖世みのり 様作
あらすじ引用
光神ユーウィスの拓きし国ルクウンジュ。
ルクウンジュ王都に住むメールソー・ラウールとリオンヌ・オリヴィエは、サン・ポワティエ学院幼年部時代からの同級生だった。
メールソー子爵家当主のラウールはメールソー商会の若き社長として世に知られ、オリヴィエはその彼を支える良き補佐役だ。
けれど彼らの間には世間には知られていない絆があった。
ある出来事をきっかけに、彼らは自分たちの『嘘』のために膠着してしまったその絆を見つめ直す。
【あらすじ・物語について】
主人公が社長室へ赴くと、主は霧雨が降っているにも関わらず窓を開けたまま、長椅子で仮眠をしていた。そこから明かされていく、国の情勢と彼の最近の事情。その後、二人の出会いなどが語られていく。
この物語は二人が結ばれるまでではなく、二人の想いが一つになっていくことから展開されていく。主人公の友人であり雇い主が、主人公を夜会へ”連れて行く”という話から過去にあったことや、隠してきた気持ちなどが明かされていくのである。結ばれるところから始まる物語。タイトルに年代が記されていることから、過去のエピソードなども描かれていくようだ。
【登場人物について】
中等部二年の時、あることがきっかけで親友以上の関係となる。
主人公であるオリヴィエは、元々感情を表に出さない世渡り上手なタイプだった。しかし、ラウールに対してだけは変化が訪れる。
彼に出会うまでは、誰とでも(固定ではなくという意味合いであり、誰でもいいということではないが)情事を重ねるような人物であり、相手に対し執着はなかった。そんな自分自身を周りがどんな風に感じているのか? どう思っているのかは、冷静に把握している印象。しかしあることをきっかけに、変わっていく。それほどに彼にとってラウールは特別だったと言える。
手放したくない相手であるにも関わらず、社会人となってからは彼の大切にしているもの(家)を優先、尊重し一歩引いた状態で彼を支えていく。我を通さず、立場を弁え自分の気持ちを犠牲にするなど、それが出来るのは愛あってのことだと思われる。ただ、周りは主人公の方針に賛成はしていない様だ。ちゃんとしたポストで、彼を支えて欲しいという期待があったと言える。
【良い点(箇条書き)】
・言葉の選び方が美しく、表現も綺麗である。その為、優雅さを感じる。
・主人公がどれほど彼に夢中になったのか、心情や行動から伝わって来る。
・ジャンルはBLであり、BLの要素(男性同士が恋愛をする前提のジャンル)を持ってはいるものの、ヒューマンドラマ主体であると感じた。
・言動などの描写や心情などが丁寧であり、舞台である世界観も細かく設定されている。
・BLというジャンルにありがちな同性間恋愛に対する偏見描写がなく、どちらかと言うと男女ではなく一人一人の”人間”という印象なので、とても読みやすい物語だと感じた。
・焦点が二人に合っている為、全体では登場人物が多いようには感じるが、分かりやすい。
【物語の感想】
身分のある世界観が舞台ではあるが、同性だから結ばれない、身分違いだから結ばれないということではなく、主人公の想い人は家を守るため(繁栄)に子孫を残さなくてはならない使命があるように感じた。その為には女性と婚姻し
なくてはならず、主人公もそれを望んでいる印象を受ける。
心に秘め傍で支えるというのは、深い愛がなくては難しい。人は身勝手な生き物だ。このような境遇の場合、自分の愛を突き通す者もいれば諦めて他の人に目を向ける人もいるだろう。しかし主人公の気持ちは変わらなかった。例え結ばれることがなくても、一生尽くそうとしている。なかなかでできることではないと感じた。
*33ページまで拝読
【物語全体の見どころ】
一話では過去の話しが出てくる。その場で終わりではなく、その時のエピソードは別の話にて詳しく描かれていく。この作品には番外編もあり、他の人物視点から語られていく物語もあれば、秘めた想いが明かされていく物語もある。
一番の見どころは、主人公の変化にあると感じた。彼がラウールの意外な一面を知り、それまでの苦手意識が払拭されるどころか、彼に陶酔していく。しかもその陶酔の仕方は自分勝手なものではなく、彼の意志も尊重するものであった。相手を想うからこそ、大切だからこそ自分を犠牲にできる。しかし周りの望むものと、自分の行動には溝(隔たりや差)がある。
彼が許さなくてはならないのは、自分自身なのかも知れないと感じた。それは罪や罰のようなものではなく、一線を超えたり、望んではいけないと思い込んでいることからの解放という意味合いだ。
そして彼らは、心が結ばれるところから始まっていくのである。その後に続くエピソードは、周りのもどかしい気持ちや、二人の過去などである。魅力の詰まった物語だと感じた。
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