第29話 幸運
4月6日。始業式。それと、入学式。
「何それ、妹?」
「!」
式終わりで、ホームルームの前の時間に。真愛ちゃんから届いた写真を開いていたら、声を掛けられた。今回2年生になって初めて一緒のクラスになった奴だ。
「うん。今日は入学式でさ」
「へえ。ってか神藤妹居たんだ? あれ、じゃあこれお母さん? 若すぎね?」
「あー。えーっと。姪、になるのかな」
「ねーちゃん居んのかよ! てか仲良さそう! 良いなあ! 俺もねーちゃん居んだけどさあ、マジムカつくんだよな」
「そんなこと言うなよ家族に」
「は?」
あ、しまった。普通、家族は割りと貶すのか。
難しいな。
「てか神藤のねーちゃん美人すぎんだろ!」
「えっ」
「なになに、神藤のねーちゃん?」
「えっ。神藤くんの美人姉? 写真?」
「見せろ見せろ」
「ちょ……」
しまった。何故か目立った。僕じゃなくて、真愛ちゃんが。
クラスはもう殆ど知らない人だし。なんでこういきなり話し掛けられるんだろう。それとも僕が間違ってるのかな。こうやって友達を作るのが普通なのかな。写真はきっかけのひとつに過ぎなくて。
「やべー! マジ美人じゃん! 紹介してくれよ!」
「バカかおめー結婚してんだろが」
「いやしてないけど」
「おっ?」
「いやバカかっておめー。歳の差考えろ」
「えーっと、8個上かな」
「諦めろ」
「なぬーっ」
だとしたら。
「まあいいや。なあ神藤、これから俺達新クラスよろしくパーティやるんだけど来ね? まあカラオケなんだけど」
「……カラオケ行ったことないんだよ僕」
「マジか! 天然記念物かよ。よっしゃ来い! 教えてやんよ。おーいお前ら、神藤は参加だ!」
「声でかいって川上。分かったから、神藤くんの番号聞いといてよ」
真愛ちゃんのお陰で友達ができたかもしれない。
——
——
——
——
優愛は、わたしの両親。つまり祖父母の記憶は殆ど無い。
「おいたん!」
「おっ? 優愛ちゃん。俺のこと覚えてたか。おいたんってなんだ?」
「お帰りなさい勝重さん。いや、呼び方確かにどうしよっかなって思いまして」
「ふむ」
勝重さんと明海さんをおじいちゃんおばあちゃんにするのは流石に悪い。そもそも私の弟にシゲくんと、その妹に優愛で、優愛が私の娘ってのが無理がある。整合性が無いというか。
「明海さんは、おばさん。勝重さんをおじさん、というのが妥協点かなと思って。明海さんには、ちょっと悪い気がしますけど」
「ふむ。まあそんなもんだろ。パパとか呼ばれても微妙に気まずいしな」
「あ。パパママは無いです。これわたしの拘りなんですけど」
「んー。確かに優愛ちゃん、『おかあさん』だな。へえ、どうして?」
「おかあさん!」
勝重さんは優愛を抱き上げる。わたしはバッグを預かる。
「まあ、なんとなくですね。わたしの実家がそうだったので」
「なんとなくかあ。そう言えば実家ってどこなんだ?」
「○○県です」
「遠いなあまた」
「もう、帰るつもりもありませんけどね」
「いや、行こう」
「えっ」
勝重さんは。結構行動力がある。あと発言の予想ができない。
「君達ふたりを預かってるんだ。一度挨拶しとかないとな」
「いっ。いやいや。いーですってそんなの。わたし優愛に悪い影響だって思って出たんですよ? もう事実上縁切ってますから。電話も繋がらないし」
「いや、行こう。ケジメは付けないとな。【家族】全員で」
「っ!」
「……この前の正月は、真愛ちゃん達に俺達の故郷を見てもらったからさ。今度は」
「ぅ。…………分かりました。けどほんと、どうなるか分かりませんよ? 優愛をろくでなしの子とか言った人達ですからね」
「ああ。それも含めて。ケジメだ」
「…………分かりましたけど」
お正月に、久和瀬に連れていって貰ったことは忘れない。勝重さんが。明海さんが。誰よりシゲくんが。わたし達を【家族】と断言して。敷居を跨いだ。それに対して。
勝重さんのお父さんも。明海さんのご両親も、ご姉妹のご家族も。皆、心から受け入れてくれた。もともと、根回しはしていたんだろうけど。
勝重さんと明海さんがそもそも、変わった経緯で結婚したというのもあるけど。
あの時、わたし達は本当の意味で、【家族】として迎えられたと思ったんだ。
だから、今更わたしの実家に行くのは。ちょっと、抵抗があるけど。
「おかえり父さん。手洗いうがいきちんとしなよ」
「おうシゲ。母さんは?」
「寝室だよ。呼んできて父さん。もう結構お腹、大きくなってるよ」
「任せろ!」
「うるさい勝重さん」
「ごめんなさい……」
明海さんの妊娠が発覚したのは、1月だ。まあ、そういうことなんだろうね。喜ばしい。世間的には高齢出産だけど、無事に産まれてきて欲しい。だってこのふたりにとって、初めての、お互いの血を引く子供なんだもん。絶対可愛い。いくつになってもラブラブな夫婦って、羨ましい。優愛も小学校上がったし、わたしもそろそろ相手見付けようかな。シゲくんに見て貰ったら信用できるかどうか分かりそう。なんてね。
「真愛ちゃんの実家? 良いね、行こう」
「ちょっ……。シゲくんまで。わたしにとって割りとトラウマなんだって話したよね」
「うん。だから克服しに行こう」
「!」
「大丈夫。僕が……じゃなくて。僕らが居るよ」
「…………うん」
こんな頼もしい弟ができたことは。その家族に迎え入れて貰ったことは。
わたしの人生で最大の幸運だと言えるよ。
ありがとう。
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