第25話 家族会議
「今日くらい食べて行かないの? 明日にはもう出るんでしょう?」
「済まない。本社近く(こっち)に来ると連絡したら久々に食事しようと同期が」
「……唐下さん達ね。仕方ないわねもう。……貴方はまだまだ、仕事人間なのね」
「これから変えていく。だが今日だけ許してくれ。異動願いも出す。本社に戻れるように。またこの家で暮らせるように、さ」
「はいはい。行ってらっしゃい」
家に着くなり、父さんがまた出掛けた。車は置いてるから、帰っては来るんだろう。だけど夕食は一緒に食べられないらしい。父さん、こういうところなんだけどなあ。
しょうがないから、母さんと悠太を連れて買い物だ。父さん抜きで。まあ別に良いけど。いきなりベタベタ家に居つくようになってもそれはそれで違和感あるし。
「行ってきます。母さん」
「もう」
いや、ベタベタしてるわ。奥に16の息子が居ると言うのに。急にイチャイチャし始めて、なんだよ。新婚か。まあ気分は似たようなものかもしれないけど。あ、そう言えば新婚旅行とか無かったんだよな。式も挙げてないらしい。そりゃ、家族が亡くなった直後だもんなあ。そんなことがあって、久和瀬には帰りづらかったのか。
弟か妹が、近々できるらしい。知らないけど。
取り敢えず僕は、帰ってきたことを真愛ちゃんに報告する。正直真愛ちゃんが夕方のバイトを辞めたなら、僕が優愛の面倒を見る必要はあるかどうかなんだけど。僕が優愛と遊びたいからな。
——
いつもは、仕事中でなければ一瞬で既読されて返信が来るのに。
1時間経っても、真愛ちゃんから反応が無かった。
18時33分。ちょっと遅くなったけど、そろそろ夕飯ができて、母さんが呼びに来るだろう頃合いに。
「お父さん? 随分早く——」
「ああただいま。済まんがシゲも呼んでくれ。家族会議だ」
「えっ?」
玄関から声が聴こえた。
「……お邪魔、します」
真愛ちゃんの声が。
——
——
リビングにて。ウチのテーブルは大きいから、皆で着いても狭くない。父さんと母さんと僕と、真愛ちゃん。悠太は母さんの膝。優愛は隣のソファに座ってぬり絵を始めた。
「……まず俺から時系列を話そう」
母さんが全員分のお茶を淹れたけど、誰も手を付けない。
「俺は同期達と駅で待ち合わせて、一緒に呑む為に、繁華街へ向かった。その途中の路地で、ひとりで居る相原さんを見付けたんだ」
繁華街。真愛ちゃんは何の用でそこに居たんだろう。こんな時間に。優愛は、居なかったのか。どうして。
「で、余りにも暗い顔をしていたから声を掛けた。話を聞いてみると、面接に来たと」
面接。新しいバイトかな。
「そこが割りと『いかがわしい』店だったから、辞めさせてここへ連れてきた。道中優愛ちゃんを迎えに行ってな」
「!」
見ると。
確かに真愛ちゃんは、どこか思い詰めたような顔をしている。何があったんだろう。
「……これは、俺からしたら他人様のことで。おせっかいどころか無遠慮で、相原さんからしたら失礼で迷惑なことだ」
「そんなことは……」
「だがシゲ」
「!」
「お前が、彼女を『家族』と言うのであれば。看過できないことだと思ったから連れてきた訳だ」
「………………真愛ちゃん」
「……うん」
父さんは割りと強引だ。だけど、真愛ちゃんは拒絶もできた筈。
「……何があったの? いや、何かあったの?」
「………………」
「新しくバイトをしなければならないとしたらさ。僕にも責任が」
僕のせいで、真愛ちゃんは夕方のバイトを辞めることになったんだ。そのせいで『いかがわしい』バイトをしなければならなくなったのだとしたら。それは僕のせいだ。
なんとかしたい。
「……シゲくんのせいじゃないよ。それは絶対。シゲくんが悪いなんてことは絶対ない」
「だけど」
「……俺と母さんは、席を外そうか」
「…………」
僕には、事情を話してくれると思う。それは確かにそうだ。母さんはまだしも父さんとは、会うのも2度目だろうし、繊細な話はしにくい筈だ。
「……真愛さん」
「っ!」
母さんが、真愛ちゃんの手を取った。
「ちょうど今日、貴女の話をしていたのよ。貴女のお陰で、私達家族がひとつになれたと。ねえ重明」
「……うん」
「え……」
その言葉に、顔を上げて母さんと目を合わせて。僕と父さんを見た。父さんも頷いた。
「貴女は重明にとって、とても大きい存在なの。勿論優愛ちゃんも。だから真愛さん。貴女が困っているなら力になりたいのよ」
「…………明海さん……っ」
力強く頷く。真愛ちゃんが困ってる?
助けるに決まってる。当然だ。だって僕と真愛ちゃんが姉弟だったから。母さんは母親だし父さんは父親なんだ。そう、胸を張れるんだから。
「………………っ」
何かを、言いかけて。口を動かす真愛ちゃん。だけど言葉に、声にならない。まだ、言おうか迷っているんだ。
「全て言いなさい」
母さんが催促する。
「……ぅ。迷惑、を」
「掛けなさい」
「!」
言葉は、強めだけど。言い方や声のトーンは優しく。手を、強く握ったまま。
「貴女は私の話を聞いてくれて、私の心配をしてくれた。だから私に、貴女の心配をさせなさい」
「……ぅ……っ」
真愛ちゃんはもう泣きそうだった。限界だったんだと見て分かる。
……優愛が、こっちのテーブルの方を気にしてない『振り』をしているのが、僕には分かった。
「…………お金は、もともと無いけど。今度……家が、無くなります……」
「!!」
後から後から。分かる。僕は、恵まれてるんだと。何を悩んでいたんだと。
真愛ちゃんと見ると。胸が苦しくなる。
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