さらさらヘアーの女子ですが

 廊下ですれ違った女子は、肩までかかった黒髪を、神々しいまでにさらさらとたなびかせていた。

 その清純ぶりに、僕は人生で類を見ないほどの衝撃を受けた。

 あれだけさらさらした髪の毛の女子と付き合えたら、どれだけ幸せなんだろう。


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 翌日僕は、掃除終わりに道具をロッカーに片付けていた。

 ロッカーの扉を閉じたところで、彼女が歩いてきた。

 僕の存在などハナから知らないかのように、理科室へ入っていく。

 一旦部屋に入ってから、周囲をキョロキョロとうかがった。


 そのたびにさらさらとした髪の毛が輝かしく揺れる。

 可愛い。

 ピュアだ。

 そして綺麗だ。


 彼女が理科室のドアを閉めると、そこには素敵なオーラの名残りが漂っていた。

 でもどうして彼女はわざわざ放課後に理科室に入ったんだ。

 僕の大好きなヘアスタイルのタイプと、謎の行動という二重の意味で、僕は気になった。


 彼女にバレると気まずいから、忍び足で理科室の入口に近づく。

 そのとき、室内から水が流れる音がした。

 理科室の入口の向こう側にある面は、水道が一面に延びていたはず。


 彼女は一体何をやっているんだ。

 気になる気持ちを抑えきれずに、こっそり少しだけ扉を開き、右目をこらした。


「私は、オデューサだ」

 のぞきはじめるなり、彼女は清純なイメージをすべて吹っ飛ばすかのように、威勢よく語っていた。

 ただその理科室にいるのは、さらさらヘアーの彼女一人だけだ。

 一体彼女の目の前には誰がいるというのだ。


「覚悟しろ。私と目が合ったものは、すべてベーグルビーストと化す。人間としての理性は立ち消え、パンのようなおいしいニオイを振りまきながら、この学園にいる者すべてを襲ってしまうのだ! ハーハッハッハッハッハッ!」


 ベーグルビーストの意味がさっぱりわからないが、とにかく僕が見た彼女の姿は、恐ろしかった。

「誰かが私の姿を見ているな」

 彼女の言葉に、僕はドキッとした。


 さらさらヘアーの女子は、唐突に僕がのぞいていた方を振り向いてきた。

 僕はベーグルビーストになるまいと、とっさに理科室から離れ、同じ階の自分の教室まで逃げ帰った。さいわいにも彼女の恐ろしい表情は見ていない。


 みんなが帰った教室のなかで、僕は恐怖から立ち直るべく息を整えた。

 少し落ち着くと、あらためて彼女の姿がくっきりと記憶によみがえる。


 あんな可愛い彼女に、人をベーグルビーストに変える一面があったなんて。

 ……という設定の中二病なんだろうけど。


 でも、そんなところもさらさらヘアーと相まって愛おしいと思うと、なんかちょっと楽しみで少し笑えてきた。

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