クラスメートの金運が上がったみたい

「駿平、見ろよ」

 机に頭をもたげていたら、突如クラスメートの蓮が肩を軽く叩いていた。自分の世界の奥深くに入りかけていたのを、一瞬で現実に引き戻された気分だ。


「これ、何か分かる?」

 蓮は自慢げに、右手首に巻かれたものを見せてきた。それは茶色に妖しく輝く珠と、普通の透明な珠が交互に連なるブレスレットだった。

「よく分からないんだけど」

「茶色いのはタイガーアイだよ」

 蓮は当たり前のように語ってきた。


「コイツをつけたその日から、俺は金運に恵まれた人生を始められたってわけ」

「金運アップ?」

 ということは、要するにこのブレスレットはパワーストーンでできている。タイガーアイもその一種で、蓮の金運を引き上げるわけか。


「よく見とけよ。これからどんどん大金持ちになっていくから」

「冗談はよせよ。まだ俺たち、高校2年生だぞ?」

「そんなもん分かんないだろ」

 蓮は少し不機嫌な表情になる。


「運気は大人から子どもまで誰にでも訪れるものだ。だからこのパワーストーンのブレスレットを着けた僕には、どんどんお金がやってくるってこと。どういうきっかけでお金をもらえるかは別としてね」

 どういうきっかけでお金がもらえるかは別? その少し無責任めいた言葉が、僕には物騒に感じられた。


「いくらパワーストーンをつけていても、高校生がそんな簡単にお金を増やせるわけないだろ」

「本当に信じないやつだなあ」

 またも蓮が不満げに口をすぼめる。

「何だよ、その顔」


「とりあえず、3カ月後、よく見といてよ」

 蓮はそう言い残すと、僕のもとから離れていった。このときから3カ月後は、確か夏休み明けの9月1日である。一体それまでに何が起きているのか、僕には想像もできない。僕は見えない答えに脳を支配されながら、しばらく何もない机を見つめるしかなかった。


---


 迎えた9月1日。

 このときまでなぜか僕の頭の片隅には、タイガーアイのブレスレットをつけた蓮の姿が消えることはなかった。


 朝の教室に来るなり、僕は蓮の座席を見てみたが、そこは空席だった。

 アイツの結果を知りたいけど、いつ明らかになるか分からない状況で、胸が軽くむずがゆかった。そんな感じのまま、僕は静かに自分の席に着いた。


 担任の星野先生が教室に来るなり、あらためて蓮がいるはずの座席を確かめてみた。そこに彼の姿はない。カゼでもひいたのか。

「はい、静かに」

 先生の声で教室が静まるのに合わせ、僕も教壇の方を向いた。


「今日は2学期初日ですが、いきなり残念なお知らせをしなければなりません」

 星野先生がいきなり神妙なトーンで切り出した。

「うちのクラスの矢本蓮が、8月31日に逮捕されました」

 その発表に、僕は体の中心を稲妻に貫かれた気分になった。あいつの所持金がどれだけ増えたかという関心も、跡形もなく消えた。


「みんな最後まで聞いてくれ。矢本蓮は……」

 そこで星野先生は言葉を詰まらせたが、大きく息を吸い込んで、覚悟を決めたように続けた。

「この3カ月間、地元の不良仲間と一緒に空き巣20件、ひったくり25件、振り込め詐欺14件、カツアゲ11件、合計800万円相当の被害を出した」


 僕は生きた心地がしなかった。

 アイツが金運アイテムを味方に、お金を稼ぐのではなく、盗むのに成功しまくっていたのか。

 蓮の狂気を知り、僕は目の前が真っ白になった。

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