第133話 新たなる脅威

「そろそろ……次の場所に着くわね」

「二代目にはまだ馬車は荷が重かったな……」

「絶対寿命縮んだわオレ……」


 いつもシオンに馬車を任せっきりだった為、その負担を減らせればと、リンが馬車を代わってみたのだが……。


「アニキ落ち込んじゃあダメですよ 人には向き不向きがあるんですから」


 結果、適正無しの判断が下される。


「なんでも最初っから上手くいくわけないから」

「まさか次もリン殿がやるのでござるか!?」

「ええとねリン……気持ちは嬉しいんだけど今のままで私大丈夫かなって」

(やんわり断られた)


 リンに技術が身につくよりも、周りの身が持たないと判断されたのだろう、申し訳なさそうにシオンに断られるリン。


「まあシオンもこう言ってるんだし今のままでいんじゃあないですか?」

「任せたぜシオン」

「お前らの向上心の無さは何なんだ」


 そうは言うが、どれだけ酷かったかは全員ぐったりしているこの惨状が物語っている。


 向かっている『ド・ワーフ』への道程はまだ先である。『アイススポット』からすぐに向かう筈だったが、『トールプリズン』壊滅の情報を受けて先にそちらに向かった為、ド・ワーフへは遠回りした事となった。


「次はギルド街だったはずよ 今の世界状況なら魔王軍の有益な情報も流れてるかも」

「そうである事を願うでござる おそらく魔王が力をつけたことでより一層被害が増えるでござろう」


 これから一体どうなるのか、それを知る術は無い。


「それじゃあ着き次第情報を……」

「助けてくれえええええ!」


 突如聖剣使い一行の耳に、助けを求める悲鳴が聞こえた。


「あぁ? 盗賊にでも襲われてんのかねぇ」

「呑気に行ってる場合じゃないさそうだなぁ?」

「ここは助けるのが……正義の味方ってやつでござろう?」

「正義の味方をしてるつもりは無い……ただまあ一度視界に入ったら目障りだからな」

「素直に助けたいって言いなさいよ」


 悲鳴が聞こえた方向に馬を走らせる。そこには複数の盗賊と思われる輩に、荷車が襲われていた。


「助けてくれ! 命だけは!」

「排除シマス──排除シマス」

「排除されるのはお前だ」

 駆けつけたリンが荷車を襲う盗賊を蹴り飛ばす。


「まず一人 あとは降伏する事をお勧めするが?」

「──敵兵反応ヲ確認 排除シマス」

「なんか言ってますよアニキ?」


「いやそれどころか……さっきのヤツ効いてなかったみたいだぜ二代目?」


 無言で何事も無かったかのように、蹴り飛ばされた男は立ち上がる。


「優先順位変更 目標捕捉」

「流石は聖剣使い様だぁ 手加減してたとはな?」

(様子が変だ……ただの賊って訳じゃ無いのか?)


 とりあえず武器構えず体術のみで相手をするリン。


「レイとチビル 避難は任せたぞ」

「了解!」

「任せな!」

「そんじゃまあ人助けといくかぁ」

「人数もレイ殿が抜ければ丁度いい感じでござるか」


 今戦えるのはレイを除けば五人。五対五となる。


「みんな油断しないでね コイツら普通じゃあ無いみたい」

「魔王に比べりゃあ楽勝さ」

「油断大敵……だろ」


 先程吹き飛ばした男にとどめ与えるために、鋭い拳の一撃が放たれる。


「反応速度──向上」

「なっ!?」


 決まったと思った一撃は、容易に受け止められ、代わりに強烈なカウンターが返ってくる。


「損傷軽微 追撃実行」

(やっぱりこいつら何かカラクリが!?)


 咄嗟に土の賢者の石『ガイアペイン』の力を借り、身体を硬化させる事でなんとか免れたが、そうしていなければおそらく骨は折られていた。


「思ってたよりコイツらやるじゃあねぇか! 楽しませてもらおうかぁ!?」

「どうやら一筋縄にはいきそうに無いでござるな」


 雷迅の拳を難なく躱すと、的確に隙をつかれる。アヤカが振るう木刀も、ギリギリのところで掴まれ、片手で折られた。


「ちょっと!? 想像以上に強いじゃ無いコイツら!?」

「しかもなんだってコイツら無駄に耐久力高いな……」


 同様にシオンとムロウも苦戦している。全員実力は相当ある筈なのだが、たかだか盗賊に追い詰められ始めていた。


「もういい……理屈はわからないがお前らが強い事は良くわかった」


 手に氷の賢者の石を実体化させ、聖剣『アイスゾルダート』へと姿を変える。


「最終警告だ……大人しく降伏しろ 命だけは勘弁してやる」


 この盗賊が魔王軍かどうかまでは不明だが、手加減していてはこの状況を変えられないとリンは判断する。


「排除シマス 排除シマス」

「……よしわかった 死ぬ準備だけはしておけ」


 聖剣は更に姿を変える・・・・・・・


「形態変化……槌式つちしき『アイスゾルダート』!」


 その言葉に反応し、聖剣は氷の大槌へと姿を変える。リンの扱う聖剣のもう一つの剣の形である。


「『冷氷鉄槌れいひょうてっつい』」


 地面に大槌を叩きつけると、相手目掛けて氷が迫る。


「そのまま凍れ」


 その言葉通りに全身が氷に覆われ、凍結される。


「これでどうかしら!」


 シオンが扱う水の魔法で、地面から噴き出す水柱が噴き上げ一掃する。


「おい蒼髪! オレの獲物だったろうが!」

「これでいいの! 得体の知れない相手とは長く戦わないに限るわ」

「なんとも不気味でござったな〜」


 天高く噴き上がっていた盗賊がドサリと、地面に落ちてきた。流石に死んではいなくとも、意識は失っているだろうとシオンは近づく。


「!? まだだ嬢ちゃん! 近くな!」

「え?」


 再び何事も無かったかのように起き上がる盗賊が、シオンに掴みかかる。


「随分手癖の悪い盗賊じゃあねぇか」


 シオンを掴む盗賊の眉間に、銃弾がヒットする。

それはレイが放った弾丸だった。


「あっありがとうレイ……」


「フン! どうせ生捕りにして情報聞こうとしてたんだろ? 手加減しすぎだぜ」


「どうやら今回ばかりはこのゾンビ集団に手加減はダメって事だな」


 リンは確信する。この盗賊の正体を。


 先程リンが凍りつかせた盗賊が、内側から氷を溶かし始めていた。

 それどころか、同じくシオンが倒した盗賊も、レイが撃ち抜いた盗賊も、顔色一つ変えず立ち上がる。


「げっ!? どうなってんだよアレ!」


「排除……シマス」


「コイツら全員……粉々に『ぶっ壊す』必要があるみたいだな」


 氷から抜け出した男の口から、銃口・・を覗かせている。そこから炎を出し、抜け出したのだ。


「『氷裁撃鉄ひょうさいげきてつ』」


 盗賊の真上から大槌を振り下ろし、木っ端微塵に破壊する・・・・


「容赦なく全部潰せ コイツらは……『機械』だ」


 飛び散るのは肉片で無く機械の破片。強さの秘密に何らかのカラクリがあると踏んでいたリンだったが、なんて事はない。


 正真正銘の『カラクリ人間』だったのだ。


「そうとわかりゃあ簡単だぜ!」


 シオンが放った水の魔法でできた水溜りを通して、雷迅が機械の盗賊へと電流を流し、ショートさせた。


「ハーハッハッハ! 今度こそ一掃完了!」

(まさかコイツら……魔王軍の?)


 なんとか状況を切り抜けた一行だったが、早速新たな脅威の洗礼を受ける事となった。

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