第88話 修行の成果

「こんにちわ〜……よかった! まだ始まってないのね!」


「おお シオンの嬢ちゃんか」


「ムロウさん? いらしてたんですね」


 リンがアヤカの弟子になってから、二週間が経過していた。


 シオンがリンを心配して道場を訪れると、そこにはすでに先客がいた。


「まあな暇だったんでちょいと様子見にな 嬢ちゃんはいつも来てんのかい?」


「いえ 今日が初めてです 邪魔しちゃあ悪いだろうなと思って……レイは毎日来てるみたいですけど」


 今はまだ来てはいないがレイはいつもの日課の如く、リンに会いに来ている。


 が、応援がうるさいとかでいつも途中で追い出されているとかなんとか。


「契約のおかげで離れていても会話ができるんです なので寝る前にはいつも調子は聞いてたから心配とかは……」


「お〜お〜健気だなぁ〜 リンの奴ぁ生粋の女ったらしいと見たね」


「べっ! 別に私はそんなんじゃあないです! 私が勝手にやってる事だしあの子いつも不機嫌そうだし嫌味も言ってくるしこの前も『毎日俺に連絡する必要あるか?』とか言ってきてリンってば愛想とかデリカシーがあんまりないんですよ!」


「おっおう……」


「でもなんだかんだで優しいところがあって『無理はするなよ』とかふとした時そう言ってくれるところとかはちょっとだけ良いな〜とか思わなくなくはないんですけど……まとめると心配なだけです! ほんの少しだけ!」


(この娘大丈夫かなぁ……)


 とても早口でシオンはムロウに向けて必死に弁明するが、要するに気になる・・・・らしい。


 これでリンに対しての気持ちを隠しているつもりなのだから、もうあえて何も言わず、ムロウは黙っててあげる事にした。


「それはそうとリンですよリン! ちゃんと強くなってるのかちゃんと見ておきましょう!」


「おりゃあそのつもりで来たんだからな 言われるまでもねえさね けど嬢ちゃん 安心して良いと思うぜ?」


「え?」


「おっ! これはこれはシオン殿! よくぞいらしてくれた!」


「久しぶりね アヤカ」


 そして今回のリンの対戦相手であるアヤカと、そしてリンも現れた。


「なんだ 来てたのか」


「ええ勿論 どれだけ強くなったのかここから観戦させてもらうわよ」


「無様な姿もそれはそれは見たいからおりゃあどっちでも良いけどな」


「なんだ? この無精髭」


「ほうクソガキ? もう一度潰すか? 今度は手加減無しでな」


「その場合今度は俺が手加減した方がいいのか? クソジジイ」


「「まあまあまあまあ」」


 練習試合の前に先にムロウとの戦いが勃発しそうになったので、シオンとアヤカが止めに入る。


「リン殿には拙者との先約があるのでな ムロウ殿には悪いでござるが今回は譲って欲しいでござる」


「冗談だってわかってるよ 今日は二代目の強さを確とこの目に焼き付けておくさ」


 アヤカの強さに関しては、シオンはその身に充分すぎるほど味わっている。

リンがそのアヤカに鍛えられる事になったは良いが、流石に二週間では難しいだろうと……シオンは思っていたのだが。


(もしかしてリンの魔力……上がってる?)


 遠く離れていても契約のおかげでリンの魔力を探り、会話をする事や何処にいるか感知する事などがシオンにはできる。


 が、離れていれば離れるほど正確に測ることは難しくなる。そのためシオンはリンの魔力量の変化に気づかなかった。


「ねぇリン? まだ聖剣の力って戻ってないの?」


「ああ……もうそろそろ前の感覚を掴めそうなんだが今のところな」


「……わかった じゃあ休憩中にでももう一度試してみましょう? 私も手伝うから」


「そうだな アヤカは魔法に関してはからっきしだからな こういうのはシオンに任せるか」


「む? それは聞き捨てならないでござるな」


「事実だろ」


「師匠に対してその口の聞き方 改めて貰うでござるよ?」


 戦意は充分とみなし、準備を始める。


「それじゃあいつもどおり拙者は竹刀を使うでござるからリン殿はそのままで」


「わかってる」


「本当にリンは何も持たないのね」


「アヤカ嬢が言うには間合いを知るためなんだと」


「でもそれだけじゃあないでしょ?」


「当然 嬢ちゃんも剣を使うならわかるだろ? 剣士は剣が全てじゃあない・・・・・・・・・って」


 剣士が剣で戦うのは当然である。


 だからと言って剣が無くては戦えない・・・・・・・・・・というのは話が別だ。


 あくまでも武器を持って戦うのは体術の延長線上である。それを疎かにしててはいけないのだ。


「剣の腕は一流でも剣を奪われたくらいで負けるようじゃあ二流だよ」


「だがらこその体術ね」


 基礎となる体術を学べれば、あとはそこに武器を構えた動きを学ぶ事で応用も効き、無駄もないのだ。


「さあて! 今日はぎゃらりー・・・・も観てくれてる事だしいつもより気合いが入るでござるな」


「いつも通りのご指導でお願いしたい」


「戦う前から弱気ではダメでござるよ?」


 そうしてアヤカは構えリンも構えた。


(あれ? リンの雰囲気が……変わった?)


 リンがアヤカと相対した時、確かに雰囲気が変わる。


 元々鋭い目つきは真剣さも加わり、相手を捉える。


(構えもサマになってるし……ムロウさんが言ってたのこの事?)


 そして修行の成果を目の当たりにする。


 相変わらずアヤカの一撃は素早く、リン目掛けて放たれる。


 リンは受けるしかなかった。が、ただ受けるだけではない。


「おい見たかい? リンのヤツちゃんとアヤカ嬢の動きが見えてるみたいだぜ」


 しっかりと、確かにリンはアヤカの動きを捉える。受けはするが竹刀の動きに合わせて一撃を往なす。


 それと同時にアヤカの懐に潜り込み、拳はアヤカを捉えた。


「あ〜! 惜しい! 脚で離されちゃった!」


 アヤカの蹴りがリンの腹部を押すようにして距離を離し、それによりリンが後退すると、逃さずにアヤカは更に攻めに入る。


「驚いた……こうもあっさりアヤカ嬢がを使うなんてな」


 人は地に足をつけて立っている。


 それを片方でも離せば当然安定性は失われる。だが蹴りによる一撃は拳よりも強く、そして長い。


 片足を使うだけではあるのだがハイリスクハイリターンの攻撃手段……それが『蹴り』である。


(攻める時や駄目押しに使うことはあっても相手から逃れるために使うなんてな)


 それだけリンの攻撃は的確にアヤカを捉えているという事だった。


「さっきのは惜しかったでござるな!」


「だったら当たって欲しかったな」


「手加減したら意味ないでござろう?」


「良かった 本気・・なんだな」


「……当然!」


 振り下ろされる竹刀を受け流すようにして、リンは対処する。


 そしてリンの隙を見逃さず、アヤカは竹刀をリンに突いた。


「リンが止めた!?」


 直前に、リンは竹刀を手でなんとか止めて見せた。


「間一髪……冷や汗もんだな」


「よく止めたでござる……それで? 次はどうする?」


 止めたはいいが、アヤカはこのまま押し込むためにねじ込もうとする。このままではリンに直撃するだろう。


「そうだな……こうするさ!」


 するとリンは竹刀をアヤカごと・・・・・持ち上げて叩きつけようとする。


 予想外の対処法にそのままアヤカは持ち上げられたのだが、ここで問題が発生した。


「「あっ」」


 それは竹刀が折れる音。


 加えられた負担に竹刀が耐えられず、アヤカが宙に浮いて叩きつけられる前に折れてしまったのだ。


「チッ!」


 そしてリンはそれに気付いて、咄嗟に受け止めに入るが、上手くはいかなかった。


「アイタタタ……リン殿大丈夫でござるか?」


「ム……ムグ」


 アヤカはリンが下に入ってクッションとなり助かった。


 リンはアヤカの胸がクッションになってしまい、今まさに窒息しかけていた。


「……おやおや〜? リン殿これはらっきー助兵衛・・・・・・・ってヤツでござるな?」


「プハッ! なっなんでスケベされてる奴の方が余裕なんだよ!?」


 なんとか抜け出してアヤカに抗議するが観客からの野次が飛んでくる。


「よかったなー二代目! 役得だぞー!」


「何やってるのよ人前でこんな……!?」


「人事だとおもって……ってシオンお前は一部始終見てたろうが!」


「おはようございまーす! アニキ観に来たんですけ……どー!?」


「どう言う状況だこれ?」


「あーもう! ややこしいタイミングで来やがった!」


 バットなタイミングで、レイとチビルが現れ説明が難しくなった事にリンは頭を抱えた。


「はっはっはっ! なんだか急に賑やかになったでござるなぁ!」


 余裕を見せるアヤカ。


 そんなアヤカも、さっきの出来事は本当はちょっとだけ恥ずかしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る