第73話 町にて修羅場

「久方ぶりの町でござるなあ〜」


「いつも山籠りなのかアンタ?」


 早速修行を始めるその前にと、リンとアヤカは山を下りて食べ物の買い出しに来ていた。


 久しぶりだとはしゃぐその姿は、凛として大人びた容姿のアヤカからは少し子供っぽさを感じさせた。


 もっとも、本人の性格は『アレ』なのだが。


「まあ普段はそうでござるな 爺さまの手伝いで山を下りる程度でござるから町には用事はないでござるし」


「じゃあお金とかはどうしてるんだ?」


「拙者は稀に町の道場で指導をする事もあるでござる そこで稼いで無くなったらまたそこで稼ぐの繰り返しでござるよ」


「そうか」


「まあ買うのも白米と海苔ぐらいしか買うのもないでござるし」


「それで満足できるのは凄いな」


 他愛無い会話をしながら、町への買出しを進める。


 肉や魚、野菜といった食材がしっかりと揃えられた良い町だった。


「活気もあるし他の国もそうだったんだが魔王軍との戦いがあるとは思えないな」


「実際のところ魔王軍が進行した事はほとんどないのでござる 大々的な進行が行われたのは光国家『ライトゲート』と秩序機関『ギアズエンパイア』の二ヶ所 その二ヶ所もまだ健在で今は事実上の休戦中でござる」


「その二ヶ所が狙われた理由は?」


「おそらく『外部との繋がりが少ない』という点でござろうな どちらも堅物の集まりみたいなところでござる 支援される恐れがないから戦況が外から崩されるようなことも無いと考えたのでござろう」


 脳筋の集まりかとリンは思っていたのだが、思っていたよりも頭は回るようだ。


 魔王の掲げる『世界征服』などという世迷言、もしも優れた者達が集まって成し遂げようなどと考えなたのなら、本当に出来てしまうかもしれない。


「そして太陽都市『サンサイド』……あそこも外部との繋がりが薄いのか? 俺にはそう思えないが」


「サンサイドはむしろ積極的でござろうな なにせ過去の『御伽戦争』の中心になったところ 他国との交流はおそらく随一でござろう」


「なら何故襲われた?」


「この襲われた三ヶ所には共通点があるでござる」


 リンの前を歩いていたアヤカがピタリと止まり振り返る。


 その表情はとても真面目なものだった。


「三ヶ所とも『軍事力に優れている』事 それが共通点でござる」


「つまり強い国に侵攻してるのか……」


「リン殿はどう見るでござる?」


 先ほどの真面目な表情はどこにいったのか、今度はニマニマしながらリンに問いかける。


 それは『当てられるものなら当ててみろ』という事だとリンはすぐに気づいた。


「おそらく……『宣戦布告』と『力の誇示』か 自分達の強さを見せつけるには強い国を潰せば手っ取り早い」


「ほうほう」


「それに魔王軍が幾ら強くても数には限りがある 対策を立てられる前に強い国を後回しにするより先に潰そうって考えたんじゃないか?」


「ほうほうほう」


「だからこそ慎重なんだろう 確実に勝てる戦いを選ばないと戦力の消費が激しくなるだけだからな まあ馬鹿では無いって事だ」


「ほうほうほうほ〜う?」


「……馬鹿にしてんのか?」


「いやいやとんでもない よく思いついたでござるな」


 腕を組んでウンウンと頷きながら感心している。


「別に……自分ならどうしてそうしたかって考えたら出てきただけだ それにこれが当たってるかなんてわからないだろう?」


 実際にこれが事実かは、魔王軍に直接聞かない限りは推測でしか無い。


 誰でも思いつくような事で、感心される事などは無いはずとリンにとっては不服だった。


 するとアヤカは突然リンの横に来て無理矢理腕を組み、リンにこう言った。


「大事なのは『当たってる』かではなく『答えを出せるか』でござるよ」


 こちらの疑問の答え、それは『答えを出せる事』だとアヤカは言った。


 自分で考え、そして結論を出す。


 それは思っているより難しい事である。だからアヤカは褒めたのだ。


「そんなもんか?」


「そんなもんでござる」


「ところでなんで俺はお前と腕を組まなくちゃあいけないんだ」


 当然の疑問。態々こんな歩きにくいことをする理由がわからない。


「フッフッフ……アレを読むでござる!」


「アレ……?」


 店の看板に何やら文字が書かれている。


 リンは覚えたての文字を凝視し、なんとか読んでみる。


「男女……割?」


「そう! 我々がかっぷる・・・・として買い物をすればなんと! 一割引になるのでござる!」


「なるほど つまりこの行為は偽装だと」


「そのとおり! これを利用しない手は無いでござる! 異論は無いでござるかぁ?」


 不敵な笑みで見るアヤカのその目は「異論は認め無い」っという強い意志を感じた。


「そういう事なら仕方ない 付き合うさ」


「あれれ? 意外でござるな てっきり死ぬほど嫌がるかと」


「安いに越したことはないだろう そういう事なら協力させてもらう」


 リンとしても嫌々とはいえ居候の身、ご飯に文句を言ったのも自分なのだから、食費が安く済む事には異論など有りはしない。


「では行くでござるよ! あっここはだーりん・・・・のほうが……」


「いやそれは気持ち悪いから……」


「真面目に引くのはやめてほしいでござる」


 嫌々ながらも店についに入ろうとしたその時だった。


「……ふ〜ん 人が心配して急いでここに来たってのに随分と楽しそうじゃない?」


「!?」


 後ろからの突然の殺気にリンは気づいた。


 そこにいた人物はリンにとって見慣れた人物である。


「シオン……?」


「アニキ〜! 探しましたよ!」


「いやホント見つかってよかったぜ」


「レイとチビルも……来たのか」


「いやはや勢ぞろいでござるな」


「なんでここがわかったんだ?」


「シオンがリンの魔力を・・・・・・感じてここがわかったんだ」


「シオンが……?」


 そしてそのシオンだが、先ほどの殺気を放ち続けている。


 さらにもう一人、リンを見つけて安心していたレイはアヤカの腕の位置を見てシオンとは違い直接的な怒りの感情を露わにする。


「おいテメェ? さっさとアニキから離れやがれ! 羨ましいぃ!」


「本音が漏れてるぞ」


「確か……レイ殿といったか? 何も怒ることはないでござるよ」


 アヤカは余裕の態度を保ち続ける。


「ああ? どういう意味だよ?」


「拙者が組んでいるのはリン殿の右側 つまり左は……」


「!? お前天才か!?」


「お前は馬鹿だな 俺は組む気なんて……」


「へえ〜? じゃあその女ならいいんだ? ふ〜ん?」


「アッイヤ そういう意味じゃあないですハイ」


「まあまあ落ち着くでござるよ」


 いけしゃあしゃあと、この状況を作り出した張本人は平然となだめに入る。それが逆効果と知りながら。


「御機嫌ようアヤカさん うちのリンがお世話になってるようで」


「いや〜 それほどでも」


 おそらく嫌味と知りながらも、そのままの意味で受け止めるアヤカ。


 その態度は今のシオンへの挑発としては十分だった。


「ここじゃあなんだからもう……少し広いところへ行かない?」


「それは良いでござるな! 拙者も賛成でござる!」


(話し合い……だよな?)


 その考えはすぐに否定される事になるのは、リンもなんとなく予感していた。


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