第63話 予想外

火の聖剣フレアディスペアを突き立てたまま突撃……? フレアの魔力で壁を作るのに全て回したか)


 そしてもう一つの聖剣は石や土を纏わせ、巨大化していた。


 よほどの腕力が無ければ、二刀流は不可能だったのだろ。


「まあどっちでもいいさ! 最後の一撃受けてやるよ!」


 リンは重い土の聖剣ガイアペインで地面を壊しながら、ムロウへ向かって前へ進む。


「言ったな? なら全部受けろよ」


 ムロウの目の前へと行くと大剣を振りかざす。

嫌な音をする自分の身体に耳を傾けず、叩き潰す為の一撃を浴びせる。


「『崩撃ほうげき 山破ざんぱ』」


 そう言って放たれた一撃はムロウへと放たれる。


「それはもちろんだが……これが突破できたらの話しだがなぁ!?」


 その現象は再び起きた。


(前に……進めない!)


 見えない空間に阻まれその先に進めない。


 あともう少しだというその先は、リンにとってとても遠く感じた。


「残念だったがここまでだ……久しぶりに熱くなれておりゃあ満足よ」


 ムロウの作り出す真空状態を破れず、リンの限界もきたことで届かないと悟ったムロウは刀を構えた。


「とどめといこうか……よく頑張ったな」


 ムロウはリンへと斬り込んだ。


 だが、これは誤りである。


 聖剣の力で二色ふたいろまなことなったその目は『それ』を見逃さなかった。


「待ってたんだよ……それが来るのを」


「何!?」


 ガイアペインに力を込める。


 あとはこの一言を言えば繋がる・・・


「『弾けろ ガイアペイン』!」


 纏っていた土と石が一気に飛び散った。


 まるでダイナマイトのようなその爆発を、ムロウは回避できなかった。


(最初の一撃は囮!? この為に近づいたのか!?)


 攻勢に入った時に生じた僅かな隙を待っていた。


 至近距離で弾けたその一撃の破片が、ムロウの身体に突き刺さる。


 破片は脚に刺さり目には土が入る。そのせいで視界がぼやけてリンを見失い、ムロウの一撃は逸らされてしまった。


「くっ! 畜生! してやられったってか!」


 僅かに見えた視界から、リンは先ほどの位置より離れた位置にるのがわかった。


 先ほどの爆発の反動で自分の身を後退させたのだ。


「だが残念だったな! 動きは封じれてもお前がそのザマじゃあ後がねえ! 態々炎の壁をなんて作らずに素直に二本で挑めばよかったな!」


受けはしたが致命傷ではない、だがリンは最後の一撃だった。これで勝敗は決した。


「悪いな……俺は素直じゃないん・・・・・・・だよ」


「なにぃ?」


 視界が少しずつ回復するとリンの場所がわかった。


(あそこは……火の聖剣フレアディスペアが突き立てられた場所……まさか!?)


 そして気づく。まだその眼は二色に輝き、この勝負を諦めていないことに。


全部受けろ・・・・・よって……最初に言ったからな」


「『溜めていた』のか!? 突き立てた聖剣に!?」


「ああ 溢れそう・・・・なぐらいにはな」


 完全に油断していた。


 その剣はただの魔法の剣ではなく、伝説の『聖剣』と呼ばれるほどの代物だと知っておきながら、ムロウは『二代目』という肩書きに油断したのだ。


「奥義……発動」


 リンの頭に語りかける声がする。誰のものかわからないが、関係ななかった。


 その言葉を言えば勝てるなら、リンは喜んで口にする。


「火剣……『炎帝えんてい』!」


 地面が盛り上がり、下から溢れてくるのは押さえつけられていた炎。


 炎は火柱となり、夜だというのにその明るさは日が昇ったかのように感じる程の灼熱の炎が、空高く噴出した。






「何よ……これ?」


 そんな光景を、シオンが目撃する。


 リンとの契約で魔力が繋がっているシオンはリンがどういう状態に陥っているか、それが遠くからでも感じることができていた。


 魔力が底をつきかけたかと思ったら爆発的に増えたり、遠くから見えるほどの火柱が上がったりと、シオンの頭の中は不安しかなかった。


 もともと心配でリンにバレないように近くまで来ていた事が幸いして、直ぐに神社へとたどり着けた。


(もしかしてリンがやったの……?)


 そこにある光景は、辺り一面黒く焼き焦げた地面しか見えない。


(まだ完全に癒えてないくせ無茶なことして! 微かに魔力の反応があるけど……)


 だがそれも僅かなもの、いつ消えるかもしれないほどの微量なものだった。


「リン!?」


 そして見つけたのは地面にうつ伏せに倒れたリンだった。


 その少し離れたところにもう一人、見慣れない男も倒れている。


「アイツが果たし状を送ってきたやつ……? でも今はそんなことより早くリンを……!」


 近づこうとした時、シオンに向けて突如『苦無』が飛んでくる。


 それに気づき、シオンは即座に腰に携えた剣で払い落とす。


「誰!?」


「間の悪い女だ この好機を邪魔させる訳にはいかなかったのでな」


 そう言って出てきた男はボサボサの頭で目が隠れて、異様に肌が白い男。


 服装はまるで軍服のような出で立ちで、太い腕や足はおそらく筋肉だろうか? 背は百八十ほどに見えるが、一番気になったのは。


「二本の角……アナタ魔族ね?」


「然り 我が名は『木鬼きき』 魔王三銃士の一人 ドライ様の命により参上した」


 そして再び苦無を飛ばす。それを打ち落すとシオンは直ぐに戦闘態勢に入る。


「決闘の横槍だなんて随分卑怯ね? 一対一じゃあ無かったの?」


「我には関係のない言葉故に 聖剣使いを殺せればそれで良い」


「そう……でもね! 邪魔なのはアナタもよ!」


 左手から水の槍が木鬼に放たれる。


 それを土の中へ潜り躱すと、今度は木鬼が土の中から腕だけを出して苦無が飛ばしてくる。


「随分陰湿な能力じゃない? その太い手足は飾りかしら!」


「褒め言葉としていただこう そしてこれで終わりだ」


 シオンの足元に投げられた苦無、それが光るとシオンの足元から突然蔦が生え、シオンの動きを封じた。


「何よこれ!?」


「逝け 直ぐにお前の契約者も送ってやる」


 シオンの首めがけて苦無は投げられる。


 呆気なく、ここで死ぬかとシオンは覚悟した。


「……今のはお前の仕業か?」


 木鬼は状況を見てそう判断した。


「それしかねえだろう……間抜け」


 風が吹いた。


 風を起こし、苦無を弾き飛ばしたのはリンと別に倒れていたもう一人の男。


「覗き見した挙句に女に手を出すたぁ……ふてぇ野郎だな 魔王軍ってのはよ?」


 ムロウである。

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