第34話 ボロボロ
約束だからね!
やめろ。
絶対だからね!
やめてくれ。
──ちゃん!
もう二度と言わないから、俺はもう何もいらないから。
──ちゃん!
ワガママなんて絶対言わないから。許してなんて言わないから。
どうしてなの……? なんでなの……?
お前のせいだ。
「最悪な目覚めだ……」
戦いからの目覚めがこれとは、どうやら最近は自分に甘くなってしまっていたようだ。
だからこんな夢を見てしまったのだろう。これは所謂、自分自身への『警告』なのだ。
絶対に忘れてはいけないという、戒めだ。
「随分うなされてたじゃねえか リンちゃんよう?」
「そうか お前が隣だから夢見が悪かったんだな」
隣のベッドには、この状態の元凶である魔王軍の『雷迅』が包帯でグルグル巻きにされて寝ていた。
「なんだよ随分な言い草じゃあねえか?」
「そりゃあお前 敵と同じ病室なんて嫌に決まってんだろう」
「しょうがねえだろ 何でか知らねえけど他の病室は怪我人でいっぱいなんだと」
「十中八九お前のせいだな」
「ああ!? どこに証拠があるんだよ!」
「お前がこの国で何人倒したかにしたか指で数えられるか?」
「あ〜あと四本ぐらいは欲しいかな 足除いて」
「それが証拠だ」
こいつはどうやら戦いの事以外は馬鹿のようだ。
いや、なんとなくわかってはいたが。
「すまんなリン 他の奴らが安心できないからこっちの相部屋にしてもらったんだ」
病室に入ってきたのはシオンだった。
確かにで敵との相部屋は願い下げだ。もちろんそれは自分も同じだが。
「シオンか アンタの怪我の具合はどうなんだ?」
「一撃だけだったからね 幸い大きな怪我にはならなかったよ」
「へ〜そいつは良かったな」
「お前のせいだこの電気食らい」
シオンはすっとぼけた事を言う雷迅に向けて剣を突き立てる。先程こちらに向けられた顔とは一転して、その目は非常に恐ろしい。
「ギャハハハ! 冗談さ冗談 マジになるなって」
「そうか なら癒着しかけてるその骨をずらすだけで許してやろう」
「地味にエグいな」
「鬼かテメェ!?」
「鬼はお前だ」
自分の種族を棚に上げてそう言う雷迅に、思わずツッコんでしまう。
「まあそんな事はどうでもいいんだ 我々はお前がここに来た理由を聞きに来たのだからな」
「そんなもんここの電気を食いに来たに決まってんだろ ここの水力発電でできた電気はうまくてな」
(電気って味があるのか……)
「本当にそれだけか?」
「一応聖剣使いがいたら様子見しとけって『ツヴァイ』さんに言われたな」
「ついでで俺は病院送りにされたのか……」
「まあこまけえ事は気にすんなや!」
「お前の細かいがどこまでなのか興味が湧くな」
「今『ツヴァイ』と言ったな 何者なんだ?」
「魔王軍三銃士と言われる実力者の一人さ オレはその一人であるツヴァイさんの部下ってわけ」
最初に名乗っていた事の意味がわかった。要するにこいつらを統制しているのは魔王一人ではなく、魔王が認める実力者に部下たちをまとめさせていたのだ。
ただの野蛮な連中というわけでなく、まるで会社のように上手くまとめてられていたのか。
「つまりお前以上の奴がいるんだな?」
「そういう事さリン たかだかオレを倒したところで魔王軍の損害は皆無さ 本当にダメージを与えたいなら三銃士の一人でも倒すんだな」
無理だ。
雷迅一人を倒すのにも苦労しているのに、それより上の連中を三人も倒せと言われても、そんなの絶対に無理だ。
「ツヴァイと言ったか? 他の三銃士の名前は知っているのか」
「『奇術師アイン』『軍士ドライ』 んでさっき言ったのが『闘士ツヴァイ』 この三人で『魔王三銃士』って呼ばれてんだよ」
「大層な二つ名なことで」
「魔界の連中は自分第一な連中ばかりだ そんな奴らがこうやって二つ名までつけて恐れているのが魔王軍の『三銃士』なんだよ」
「……」
言葉を失う。さっき強さを察したばかりなのに追い打ちをかけるかのように強さを教えられる。
そして、そんな奴らを束ねている魔王の実力など想像もしたくない。
「勝てる気がしないな」
「勝とうなんて無理な話さ さっさと諦めて降伏した方が楽だぜ?」
「我々は降伏する気などない」
「でも隣の奴は賛成してくれそうだぜ」
「誰がするか」
「それでいいのか? 今のお前なんて一瞬で殺されるぞ」
「別に死んでもいい」
「なんだそりゃ? 随分と病んでんじゃねえか」
「黙れ」
「だが実際どうしたものか…… アクアガーデンの騎士はこの鬼一匹に勝てなかった 何の準備もせずに戦えば確実に負ける」
「実際サンサイドの時もかなり押されてた 普通に考えて魔王軍の方が純粋な戦闘力は上だ」
シオンと二人で頭を悩ませて考えていると、横からその原因の一人から能天気な一言が入る。
「なあなあ今後の方針もいいがよ 俺の今後の方針はどうなってんだよ? ちゃんとメシくれんの?」
「ん? お前はこれから先ずっと地下労働施設で働いてもらうつもりだが?」
まるで「当たり前だろ?」というような顔でシオンは雷迅に向けて言い放つ。なんとも恐ろしげなワードが突然出てきて困惑する。
「なっなんだそりゃ? そんなもんがあるのかここは!?」
「出稼ぎに行ってる男連中を除けばほぼ全てのアクアガーデンの男はそこで暮らす お前は電気を作り出せるんだろう? 失った分の電気を返してもらえるのであれば需要はある」
「鬼かテメェ!?」
「だから鬼はお前だろ」
「まあそれになんだ」
シオンは今まで見せた事ないような、満面の笑顔でこう言った。
「だってほら? 鬼は地獄にいるものでしょ?」
(……鬼だった)
リンは雷迅の未来が閉ざされる瞬間に立ち会ってしまった。
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