第26話 どうするか

「出だしから最悪だな……」


「そうですね」


「だな」


 昼間までの綺麗な街並みとはうって変わり、今度は薄汚い牢屋の中を過ごす羽目になっていた。


「おいチビル お前ならこの柵の隙間から出られるんじゃね?」


「ぱっと見行けそうだけどな けどそう上手くいかねーよ」


 そう言うとチビルは食事の際に支給されていたスプーンを柵に投げつける。


 すると瞬く間にスプーンは黒焦げになってしまった。


「電流か……」


「出す気ゼロですね」


「だいたいお前があんな所で銃なんて使うから……」


「あぁ!? お前が先に喧嘩売ったんだろうがよ!」


「狭い空間で騒ぐな」


 そもそもこんな事になってしまった理由は、遡ること数時間前の話である。


「何者だお前たち!? そんなところで何をしている!?」


 街中での銃声を聞きつけて、不審人物としてリン達が扱われるところからがきっかけであった。


「怪しいものじゃない……って言ったとしても信じてはくれないよな」


 剣を突きつけられ手を上げる。誤解を解きたいが上手くいく気がしない。


「お前たちよそ者だな……? 身元をあかせるものはあるか」


「あればいいんだがな……」


 とりあえず話し合いはしてくれそうだが、なにぶん身分証明できるものがない。元の世界なら学生証でも見せれば良かったのだろうが、こっちで見せても通用しない。


「お前ら! この方をどなたと心得る!?」


「なに?」


 嫌な予感とともに、レイが前に出た。


「この方はな賢者の石に選ばれた聖剣使いの二代目! 優月輪ユウヅキリンだぞ! スゴイんだぞ! カッコいいんだぞ!」


 顔から火が出そうだ、思わず顔を覆ってしまう。


 チビルはおそらく別の意味で覆っているのだろう、お腹も抱えている。


 レイの言葉を聞いて、警備団はヒソヒソと話し合いを始めた。


「どうする?」


「マジだったらヤバくない?」


「チョーやばいって」


 なんだかギャルっぽい会話がなされていてイマイチ緊迫感がない。


 ピッチリとしたスーツに顔はヘルムで覆われている。全員女性なのだろう、警備団ぐらいは男がいると思っていたのだが違っていた。


「さあアニキ! 聖剣を見せれば一発だぜ!」


「まあ聖剣を見せたら少しは信じてくれるんじゃねえの? プププ……」


「勝手なことばっかり言いやがって……」


 確かにそれが一番手っ取り早いだろう。悔しいが見せるしかない。


 いつもの要領で聖剣が姿を現わす。この時感じたのは、やはり意識がハッキリしていることだ。いつもなら気持ちが高ぶったような感覚になっていたが、いたって冷静だった。


「ほら これで証拠になるかはわからんが一応出したぞ」


「あれは火の聖剣『フレアディスペア』!?」


「てことは本物!?」


「教科書で見たことあるやつじゃん!」


「どうよ! これでわかったか!」


「お前の力じゃないからな」


 まるで自分のことのようにして自慢しているレイにチビルがツッコミをいれる。これで信じてくれるのならいいのだが。


「まだ完全に信じるわけにはいかない」


「まあそうだろうな」


 警備団の先頭にいる兵がそう言った。おそらく彼女らのリーダーだろう、一番話が通じそうだ。


「いきなりで悪いんだが……ここの王様に会わせてくれないか」


「なに?」


 その警備兵は剣に力を込める。当たり前だろう、怪しい連中がこの国の王に会わせろなどと言いだせば、自分が同じ立場なら同じく警戒するはずだ。


「俺たちの目的はここにある賢者の石だ 確か賢者の石は聖剣使いにしか扱えないんだろ? だったらそれが使えたら本物ってことになる」


「……素直に聞き入れると思うか?」


「だったら俺らを縛り付けて連れて行けばいい 疑うのは無理もないしな」


「え!?」


「マジかよリン!?」


「仕方ないだろ 自分たちが何者かを証明するものがないんだしな」


「……」


「どうしますリーダー」


「幾ら何でも危険じゃないですか〜?」


「アタシもそう思う!」


 他の警備団も流石に警戒している。そしてやはり彼女はこの警備団のリーダーだったようだ。


「ちょうど道に迷ってたんだ 連れてってくると助かるんだ」


「……その条件を飲もう 悪いが縛らせてもらうぞ」


「リーダー!?」


「いいんですか?」


「構わん やれ」


 困惑している部下の警備団を他所に、リーダーの女性は全く動じずに指示を出す。


 おそらくその条件なら自分たちに分があると判断したのだろう。


「いいか 妙な真似をすればすぐにその首を刎ねるぞ」


「構わん そんな真似するつもりはないからな」


「いいのかよリン?」


「大丈夫さ 気をつけろレイ 一番刎ねられそうだがから」


「なんでぇ!?」


 交渉成立だ、これで城に連れてってくれる。


 あとは疑いが晴れるように頑張るしかない。余計なことをしなければなんとかなるだろう。


 手を縛られると、馬車の荷台に乗せられて城に連れていかれる。その間に早速情報収集だ。まずはこの国の事を詳しく知っておきたい。


「この国の男達はどこにいるんだ?」


「男連中は基本的に外にいない まだあまり馴染みのない機械仕事を任せている」


「機械仕事?」


「そうだ 秩序機関『ギアズエンパイア』の機械技術はまだ世界に馴染んでいない」


 驚いた。機械があるのは知っていたがそういった機械精通した場所もあったのか。


 もしかしたら賢者の石探しより先に、まずは『ギアズエンパイア』を目指した方がいいのかもしれない。


「そんな常識も知らないの〜?」


「マジで〜?」


「マジウケル〜」


 異世界人なのだから仕方ないだろと思いつつも、口に出すのも面倒くさくて言わなかった。


「アニキに文句があるってのか!?」


「一々反応するなレイ」


 周りのちょっとチャラい警備団の連中にレイが反応するがそれを阻止する。もっと面倒になる。


「お前達今は仕事中だぞ 話し方には気をつけなさい」


「「「は〜い」」」


「大変だな」


「お互いね」


 この警備団のリーダーとは比較的話しやすい。元の世界でもそうだが、なんというかギャルというかチャラいというか、とても苦手だった。


「アンタの名前 聞いてなかったな」


「そういえばそうだったわね」


 兜を外すと、長髪で癖っ毛のある蒼い髪をした色白の肌をした女性だった。


「私の名前はシオン 『シオン・ヴァロワ』よ」


 ここまではなんとかなったのだ。

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