第10話 船上
「なんだ!?」
すでに船は出航していた。であれば、この揺れは他の要因だ。
何かがこの船を攻撃している。
「……お前は俺の部屋に隠れてろ」
「お兄ちゃん……?」
「俺は様子を見て来る 何があるかわからないから隠れてるんだ」
「あっ危ないよ!」
「何もなければすぐ戻る 良いから隠れてろ」
強引に自分の部屋に子供を隠すと、パーティーフロアを見に行く。そこであれば人も多く情報を得やすいだろう。
急いで向かったのだが、パーティーフロアへの入り口を塞ぐ者がいる。
(なんだ? あいつらは)
道を塞ぐようにいる男はどう見てもここの船員では無い。
銃を持ち、顔を隠している。おそらく見張りだ。
(あれはもしかして『海賊』……ってやつか)
この豪華客船を狙って来たのか、それとも魔王軍による命令でやってきたのかはわからない。
唯一わかったと言えば、さっきの揺れは船同士をぶつけた音だろう。この船を乗っ取る気だ。
まだこちら見つかる前に曲がり角に隠れることができて良かった。見つかっていたら人質の仲間入りか、あるいは最悪その場で撃たれていた。
(聖剣を使うか? でもリスクが高いか……まだ慣れていないのにこの力に頼るのは何が起こるかわからない)
人質の安否も心配だ。下手に乗り込んで人質に余計な被害は出したくない。
(聖剣無しなら俺は丸腰だ……なら使うしか無い)
頼るべきか迷いはするが、覚悟を決めなくてはいけない。何か起こるとしても、それで被害が出るのは『自分』だけだ。
「お前! そこで何してる!?」
警備している男に気を取られ、後ろに気を使うのを忘れて接近を許してしまった。
(……やるしかない)
そう心に決めるとすぐに賢者の石を取り出し、力を込める。そうすると、炎が手から燃え上がり聖剣が現れる。
瞳の色が黒から燃えるような赤に変わる。
「何してるかって? 勿論……人助けだよ」
そう返すと聖剣を振りかざす。もっと考える時間が欲しかったが、もうどうでもいい。
「なっなんだお前は!?」
見張りをしていた男達もこちらに気づき中をこちらに向かって銃を乱射する。
だが、その銃弾は炎の壁によって阻まれる。
「
次々と放たれる銃弾を躱すのではなく、全て焼き払う。
敵が撃ち尽くし、銃弾を再装填するときを見計らって、聖剣を振りかざし敵を倒す。
ここまでは順調だったが予想外の出来事が起こった。
(スプリンクラーか!?)
火事防止に備えて、設置されていた船のスプリンクラーが嫌な時に仕事をする。これでは聖剣の火の力は半減してしまう。
水が勢い良く噴出される。本来なら火が収まるのはいいことだが、今回はこちらの勢いも収まってしまうのは良くない。
(初めてだが……仕方ない)
戦い方を変えよう。
倒した相手の銃を奪いそれを使えば良い。銃弾もさっき倒した相手がまだ持っている。
すぐに装填して放つ。弾丸が切れたらすぐに持ち変える。初めてだったが、思っていたよりもすんなり馴染んだ。これなら戦える。
「意外に当たるもんだな」
「そこまでだ!」
そう言われそちらの方向を見ると人質としてチビルが現れた。
口を塞がれ、手で掴まれている。なるほど、確かに『アレ』なら持ち運びやすい人質だ。
「コイツがどうなってもいいのか!?」
「その台詞……人生で初めて実際に聞いたよ」
「何余裕こいてやがる! どうなってもいいのか!?」
ホールドアップだ、打つ手はない。想定内ではあるがこうなってほしくなかった。
「ヘッ! 分かりゃいいんだよ分かりゃあ」
「それで? オレはどうすればいい?」
「外に出ろ!」
そう言われ外に連れ出される。どんどん海の方に歩かされるが落す気なのだろうか。
「おいおい? 落とす気か? さすがにこの格好で泳げないんだが」
「なら丁度いい! サメの餌にはうってつけだ」
「丁度いい フカヒレは食べてみたかったんだ」
「なんでお前余裕なんだよ!? オレ達死にそうなんだぞ!」
塞がれていた布を外され、口を開けるようになったかと思えば耳元で叫ばれる。
これならもう少し人質のままでいて欲しかった。
「その意見に賛成だぜ 命乞いしてくれねえとこっちも面白くないんでな」
「こんなことなら命乞いの仕方を習うべきだったかな?」
「ああぁ!?テメェまだこの状況わかんねえのか!?」
「お前はここで殺されるんだよ!」
海賊達が集まっている。今ここにいるのは大体二十人程度か。
「
「え?」
「ナニィ!?」
「ここなら ……
船上が爆発する。ここでなら
今持てる最大火力をこの船上にぶつけた。その衝撃で次々と海賊達が海に放り出される。
だが予想外に爆発がデカかった。おそらく海賊の誰かが火薬を持っていたのだろう。火の聖剣の炎に誘爆してしまう。
(ヤバイ……もう力が)
とりあえずチビルを懐に入れていたので衝撃は受けていないようだが、肝心の自分自身は爆発をもろに受けていた。
体が海に放り出される。もう泳ぐ気力はない。
(まあ……いいか)
意識を失う直前、微かに海賊船が近づいてくるのが見えた。
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