25話「報酬とお礼」


 日没前に何とかサント王国に帰ってこられた。門をくぐってまっすぐギルドへ向かい、討伐報告を済ませに行く。

 中に入ってまず視界に入ったのが、今朝もいた受付嬢だ。メラさんだったかな。その彼女は、俺たちを見るなり、あっと声を出して凝視してきた。本当に戻って来るとは思っていなかったと言いたそうな表情だ。ま、俺自身も今日中に帰るのはきついと思ったしな。


 「約束通り、今日中にエーレ討伐してきたぜ。証拠になる素材も、ちゃんとあるからな」


 そう言って、カウンターテーブルに袋2つを載せる。まだ信じられない様子で袋の中身を確認する。その際に、クエスト対象の生物の素材かどうかの真偽を見分ける「鑑定眼鏡」というモノクル眼鏡みたいなアイテムを用いて鑑定するそうだ。

 鑑定すること数秒、全てが本物判定が出て、報酬の話に入る。今朝壊したテーブルやガラスの弁償代を差し引いてもらい、残りの報酬金を全て手渡しで受け取る。


 「では、ギルドの器物損壊の賠償分を差し引いた分として、討伐成功分、素材の売却分、合わせて金貨500枚。つまり500万ゴルバが報酬金となります!」


 なんと。500万といえば、豪遊さえしなければ2年半ばは遊んで暮らせる金額だ。弁償分差し引いてこんだけ貰えるのか。意外そうにしている様子の俺を見て、メラが説明してくれる。


 「Gランクを超えるクエストは、王国の命で正規に編成される討伐隊が主に受け

ることになっており、冒険者は、中々受けにくることはないのです。ですから、ここでは最高難易度のGランククエストを成功された冒険者には、規定の報酬にさらに追加褒賞金を上乗せすることになっているのです。

 さらに、冒険者ランクの昇級も必ず約束されます。今回オウガさんと赤鬼さんは、FランクでありながらGランクをクリアなされたので、大幅に昇級することになります」


 その後、いくつか説明を受けたが、金さえ入れば後はどうでもいいので、ほぼ聞き流していた。隣にいるアレンも退屈そうにあくびを漏らしていた。とりあえず耳に入った内容は、俺たちの冒険者ランクがFからAまで大幅昇級したこと、今朝のような騒動はできればギルド内で起こさないでほしいこと、くらいか。外ならいくらでも痛めつけて良いんかい。

 説明をやり終えて一息ついた後、メラさんとやらは畏敬の眼差しで俺を見て、質問してくる。仕事としてではなく、私情で聞きにきてるな。


 「オウガさん、赤鬼さんも。あなた方は、今日から冒険者として活動する前は、何をなさっていたんですか?Gランククエストを1日以内でクリアして帰ってくるなど、少なくとも私が受付を務めている間は一度もありませんでした。あまり一個人の情報を私的に探るのはご法度なんですが、あまりにもイレギュラーな出来事でしたので...よければ、教えていただけますでしょうか...?」


 彼女が質問しているうちに、周りの冒険者どもも耳を傾けていやがる。

 何でも正直に話しちゃうと面倒事が起こりそうだからここは誤魔化すに限る。今も俺は兵士団から逃亡している身分だしな。

 そんでもって、俺に関することの情報規制を布いておくか。アレンに小声で口裏合わせておく。そして声をそろえて回答する。


 「「危険地帯でずっと修行していた」」


 単純に答えた。2人とも嘘は言っていない。暗い瘴気にまみれた地底でモンストールどもと戦ってきた結果が今の俺なんだから。

 俺たちの答えにメラさんとやらは、修行ですか...と呑み込めない様子で頷くことしかできていなかった。


 「今朝言い忘れてたことあるんだけどさ、俺たちはこう見えても王国内はもちろん、世界中でこういったことで目立ちたくねーんだよ。コードネームの宣伝は勝手だが、俺たちの外見、身体的特徴を広めることは止めてくれよ?もし他の国に漏らすことをすれば、慰謝料ふんだくってすぐに冒険者辞めるから」


 少し剣を帯びた顔で警告した。絶対に世界中にバレたくないわけではないが念の為大袈裟に言っておいた。受付嬢は少し青ざめた顔でコクコクと頷き了承してくれた。よし、もう一押し。


 「目立ちたくないとは言ったが、俺に悪意をふっかけるような真似をすれば、人目憚らずに半殺し、場合によっては殺すことも辞さないから。ま、今朝の“ご挨拶”以上の惨劇を披露するつもりだ。なぁ…?」


 最後の一言は、周りの奴らにも聞こえるように声を上げ、凶悪な笑みを浮かべてぐるりと見まわした。今朝もいた冒険者や酒場客が何人かいて、そいつらは俺の笑顔をみるなり、顔面蒼白になったり、短い悲鳴を上げたり、目を合わせないよう顔を絶対に受付の方へ向けないようにするなど、色々面白い反応が見られた。宣伝と警告は十分だな。

 これ以上居座ると気まずい空気になるだろうし、もう出よう。

 アレンを連れてギルドを去った。



                   *


 翌日、近場の宿の一人部屋で起床し、隣部屋にいるアレンを部屋に入れる。二人部屋で良いと不満そうにしていたが、そこはまぁ、男女が同室で一夜を過ごすのはなんかアレだから、どうにか了承してもらった。その代わり就寝時間以外は同じ部屋で過ごすことを強制された。アレンはけっこう人肌恋しいお年頃なのか?

 食事を済まし、昨日俺が披露した技の授業をしていると、ドアを叩く音が。俺たちに客となると冒険者ギルドからかと思いドアを開ける………開けたことを後悔する。

 部屋を訪れたのは昨日の討伐任務にいた女兵士、クィンだった。彼女一人で来たようだ。


 「おはようございます!いきなり訪ねることをしてしまったことをお許し下さい。こうでもしないとあなた方に接触することが出来ないと思ったので」


 俺の顔をみるなり、昨日の最後に見せた笑顔で挨拶してきた。何か俺を見る目が尊敬する人と対する感じだな。あの戦闘光景がよほど印象に残ったみたいだ。

 クィンを中に入れ、彼女がアレンを見るなり、やや赤面した顔で俺に問いかける。


 「あの、昨晩はお二人ここでお泊りされたのでしょうか...?ど、同衾したのでしょうか!?」


 色恋じみた質問してきやがったよコイツ...。やなんだよこの手の質問は。


 「落ち着け、それぞれ別の部屋で泊まった...」

 「私は二人で良いって言ったのに、別々にされた...寂しかった...。」


  俺が言い終わる前に、アレンがしょぼんとした様子でセリフをかぶせてきた。止めてくれアレン。そのやり方は俺に効く。止めてくれ。

 ほらぁ、クィンが赤面してワタワタし出すし。適当に宥めてさっさと本題に入る。


 「まず…何でここに俺たちがここにいると分かった?」

 「その説明は少し長くなりますが…。昨日の夜に私を含む任務にあたっていた兵士団はこの国に帰還して昨日の出来事を全て報告しました。あなた方のこともです。

 国王様はあなた方の動向を気にしておられました。そこで兵士団に引き続きあなた方の行方を捜索するようにとの任務を下されました」

 

 この国の王に目をつけられたか。強大過ぎる力を披露すると色んなところから目をつけられるのはよくあることだよな。


 「私はあなた方が冒険者だという情報を手掛かりにギルドへ聞き込みをしてみました。

 すると案の定あなた方がここで報酬をもらったことを聞きました」


 聞いちゃったかー。


 「その情報からあなた方がまだこの国に滞在しているのではないかと思い、色々聞き込みをして回って、ここに着いたというわけです」


 やっぱり面倒くさがらず他国へ行った方が良かったか。けど仕方ないな。俺はともかくアレンに負担がかかるし。


 「それで、あんたは俺たちを王宮に連れてくるよう言われてるんだろ?ここで捕まえるつもりか?」


 顔を少し険しくさせて尋ねてみる。アレンも後ろでいつでも動けるようスタンバっている。


 「本来ならそうするべきなのですが…エーレを容易に討伐する力を持つレベルの人を拘束するのは不可能に近いと私たちは国王様に意見しましたところ、無理矢理での連行はしないようにと命じられています。ですのでここで手荒なことは致しません。というよりしたくありません…」


 国王も馬鹿ではないみたいだな。自分が目にしてもないのに俺の脅威を推測して強硬手段を禁じたか。つまり今はこいつは俺たちを無理矢理に連行することはないようだな。というか不可能だって分かってるんだ。


 「じゃあ、何しにここに?」

 「オウガさんがエーレを討伐してくれたお陰で私たち兵士団が全滅することが避けられました。

 そのお礼として王国からオウガさんたちに贈り物を渡すようにと」


 王国からお礼?それは想定外だ。


 「何を渡してくれるんだ?」

 「はい。王国から出された報酬で、オウガさんと赤鬼さんの分の入国許可証を発行しました。これは、ここサント王国はもちろん、他の全ての同盟国へ入国できるものです。それに、この許可証は私たち兵士団や王族でしか発行されないきまりだったのですが、私とコザ隊長、他の兵士の方々からの進言で国王様の許可をもらいました。これでオウガさんと赤鬼さんも他の国に自由に行き来できます!あと、金貨50枚と少しですが、礼金として...」


 これは、思わぬ貰い物だ。先日拝借した通行証はこの国しか対応していないみたいだから、どこでも入国できるというのは非常にありがたい。単に金をもらうより嬉しいな。


 「私も貰っていいの?昨日の討伐クエスト、私全然活躍してなかったのに...。」


 アレンが遠慮がちにクィンに聞く。昨日は俺の戦闘を観戦していただけだった。何もしていなかったのに、自分にも褒美を貰うことに後ろめたさがあるのか。


 「気にしないでください。オウガさんの仲間も恩人として扱うことになってます。遠慮はいりません!」

 「そうだぞ、貰っとけ。アレ...赤鬼もエーレといい勝負するくらいに強いんだ。これは、クィンたちの将来の期待としての先行投資と思えばいいんだ。ここは受け取っとけ。」


 アレンの頭に手を乗せて軽く撫でて諭す。


 「コウガ……」

 アレンはほんのり頬を染めて俺を見つめる。あーもう可愛いな。

 同時に、呟く様に言ったアレンの発言にクィンが反応する。そして嬉しそうに俺の顔を見て、


 「“コウガ”っていうんですね。お名前...。ここで分かるとは思いませんでした、コウガさん!」


 と満面の笑みで言った...!しまった!アレンが口を滑らせたせいで本名が!

 アレンも数秒してあっと口を覆った。つい言っちゃったといった様子だ。


 「あー、はい。そうです、改めて名乗ります。俺はコウガです」


 仕方ないから名前だけ明かした。

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