第95話ミハイン国


 「どうやらここも外れのようですわね?」



 あたしは保護したこの奴隷たちの意識を取り戻す為に魔法を解除してやる。

 しかしもともと奴隷として扱われていた為に目に見えての変化が少ない。



 「この人たち言葉喋れるの?」


 「ええ、多分それくらいの学習はさせているはずですわ。でなければ命令も出せませんもの」


 シェルに答えながらあたしはしゃがんで奴隷の一人に聞く。


 「あなたたち、ここのマスターは何処ですの?」


 「ううぅ、分からない‥‥‥ マスターいなくなった。 餌くれるのいるだけ」


 流暢とは言えないけどちゃんと答えてくれる。



 この世界には奴隷制度もあるけどここまでひどい扱いは無い。


 それに奴隷でもちゃんと働いて自分を買い戻す事も出来るシステムになっているはずだから奴隷だからと言って扱いがもの凄く酷い訳では無い。

 中には使用人のようにずっとその家で働きたいという者もいるし、正式な手続きをすれば夫婦にだってなれる。



 しかしここにいるのは前に行った飼育場と同様、家畜のような扱いを受けている。



 「これで二つ目か。しかし相変わらず気分が良い場所では無いな」


 子供好きのショーゴさんはそう言いながら子供たちの鎖を切っている。

 ぼろを身にまとった子供たちはやせていた。

 多分食べる物も少ないのだろう。


 「エルハイミ、この子たちはゾナーの所へ?」


 「ええ、このままではだめですわ。帝都エリモアに連れて行ってお願いしましょうですわ」


 あたしはシェルにそう言ってこの子たちの様子を確認する。

 幸いケガや病気の子はいないようだ。


 テグの奴隷たちをあたしは浄化してやってからエリモアに転送するのだった。



 * * * * *



 「またずいぶんと酷いのが来たもんだな」


 「とはいえ、奴隷としてちゃんと面倒見てあげてくださいですわ。全てルド王国の地下に居ましたわ」



 ルド王国は「狂気の巨人」を封印した場所で、「魔人戦争」では魔人を召喚した国だった。

 魔人召喚した時の指導者はあっさり自分の召喚した魔人に国ごと滅ぼされ世界に災厄をまき散らした。


 その後英雄たちにより「魔人戦争」は終結し、当事国力を持っていたホリゾン帝国の庇護下に入り国とは言うもののその実ホリゾン帝国の実験場となり果てていた。


 しかも国には住民はおらず、中にいるのは実験で出来上がったキメラやゴーレム、ジュメルの戦闘要員等おおよそ表には出せないものばかり。

 結果ルド王国は「管理者」と呼ばれる連中が城壁で国を囲い管理塔に住まう状況が続いていた。



 ここでは奴隷階層のテグは非常に重要な材料とされ前の飼育場よりずっと人数が多かった。


 今回ここへ引き連れて来た奴隷たちはおおよそ三百を超える。



 「まったく、奴隷を否定はせんがこれでは使い物にすらならなくなってしまうな。とにかく食い物を食わせ働けるまで保護する。その後はホリゾン公国の復興に協力してもらうぞ?」


 「それで良いと思いますわ。それでは後の事をお任せしますわ。私はミハイン王国へ行きますわ」



 あたしがそう言うとゾナーは首を傾げ聞いてくる。


 「ミハイン王国だと? あそこにも『テグの飼育場』があるのか?」


 「ええ、分かっている飼育場は全部で三十六。うち二つは確認済みですわ。次はミハイン王国ですわ」



 ミハイン王国。

 

 ウェージム大陸の西側にあり、セレとミアムの母国。

 ティアナがあの二人を助け、そしてジュメルの魔の手から救った国。


 あたしは次にそこへ行くつもりだったのだ。



 * * * * *



 「どうやらあちらは片付いたようですわね? イオマ、私たちはティナの町に行きますわよ?」


 ここボヘーミャにいるあたしは北のルド王国のあたしが「テグの飼育場」を片付けそしてホリゾン公国に引き渡し、そのままミハイン王国へと向かうつもりなのでその支援をするつもりだった。

 

 なのでここボヘーミャのあたしはティナの町に行ってセレとミアムに合わなければならない。

 ミハイン王国に行くあたしの為に。



 「お姉さま、ティナの町に何をしに?」


 「セレとミアムに会いますわ。エリモアの私が次にミハイン王国へ行かなければならないからですわ」


 するとイオマは少し複雑な顔をしてあたしに聞く。



 「ではティアナさんは見つからなかったんですね?」



 「ええ、残念ながら」


 あたしはイオマにそう答える。

 ルド王国の「テグの飼育場」にティアナの転生者はいなかった。

 そもそも子供と言っても一番小さな子供で三歳児だった。


 もしティアナがいたとすれば一歳児くらい。

 既に転生をしてはいるのでその位のはずだ。


 「それは‥‥‥ 残念でしたね、お姉さま」


 「ええ、なので次はルド王国ですわ」


 あたしはそう言いながらイオマを連れてティナの町に転移するのだった。

   


 * * * * *

  

 

 「今回も駄目でしたか‥‥‥」


 「使えないわね、正妻」


 ミアムとセレに会って今回のことを話すとこう言ってきた。



 いや、あたしだって頑張っているのよ?

 なのにダメな子を見るような目で見ないでよっ!



 「前にも言いましたが今のティアナの状態は意識を封じられ気配が完全に無いのですわ。ですからこうして一つ一つ当たっていくしか無いのですわ」


 あたしがそう言うと二人はあからさまに大きなため息をつく。



 「ミアムさん、セレさん。いくら何でも酷すぎますよ! お姉さまだって頑張っているんですよ?」



 流石にイオマも二人の態度に物言いをする。

 しかしそんなイオマにミアムもセレも動じずはっきりと言う。



 「イオマさん、言いたい事は分かります。でも私たちには時間が無いのです」


 「そうよ、ティアナ様が見つかってから私たちがお世話させていただいて恩返しを出来る時間だってそれほどないのよ。それにもう昔のように愛してはいただけないのだから‥‥‥」



 二人のその言葉にイオマは絶句する。


 ちょっと考えれば分かる事だが二人は歳をとっていく。

 そして二人がティアナに出来る恩返しは体で奉仕する事ではなく世話をする事に変わっていく。

 二人にしてみればそれでもティアナに少しでも恩返しをしたいのだ。


 ただ、確実に二人はティアナの転生者より先にこの世を去る。


 だから時間が惜しいのだ。

 そしてそれは今は若いイオマも同じなのだ。


 イオマはあたしを見て悲しそうな顔をする。


 イオマは時の定めある者。

 しかしあたしは時の定めが無い者。

 

 「ミアムさん、セレさん‥‥‥」


 思わずイオマはつぶやいてしまう。

 


 「だからですわ。あなたたちに聞きたいのですわ、ミハイン王国の『テグの飼育場』について、ですわ」



 あたしがそう言うと二人は途端に緊張をしてそして青ざめる。

 嫌な記憶を呼び戻したのだろう。

 それでもティアナの為であればあたしは聞くしかない、その場所について。



 あたしは真剣な表情で二人に向き直るのだった。


 

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