第46話『B区の切り欠きを目指して』


まりあ戦記・046


『B区の切り欠きを目指して』   






 ま、いいんだけども釈然としない。




 釈迦堂観音(しゃかどうかのん)からのメールに――ありがとう、また会いたいね――と返事を打ってため息をついた。


 影武者のマリアが学校で襲撃を受けた。あれから半年、まりあは学校に行っていない。


 だって、あの襲撃で死んだことになっている。


 影武者のマリアは損傷が激しいので、リペアしてもソックリと言うわけにはいかずに退役してしまった。


 家がお寺で、自身副住職でもあるカノンは、僧侶の勘だろうか、まりあの生存に気づいて連絡をくれる。




 先日のヨミを撃破したのは『そいつ』……あれからナユタだという名前とツインテールが良く似合う高校一年生だということが分かった。


 四菱のソメティという機体に乗ってヨミを蹴散らしたということで、そのモテカワのルックスと相まって学校の人気者だというこらしい。


 え、学校に通ってるの?


 疑問に思うと、タイミングよく写真が送られてきた。


 なるほどね。


 ソメティの搭乗者でなくても、これなら男子は放っておかないだろう。




 いやいや、そういう意味じゃないんだ(^_^;)




 あの戦いはウズメがヨミHPを削り倒し行動不能にしたところにトドメを刺したというのが事実だ。


 それが、まるでソメティが小気味よく攻撃を仕掛け、鈍重なウズメは、ほとんど後れを取ってる的な報道になっている。


 テレビやネットの動画を観ても、ほとんどソメティのアタックばかりが報じられている。


 真実を報じないことに違和感を感じるのであって……ああ、もうやめた!




 みなみ大尉に連絡をして二時間の外出許可をもらった。久々に愛車のオレンジを引っ張り出し、ベースの周辺を走ってみることにしたのだ。


 ベースの周辺と言ってもカルデラの中、周囲は外輪山に囲まれていて、巨大なんだけども、すり鉢の底を走っている窮屈さは否めない。


――今日も一周は無理か――


 ヨミの浸食と言ってもいい攻撃で、カルデラのあちこちは穴ぼこだらけ。運用に差し障りのあるものは直ぐに修復されるが、そうでないものは『危険 立ち入り禁止 特務旅団』の札が立つだけで事実上放置されている。規模の大きすぎるものはベースの施設を移転した方が早いので、これも放置されている。


 まあ、B区まで行って引き返すか。運が良ければ外輪の切りかきに沈む夕日が拝めるかもしれない。


 ベース内には様々なジンクスがあって、その一つがB区の切り欠きだ。


 きれいなV字になっていて、Vの底に大きな石英があるとかで、季節と時間と運が良ければ虹のように煌めく夕陽が拝めるんだそうだ。


――いっちょう、行ってみるか!――


 決心してペダルを踏む足に力を入れる。


――わたしもおおおお!!――


 後ろで声が掛かる。


 ちょっと驚いて振り返る。


 ゲゲ!?


 そいつ……ナユタがツインテールをはためかせながら付いてくるではないか!?

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