第22話『親父一人の企て・1』
まりあ戦記・022
『親父一人の企て・1』
軍の保養施設なので、食事は部屋までは運んではくれない。
一階の食堂で食べなければならない。
「あーーー食った食った!」
のけ反るようにお腹を突きだすと、ポンとお腹を叩くまりあ。
「もっとゆっくり食べなさいよ」
食事よりもお酒がメインの大尉が文句を言う。
「いやあ、マリアにマッサージしてもらったら快調で、速い!安い!美味い!になってしまう!」
「なんだか牛丼屋ね、せっかくの剣菱が横っちょに入ってしまう」
「こんな調子で食べていたら、マッサージで落ちた4%が、すぐに戻ってきてしまうわよ」
「わりーわりー、一足先に部屋に戻ってるね~、マリア、みなみさんのお相手よっろしく~」
まりあは、ひらひら手を振ると食堂を出て行った。
カッポーン…………コーン…………
誰かが入っているんだろう、地下の浴場に続く階段からいい音が聞こえてくる。
「よし、もうひと風呂入ってこようか」
ここにきて、まだ一人で温泉に浸かっていないことを思い出して、階下の浴場に向かった。
「このお風呂は初めてだな~」
露天風呂にばかり入っていたので、地下の浴場は初めてだ。
カラカラっと女湯の引き戸を開けたところで意識がおぼろになった。
え…………?
気づくとお湯の中に居た。それも全身がお湯の中に浸かっている。
首を上に向けると、自分の髪がユラユラとお湯の中で揺らめいているのが見える。
――お湯の中なのに息が出来る?――
手を伸ばすと壁に当たった。触ってみるとガラスのような感触がする。しかし、壁は仄かな緑色に光って、その先は見えない。
――心地いんだけど、ここは? これってなに?――
手探りで、そこが人一人をゆったり入れる卵型の容器であることが知れる。
閉所恐怖症ならパニックになるかなあ……そんなことを思ったりしたが、まりあには心地いい。
再び目がトロンとしてきて、まりあは胎児のように、ゆるく丸まった。
――気持ちよさそうにしているところで悪いが、目を覚ましてくれるか――
頭の中の声に起こされて目を開けると、容器の壁が素通しになって、ラボのような機器に取り巻かれていることが分かる。
視線を感じて前を向くと、透明になった容器の向こうに、父である舵司令の顔が見えた。
――あ――
ゆるく開いた股間のあたりに司令の顔があるので、まりあは慌てて足を閉じた。
――いまカプセルの底が開く。開いた先は小さなキャビンだ。キャビンにはコネクトスーツが掛けてある、それを着ると床がせり上がってきてシートになる。シートはそのままウズメのコクピットに運んでくれる。とりあえず、そこまでやってみてくれ――
親父が手を動かすと、説明通りのことが起こり、まりあはコクピットに収まった。
――まりあの適応レベルを引き上げて運用システムを変更した。今までは五人でオペレートしていたが、このシステムならば、わたし一人でやれる――
「みなみ大尉とか、他の人は居ないわけ?」
――わたし一人だ。このシステムを構築するために、メンバーには休暇を出した。そして、まりあたちが、この保養施設に来るように誘導したんだ。ここは、ベースの最前線基地の一つだ――
「……今から迎撃?」
――迎撃じゃない、攻撃、それも奇襲攻撃だ。ヨミが成熟する前に撃滅する――
「えと、お父さん」
――なんだ?――
「……なんでもない」
――予備知識は与えない。ある程度分かってはいるが全てではない、予想外のことが起こると対応を誤るからな、出くわした状況に素直に反応しろ、その方が道が開ける。では、秒読みに入る……30秒前、29、28……――
親父の企てに不安が湧いたが、深呼吸一つして未知の接敵に備えるまりあであった……。
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