第15話『まりあマリア』


 まりあ戦記・015

『まりあマリア』  






 マリアはまりあにそっくりだ。


 まりあのアシスタント兼ガード兼影武者として特務師団から派遣されてきたのだから、そっくりで当たり前なんだが。

 元々はアクト地雷の汎用品だけれども、CPUが一昔前のスパコン並の性能……じゃ分かりにくいよな。

 かつてゲーム機の王者と言われたプレステに例えると、初代プレステとプレステ5くらいの差がある。

 学習能力や表現能力がケタ違いに優れている。


 常にまりあを観察していて、思考や行動パターンを修正していく。


「やっぱ、写真というのはアナログがいいよね~」



 アルバムやら未整理の写真が山盛り入った段ボールを引っ越し荷物の真ん中に、まりあとマリアが悦にいっている。

 まりあが帰宅した直後は「捨てろ!」「捨てない!」と双子のケンカのようになっていたが、まりあの心と性癖を学習したマリアが修正を計り、まりあ以上の情熱で引っ越し荷物の発掘に熱中し始めた。

「印画紙に焼き付けた写真て、いい具合に劣化していくんだよね……」

「色がさめたり、セピア色になったり、とても懐かしい……」

 壮大なカルタ会のように写真を並べてはひとしきり思い出に耽り、ため息ついては並び替え、いろいろ差し替えては目を潤ませている。

「これ、ケンカしたあくる日だ」

「ああ、ホッペの絆創膏ね!」

「この難しい顔は、ケンちゃんにコクられたあとだ」

「こっちは、芳樹くん。ニヤケてるし!」

「相手によって態度も反応もゼンゼンちがうんだよねー!」

「おたふく風邪のなりかけ~!」

「ぶちゃむくれ~!」

「そのとき買ってもらったのが……ジャーン、このリボンのワンピだ!」

 衣装ケースから懐かしいものを取り出す。

「そーそー、それがリボン時代の始まりだ!」

「小六の春まで続いたんだ。前の席になった吉井さんが大人びててさ」

「そーそー、ブラウスの背中に浮かんだブラ線見た時はショックだった!」

「家に帰ってすぐに初ブラ買いにいったんだよね!」

「お父さんに着いて行ってもらって!」

「お父さん、真っ赤な顔で、お店に入れなかったんだよ」

「お兄ちゃんは鼻血出しちゃうしね」

「男って、おっかしいよねー!」

「「アハハハ」」


「ちょっと、早く片づけちゃいなさいよ! そいでお風呂入んな!」


 風呂上がりのみなみさんがガシガシ髪を拭きながら注意する。


「マリア、いっしょに入ろ」

「あたしお風呂当番だから、あとにする」

「じゃ、おっさきー!」

 鼻歌を奏でながらまりあは風呂に向かった。

「マリア、あんたアシさんでもあるんだから、この溢れかえった荷物なんとかしなさいよね!」

「わかってまーす」

 調子のいい返事をすると、言葉とは裏腹に段ボールの中身をぶちまけ始めた。

「ちょ、マリア!」

 もうみなみさんの言葉には反応せずに、敷き詰めた思い出アイテムの上でゴロゴロし始めた。

「あ、あのなー」

「ゴロニャーン」

「あんたは猫か!」


 あくる日、まりあは、みなみさんが手配してくれたロッカールームに荷物のほとんどを運び込んでしまった。


 夕べ、風呂からあがると、マリアがマタタビに酔った猫のように目をトロンとさせヨダレを垂らしながら引っ越し荷物に溺れているのを見て気持ちが変わってしまったのだ。


 どうやら、マリアの作戦勝ちのようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る