第6話『ウズメ発進!』
まりあ戦記(神々の妄想)
006『ウズメ発進!』
マリアに大事なことをやらせようとしていることは分かっていた。
だが、こんなとんでもないものに乗せようとしているとは、ホトケさんになった俺でも分からなかった。
ウズメはとんでもなく巨大なロボットだ。
ロボットという概念に収まるものではないのかもしれないけど、十六年で人生を終えてしまった俺には、これを的確に表現する言葉が無い。
「思ったよりおっきい……かな……でも……慣れてしまえば……関係ないか……」
まりあは、ここで何をするのかは分かっていたようだ。親父から打診があったんだろう、おそらく一か月ぐらい前に。じっと考え込むことが増えてたし、先週からは家の中を片付け始めていたしなあ……仏壇に手を合わせる時に、なにか言わねえかと思ったんだけど、けっきょく今朝まではホトケさんの俺にも言いやがらねえ。
まあ、相談されても応えてやる口も無いんだから、俺の自己満足にしかならないんだろうけどな。
俺は、生活の場所を親父のとこに移すだけかと思っていた。俺が付いているとは言えホトケさんの身、リアルでは何もしてやれねえしな。仕送りとかはあるにしても、十七歳の女子高生が一人暮らしというのはきびしい、時期的には進路選択が主題の三者懇談も近いし、学校の昼飯以外はボッチ飯てのもこたえるよな。
なんか、俺の知らない間に、こいつなりに成長してんのかもな。
え? ちょっと震えてねえか?
胸ポケットの中に居るもんだから、震えが直に伝わってくる。
あ……え……なんちゅうか、左のオッパイの上なんで、なんかけしからん振動なんだけど(^_^;)。
「ヘッドセットとコントローラーは?」
「乗ると言ったはずだが」
「だから、ブースとかに入ってドローンみたく操縦するんでしょ? ゲームとかじゃ『乗る』って言うし」
親父は、ズイっとロボットの頭を指さした。
「頭の所に乗り込むスペースがある、乗り込んだら身体を固定して静かに座っていなさい。ベースを出るまではこちらでコントロールする。出てからは、いろいろ指示をするが、基本的にはマリアが感じたまま動いてみるんだ」
え、なにを言ってるんだクソオヤジ!?
前世紀のロボットアニメじゃねえんだ、直に人間が乗るなんてアナログすぎっだろ!
「リアルに乗り込むって、これがやられたらオペレーターも一巻の終わりじゃない」
「機体とシンクロするには直に乗るのが一番だ。だから、ゲームでも『乗る』という表現をするんじゃないのか?」
――司令、ウズメの発進準備完了しました。パイロットを搭乗させてください――
「分かった、急げ、時間がない」
「ど、どうやって動かすの?」
「イメージするだけでいい、ウズメがシンクロして行動にうつしてくれる。ウズメを信頼して委ねてしまいなさい」
「……わかったわ」
短い会話を打ち切り、まりあはリフトに乗る。
もう震えてはいない、ここ一番のクソ度胸なんだろうけど、大丈夫か、まりあ? ホームルーム延びるのが嫌で、義侠心から球技大会の選手の選抜に手を挙げるのとはレベルが違うぞ!
ほんの三秒ほどでリフトははウズメの頭部に着き、開いた後頭部のハッチからマリアは乗り込んだ。
――座ったら楽にして……そう、リクライニングになるから――
みなみ大尉の声に変わった。
「シートベルトは?」
――無いわ、自然に緩やかに固定されるから心配しないで――
「はい」
CICの中では五人のオペレーターが、それぞれのモニターやらコンソールの前に座ってオペレートしている。
「ジェネレーター1番から6番までオールグリーン」
「ウェポンコネクターオールグリーン」
「各部関節オールグリーン」
「シールド展開完了」
「同期率80%、出撃可能値を超えました」
「120%まで待つ」
「それは危険です!」
みなみ大尉が声を上げた。
「まりあを守るためだ、シンクロが切れてしまったらウズメはただのデクノボー、しっかりシンクロさせるんだ」
「しかし」
「まりあなら大丈夫だ」
「同期率110%……115%……120%今!」
「固定!」
「固定!……効きません、同期率さらに上昇、130%、140%、150%……」
「危険です、中止しましょう、司令!」
「待て……」
「190%、200%……安定しました」
「よし、いける。ウズメ発進!」
ズゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
腹に響く振動がして、ウズメを載せたエレベーターは加速して三つの隔壁を抜け、地上に達するとブースターを点火したウズメを秒速100メートルの速度で紺碧の空に打ち出した!
バシューーーーーーーーーーーーッ!!!
時に2053年、まりあ戦記が歴史に刻まれる時がやってきた。
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