不器用な彼と意地っ張りな私
ひろきち
前編 幼馴染のあいつ
私の名前は 赤沢 春香。
高校2年生だ。
県内有数の進学校でもある川野辺高校で生徒会長なんてことをしている。
と言ってもついこの間選任されたばかりなんだけどね。
そして今は授業の終わった放課後の時間。
私はいつもの様に仲の良い友達と教室で時間を潰していた。
いつもであれば私にとって幸せな楽しい時間のはずだったんだけど・・・
「はぁ・・・」
「どうしたのよ。大きな溜息なんかついて。幸せが逃げてっちゃうぞ♪」
「だってさぁ~ もうじきクリスマスでしょ。
去年は2人と一緒にクリスマスパーティしたけど・・・今年は麻友も美津子も素敵な彼氏が出来ちゃったし・・・私だけぼっち「赤沢 春香!」」
と友達との会話を遮るように教室に入ってきた男が私の名前を叫んだ。
人の名前をフルネームで・・・・声で誰かはわかったけど・・・
私は敢えて相手が望んでいるであろうリアクションをしてあげた。
「誰よ!」
「ふ、俺だ。お前の婚約者 黒木 智也だ。いや正確には"元"婚約者だな。
俺は今を持ってお前との婚約を解消する!
そしてここに居る冬香とあらたに婚約する!」
はぁ?
「お姉ちゃんごめんなさい。
お姉ちゃんには悪いと思ったけど・・・私智也さんの事が・・・」
冬香まで何やってるの?
「・・・・春香って黒木先輩と婚約してたの?」
「・・・・冬香ちゃんって他に彼氏いなかったっけ?」
麻友、美津子・・・うん。
もっともな疑問だよね。
冬香も先輩の後ろに隠れるようにして私を見つめ涙ぐんでるし。
いつもみたいに小芝居をし掛けて来るとは思ってたけど何なのよそれ?
「・・・・婚約とかそんなわけないじゃん。
それに美津子の言う通り冬香には黒木先輩じゃなくて他に彼氏いるよ」
本当に何やってるんだか・・・
「ノリ悪いなぁ。そこは"せめて理由でも"とか"どうしてですか智也さん"とかだろ?」
「もう・・・お姉ちゃんもたまには付き合ってよ」
"だろ?"とか"付き合ってよ"って言われてもさ。
麻友も美津子も呆れてるわよ。冬香まで先輩に同調しちゃって・・・
さて、この空気の読めないおバカさんは、私の幼馴染で演劇部の黒木智也。
地元の小劇団にも所属している演劇バカだ。
見た目はそれなりに良く勉強も運動も出来るし家もお金持ちなので昔から女子受けはいいみたいだけど・・・何ともおバカな行動が多く正直めんどくさい。
ちなみにこれでも私より1つ年上で一応は先輩だ。
小さい頃は頼れるお兄ちゃんって感じで・・・ちょっとカッコイイなとか思っていたし正直大好きでいつも後をついてまわっていた。
多分・・・私の初恋だったのかもしれないし今でも・・・。
でも、本人は無意識なのかもしれないけど中学・高校と智也兄の周りには綺麗な女性の取り巻きが沢山いて、いつの間にか距離が出来ちゃったんだよね。
私は良く地味とか華が無いとか言われてたし何だか近づきずらくて・・・
ただ、高校に入ってからは何故か今日みたいな感じで、智也兄の方からウザ絡みしてくるんだよね。
微妙な距離感で結構イラっとすることも多いから、ついきつく当たっちゃうときもあるんだけど、どういうつもりで私に接してるのかな・・・
やっぱり話しやすい幼馴染?それとも仲の良い友達?もしくは妹みたいに思われてるのかな。
それとも・・・少しは異性として見てくれてるのかな。
そして、そんな智也兄の隣に居るのは私の妹の冬香。
こちらは1つ年下の1年生で彼女も演劇部に所属している。
愛嬌のある可愛らしい顔をしていてスタイルも抜群。
女の私から見ても魅力的だ。
彼氏も居るのに告白も結構な回数を受けているらしい。
そんなこともあり良く妹さんは華やかで可愛いのにとか比較され嫌な思いもしたことはある。でも姉妹仲は良く私としては冬香が可愛くて仕方ないし冬香も私の事を慕ってくれている・・・はず。
まぁそれはそれとして、
「で、今度は何?乙女ゲーム的な婚約破棄の令嬢物の芝居でもするの?」
「お、流石だな春香。その通りだが、それを現代版にアレンジした作品だ。
来週のクリスマス公演に向けた新作で脚本も俺が書いた。ちなみに俺は令嬢に婚約破棄を行う御曹司役。つまり主役ってところだ」
はいはい。いわゆる"ざまぁ"される思慮の足りない色ボケした王子様的な役ね。
何だか智也兄にピッタリじゃない。実際お金持ちの御曹司でモテるし。
でも、そういう話って婚約破棄される令嬢役が主役なんじゃないの?
・・・もしかして冬香が?
「冬香も出るの?」
「うん。妹役。セリフも結構貰えたんだよ!」
妹ってことは婚約破棄される令嬢の妹かな?
「へぇ冬香ちゃん凄いじゃない」
「セリフが沢山あって覚えるの大変なんですけど嬉しくて♪
あ、渋川先輩と大崎先輩も時間あれば見に来てくださいね」
「うん。行けたら行くね。そういえば婚約破棄される令嬢役は誰がやるの?」
「あ、令嬢は3年の近藤先輩です」
ん?3年の近藤先輩?
「・・・え!もしかして近藤生徒会長?」
「もぉ~ 今は春香が生徒会長でしょ」
「え、うん。そうだけどなんで近藤先輩が?あの人演劇部じゃないでしょ」
近藤先輩は私の前任の生徒会長で憧れの人だ。
凄く美人で成績もよくて仕事も出来て・・・でも人見知りが激しくて演劇とかそう言うのは苦手なタイプだったはず。
「近藤って学内でも有名だったし、つい最近まで生徒会長もやってただろ。
今回はイベント的な特別公演だし客演ってことで頼んだら承諾してくれたんだよ」
「・・・よく先輩OKしてくれたわね」
「まぁ・・・その・・・なんだ・・・色々とコネがあってな」
何だか色々怪しいけど先輩が出るなら私もちょっと見てみたいかも。
だけど・・・クリスマス公演か。
「・・・そのクリスマス公演ってクリスマスの当日にやるの?」
「今年は日曜がクリスマスだろ?当日やイヴだと集まり悪いだろうから終業式の終わった後、金曜の午後に視聴覚室を借りて公演するんだよ」
「そ そっかクリスマス前の公演なんだ」
「そ。だから、渋川さんも大崎さんもチケットは融通するから遠慮なく彼氏さんと立ち寄りいただければと♪」
「はい。ありがとうございます」
麻友も美津子も何そこで顔を赤くしてるのよ。
まぁあの2人は・・・彼氏と色々と予定なんだろうけど・・・私だって本当は
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智也兄と冬香が帰った教室。
何だか一気に教室が静かになった気がする。
そんな中、私が少し気が抜けた感じでいると美津子が話しかけてきた。
「ねぇ春香って黒木先輩の事好きなんでしょ?」
「み 美津子!なにを!」
「え~ だってねぇ 春香って黒木先輩への口調はきついのに、いつも何だか楽しそうにしてるんだもん。ね~ 麻友」
「うん。わかりやすいなぁって思ってたんだけどもしかして無自覚?」
「そ そうなんだ・・・」
それは・・・無自覚ね。。。
気をつけねば。
「で、実際のところどうなの?黒木先輩って結構カッコいいと思うんだけど」
「・・・智也兄は・・・私の事は話しやすい幼馴染とか仲が良い友達か妹くらいにしか思ってないよ」
「え~そんな事無いと思うんだけどなぁ~」
「そんなことあるの!ほら!そろそろ部活の時間でしょ!この話はここまで!」
「はいはい。折角春香の恋バナ聞けるかと思ったのになぁ~」
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