12

「よし、間に会った。よかった。マサル、いきとんね」

「シャ、シャーミィ?」





 すっかり腰を抜かして、へたり込んでいるマサルはその場に現れたシャーミィに驚いていた。




(シャーミィが、何でここに? オークが、魔物が迫っているのに!!)




 そしてどうしてここにと信じられない気持ちになっている。

 マサルにはシャーミィが死ぬ未来しか見えなかった。



 幼い少女の姿をしたシャーミィが、冒険者が逃げ出すオーク相手に戦えるとは思えない。それは当然のことであろう。

 だけど、シャーミィは平然としている。





「シャーミィ、逃げるんだ!」

「私は、逃げんで大丈夫」




 じっとシャーミィはオークたちを見据える。威圧感を込めた睨み。それに対してオークたちは一瞬怯むが、シャーミィに向かっていく。


 シャーミィよりも、背が高い。

 武器を持った豚の魔物。――その集団が、シャーミィに向かっていく。

 へたり込んでいるマサルよりも、動いている、女性であるシャーミィに狙いを定めているらしい。



 ――オークというのは、人を攫う習性もあるのだ。女性が捕まったら結構恐ろしい目に遭う。




「シャーミィ!」






 マサルが叫んだ時には、シャーミィは動いていた。



 シャーミィは微笑む。

 オークを前にしているとは思えない笑みで。――その笑みは、美味しいものを前にした子供のようだった。






「いただきます」






 そう口にしたかと思えば、シャーミィの姿が光った。そして、地面が揺れる。大きな、大きな揺れ――。





 目を瞑ったマサルは、次の瞬間目を開ける。





 視界に映ったのは、土色の何か。それは動いている。地面が凹んでいる。




 マサルがいる場所はかろうじて、沈没していないが、その動く何かが、地面を揺らし、マサルの目の前にいたオークをその大きな口で、全て食らった。何十匹もの恐ろしい武器を持ったオークは一瞬で、その魔物に食われたのだ。





 マサルは何が起こったのか理解できなかった。





 シャーミィがいた場所に現れた、動く何か。巨大な化け物が、目の前にいる。その事実にマサルは恐ろしかった。

 何が起こっているのか分からなかった。





 その何かが、こちらを振り向く。

 ――それは巨大な、巨大な魔物である。大きなミミズ。そのミミズがこちらを見ていた。

 その衝撃に、マサルは失神してしまった。

 マサルが意識を失ったのを見て、シャーミィは人の姿へと姿を変える。





(やっぱり、マサルにはたえられんかったか。まぁ、目の前でオークを暴食した魔物は怖くなかわけないよね)

 そう思っているシャーミィの元へ、ククとロドンが駆けつける。






「シャーミィちゃん、元の姿に戻ったのね?」

「うん。クク、マサルのこと、よろしく」

「え?」

「マサル、私の姿見て意識失った。私、一緒に居れない。マサルに、ごめんねって言っといて」

「シャーミィちゃん、待って!」






 シャーミィはククとロドンの制止の声も聞かずに、マサルを二人に任せてその場を去っていった。











 シャーミィが目指したのはオークの集落だ。シャーミィが食らいつくしたものだけがオークのすべてであるとは思えない。

 シャーミィは集落へ向かうと、本来の姿へと転身させ、全てを食らいつくした。街への危険が去ったことを確認すると、シャーミィはどこかへ行ってしまった。

 その後、しばらくシェッドの街では《デスタイラント》が現れたと騒ぎになったのである。




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