バニラ

「お前、俺の仲間になれ!」


「――はっ?仲間?なんで俺を……?」


 俺が勝ったならともかく負けたよね?あなたに一発くらいしか入れれずボコボコにされた記憶があるんですけど?


「なんでって……なんとなく?」


「てっ……テキトーー!仲間ってそんな感じになるもんだっけ?もっと絆とか深めてからなるもんじゃ」


「……おい、私抜きで話を進めるな。混ぜろ」


「安心してくださいよアリアさん。別にあんたから取ろうって訳じゃない。ただこいつの戦い方が気に入ったからパーティーに入って欲しいだけだ。クエストねぇ時は家に返すよ」


 俺はレンタル犬か?


「……まぁ命令だししゃあねぇよ。お前のパーティーには入る」


「蓮……はぁ、仕方ない。私もそろそろ誰かと組ませるべきかと考えていたしな。明日ギルドにパーティー登録を済ませに行こう」


「アリアさん……」


「出来ればお前らのような常識のない奴らとは組ませたくなかったがな!!」


 お怒りの様子だ……こりゃ帰ったら長そうだな。


「よし!んじゃあ明日の朝にギルドで集合な!待ってるぜ兄弟!」


 満面の笑みでバルクは会場を去った。


「はぁ……これで俺もシンプソンズの仲間入りか。気が重い」


「とにかく帰るぞ。それと、今日は楽しみにしてろ……!じっくり反省会だ」


「……ウィ、ウィー」


 こちらも中身は違うが満面の笑みで会場を去った。その後、俺は2時間アリアさんの反省会という名の注意や説教に見舞われた。まぁ最後には優しい言葉掛けてくれるんだけどね……それまでが長かった。



 -------------------



 翌日、俺たちはギルドへ向かい、バルクパーティーに合流した。あのメガネを除く2人は俺を見つけると大手振りでこっちだー!とアピールしてきた。俺あのパーティー入るんだよな……メガネさん、ポジション交代しない?


「よく来たな!正直来ないかとも思ったぞ!まぁ来なかったら無理やりでも連れてきたがな!」


「よぉー兄弟!お前兄貴に負けたんだってなぁ!気を落とすなよ、おいらなんて30連敗中だ!」


「ふん!お前の加入など私は認めんぞ!何故なら、お前がいると私要らなくね!ってなりそうだからだ!」


 30連敗は落とせよ。あとメガネさん、あなた結構正直者ですね。そんな貴方には金メッキのメガネをあげましょう。


「それじゃあ蓮、頑張りなさい!暇が出来たら帰ってきなさいよ、じゃないと怒るわよ」


「ははっ!そりゃやだな!それじゃ、行ってきます!」


「いってらっしゃい!」


 こうして俺達はギルドへパーティー登録をしに行き、アリアさんは帰宅した。


 ――よし!気合を入れ直せ。これからじご……じゃない、新しい冒険者ライフが幕を開ける!パーティー内容こそあれだが、戦った相手とパーティーを組む。俺の憧れのシチュだ。


 登録を終えると、早速メガネさんがクエストを受注してきたらしい。


「バルク、エトラ、あと……」


「……?ああ、そっか。蓮です!」


「……蓮、今回受注したクエストはBランククエストであるダンジョンの探索だ」


「何探すんすか?ルニア兄貴?」


「ダンジョンの最奥にあるというアクアマリンという宝石だ。お守りとして販売しているらしい。今回はそれをとってくるクエストだ」


 へぇ、宝石をお守りねぇ。まぁ日本でも昔勾玉クビに引っ提げてたっていうしそんな感じなんだろうな。……売ったらいくらなんだろ。


「なんかえらく簡単なクエストじゃないか?ルニア兄貴?」


 まぁ確かに。そのダンジョンがどんなとこなのかは知らんけど。その問いに対して、ルニア兄貴、略してルニアが答えた。


「今日はこのパーティーでの初めてのクエストだ。これくらいで様子を見た方がいい」


 なんだ、俺のこと嫌ってるような発言があったけどちゃんと考えてはくれてんだな。見方が変わった。


「――と、バルクが言っていたのでな。仕方なくだ!」


 前言撤回。この人やべぇわ。にしてもほんと正直者ね。銀メッキのメガネもやろう。


「まあまあルニア。仲良く行こうぜ!俺が誘ったんだからよ、ここは一つ俺の顔を立てると思ってさ!なっ!」


 バルク、ランクだけかと思ってたけどちゃんとリーダーやってんだな。ルニアの発言から俺のこともしっかり考えてくれてるみたいだし。やっぱいいやつではあんだよな。


「まぁ、リーダーであるお前が言うなら従うよ」


「それじゃ、兄弟共!早速クエストにー、行くぞー!」


「おおーー!」


「ふっ、了解」


「お、おお。」


 俺が言うのもなんだが噛み合ってねぇな俺ら。本当にこれで大丈夫なのかよ?まさか戦闘になったらバルクにおんぶに抱っことかなのか?


 まだバラバラな俺たち……というか俺とその他。こんな状態で大丈夫なのだろうか?不安しかない。



 -------------------



 ギルドから3時間ほど馬車に揺られ、俺達はダンジョン入り口前に到着した。因みにこの3時間の間に何回か話そうとしてみたが、俺だけ孤立感が半端じゃなかった。メガネ以外の2人は話しかけてはくれるのだが、なんだか俺の方が遠慮してしまう。何故だろうか?


「よし、早速今からダンジョンに潜るわけだが、改めて自己紹介をしよう!出来れば魔法のことも話してくれ。これは冒険者同士の信頼の証みたいなもんだ」


 魔法か……まぁほとんどネタ割れてるようなもんだしいいけど。しかしこの自己紹介は助かる。なんたっていくら魔法を吸収できても使い方が理解してないと持ってないのとと同じだ。もしかするとそれも見越しての自己紹介なのかもな。


「じゃあまずはリーダーの俺からだな!バルク・フルニタス。魔法は操砂オペラザート。効果は体から砂を出し、それを自在に操る魔法だ。宜しくな!」


「次は私か。ルニア・グラフ。魔法は拒絶リジェクション。指を指したものを拒絶し、魔法であれば消滅させる。しかし1度使うと10分は魔法が使えん。以上だ!」


「それじゃあ次はおいらだな!エトラ・ローレンス。魔法は施錠ロックorオープン手で触れたものの動きを停止させたり動かしたり出来る!最大止めれる範囲は腕を横に広げた時の長さくらいだ。これから宜しく頼むぜ!兄弟!」


「んじゃあ最後は俺か。指宿蓮。魔法は……|異類無礙《アクセプト」。体や武器で触れた魔法を吸収して使うことが出来る。ただし吸収と他魔法の発動は並行して出来ないのと、1吸収につき1回しか使えない。ストック制だと思っててくれ。これから宜しく頼む」


「よしよし!自己紹介は済んだな!――全員覚えたか?蓮?」


 バルクがこっちを見てニヤついている。あぁ、やっぱりそういうことね。よかったー真面目に聞いてて。名前だけだったら聞き逃しちゃったね!


「ああ、おかげさまでな」


「ふふん!なら良かった!――それでは気を取り直して行くぞ!チーム"バニラ!"」


 バニラ?こんな暑苦しい奴のチームがバニラ?!お前らはもっとトゲどけしくてうざったい名前が似合うだろ?


「あのさ、バニラって何?誰が付けたの?」


「私だ」


 メガネさんでしたか。まぁこの中では一番付けそうではある。


「バルクのバ、ルニアの二、そしてエトラのラでバニラだ。何か文句でもあるのか?」


「……ごめん、意外としっかりした理由だったわ。いいと、思うよ」


 微妙に納得してしまったところで、バルクが急に頭を捻り出した。


「だが蓮が入ったからなー、蓮、レン…………よし!バニラレーズンはどうだ!」


「お!バルク兄貴冴えてんな!それで行こうぜ!」


「……まぁ、無難だな」


「ちょっとまて落ち着けお前ら!なんで俺だけ2文字?ただでさえキャピキャピな名前なのにこれ以上ファンシーにしてどうする?そもそもお前らバニラレーズンって知ってんのか?」


「ん?レーズンは知ってるぞ?ブドウの天日干しだ。バニラは知らん、あるのか?」


「ああ、そう……知らないならいいや。行こっか」


「おう!では改めてバニラレーズン、始動だ!!」


 チーム名が決まり、俺は天日干し担当になったところで、ようやく俺達はダンジョンへと足を踏み入れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る