魔法の進化

「おいらの目的教えてやるからついてきてよ」


 そう言われ、判断に迷っていた。確かにこいつの目的はすごい気になる。それに俺を連れてくるよう頼んだ奴にも。だが行ったら行ったでロクでもないことになる気がしてしまう。


 俺が判断をしあぐねていると、アリアさんが戻ってきた。


「れーん、お待た……せ?蓮、誰だいそいつ?」


「不審者」


「おいおいそりゃねえぜ兄弟!お互いの夢を語り合った仲だろ?」


「だから兄弟やめろ!仲どころか俺のこと攻撃してきただろうが!」


 そういうと、アリアさんが手に雷を纏わせ――


「そうなのか?よし蓮、ちょっとどいてろ。1時間ほど気絶させてやる」


「そりゃないですぜアリア殿!ちょーっと試しただけですって!」


「なぁ、いい加減目的言ってくんないか?俺は別にお前について行かなきゃいけない理由はないんだが」


 そう言われエトラは少し考え込み、「はぁ!!」と文字通りはっとした。


「そうじゃん!おいら馬鹿だなー!…………お願い!一緒に来てくんない?」


 無策!まさかなんの策も無しに大口叩いてるとは思はなんだ。ほんとこいつ怖い!……まぁでも正直気になりはするんだよな、こいつの目的。


「ねぇアリアさん、俺付いてってみてもいいかな?こんなことしてくる理由気になるんですよ」


 そういうと、アリアさんは少し考え込み


「……分かった、だが私も同行する。何かあった時私がいれば安心だ」


 正直1人で行くのは少し不安だったが、アリアさんが同行してくれるなら安心できる。


「流石Sランク。重みが違いますね!じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。お前もそれでいいだろ?」


「ま、しょうがないかな。ただ暴れないでくださいね?」


「お前ら次第だ」


「そっすか。んじゃあついてきてください!」


 俺たちはエトラに連れられ、ギルドの近くの飲食店へ入った。中は昼だというのに薄暗く、閉店後かというほどガラガラだった。そしてそこに唯一いた2人組の男性達がこちらに視線を移した。


「エトラ、戻ったか。」


「おう!連れてくんのにちょっと手間取ったけどな!」


 最初に声をかけてきたのは青髪のメガネをかけた青年。続いてもう1人、こちらも青髪で短髪の青年が話しかけてきた。


「よお!いきなり来てもらって悪いな。俺の名前はバルク・フルニタスだ。そんでこっちのメガネがルニア・グラフだ。宜しくな!」


「宜しくお願いしよう」


 短髪の方も大概だがなんでこのメガネはこんな偉そうなんだ?こいつら3人とも失礼とか……真に不遜な連中、略してシンプソンズと呼んでやろうか。


「んで、用ってなんだよ?俺だって別に暇ではないんだが」


「まぁまぁ、落ち着いて話そうぜ兄弟!」


 エトラの兄弟呼びはテメェの影響かよ。


「実はな、お前に折り入って頼みがあんだよ」


「頼み?」


「俺はAランク冒険者でよ、もうすぐSランクに上がれそうではあるんだが、いかんせん魔法が進化出来てなくてな。それが出来ねぇとSに上がれねぇんだよ」


 魔法の進化……そういえば前にアリアさんも言っていた気がする。


「アリアさん、いい機会なんで聞いておきたいんですけど魔法の進化ってなんですか?」


「あぁ、そういえば教えてなかったか。魔法というのは初期状態から1段階進化させることが出来る。そうすることで威力が上がったり効果が増えたりする。例えば手で触れたものを浮かせる魔法だったとしたら、進化すると手で触れなくても浮かせられるようになったりするんだ」


「そっ!んでさっきも言ったが魔法が進化していることがSランクへ上がるための前提条件なのさ!」


「へぇー。因みに魔法ってどうやって進化を?」


「要素は大きく3つ。1つは何度も魔法を使うこと。次に魔法の理解度。そして最後に――感情だ」


 感情?進化しろー!行けー!って気持ちを持てってことか?


「例えば危機的状況、死にたくないという思いや守りたいという強い思い。あと、宜しくはないが強い殺意などもこれに該当する。つまり感情が昂り、そのことのみに集中した時魔法は進化する」


「そーいうこと!んでお前に頼みたいことってのはな、俺と手合わせしてもらいたい!」


 えっ?なんで?話飛ばなかった?


「今の話を聞くに俺と戦っても意味ないでしょ?もっと強い人と戦わないと」


「――お前、脳無しなんだろ?」


「はっ?どこからそれを」


「俺達ゃよくギルドにいるからな、マルロが「脳無し!」って叫んでんのをきこえちまったのさ」


「あー、初日か。……でもそれ関係ないでしょ、脳無しとか。実際あんたより格下なんだから」


「聞いたぜ、EランクでありながらCのディアスを倒したんだろ?それにお前の魔法、詳細は知らんが相手の魔法を使えるらしいじゃねえか!お前が俺の魔法を使ってくれれば理解も深まるし、何より危機的状況に追い込まれる……勝手だがそんな予感がすんだよ」


「評価していただいてんのは有難いが、俺にメリットがない。勝てる気もしない。なんたってつい昨日Bランクになったばかりなんだ。まだ無理さ」


 Sランクになろうかという奴と勝負?冗談じゃない。ディアスとの勝負はまだ勝機があったがこいつは無理だ。絶対に勝てない。


 とここでアリアさんが口を開いた。


「話は終わりか?じゃあ蓮、帰ろうか。こいつと戦っても得られるものはさしてない」


 身を翻し、扉に手をかけたが、開かない。鍵付きでもないのに。ということは――


「悪いな、アリア殿、兄弟!バルク兄貴のお願い聞いてやってくんねぇかな?」


「……はぁ、だから俺じゃ無理だっつってんだろ?他の人に……それこそSランク冒険者にでも頼めばいい!」


「それは……!」


 その様子を見かねたメガネさんが前に出てきた。


「――エトラ、わたしが替わろう」


「ルニア兄貴、なにを?」


 メガネの青年ルニアは唐突にアリアさんを指差し--


「拒絶魔法――不可侵領域キープアウト


 アリアさんの周りに不思議な壁が発生し、閉じ込めた。


「小僧、こんなもので私を止めるつもりか?舐められたものだ!雷神の一撃トールハンマー!」


 アリアさんの一撃が壁に直撃する。……しかし、何故かヒビひとつとして入らなかった。これには流石のアリアさんも同様を隠せないようだった。


「なっ……なに?」


 するとルニアはメガネをクイっと上げ、


「驚いたか?私の魔法は拒絶リジェクション。あらゆるものを拒絶する魔法だ。そしてこの技は丸1日魔法が使えなくなる代わりに、対象をその間絶対に閉じ込める技でな。Sランクに試したことはなかったが、問題なく通用するようだ」


 施錠魔法に拒絶魔法。妙な魔法ばかりだな。そうなるとリーダーっぽいバルクってのはどんな魔法なのだろうか。とにかくアリアさんを助けるのが優先だな。


「さぁどうする?師匠を人質に取られては戦うしかあるまい!!」


「おいおいルニア……そこまでやる必要はねぇよ」


「バルク!お前は甘いのだ!本当に欲しいものがある時は力づくでも――」


「……あのさ、もう帰っていいかな?」


「……は?」


 正直この拒絶魔法、たしかに凄いのだが俺にはあまり関係ない。


「そうだ、殴られる準備だけはしとけよ…………異類無礙アクセプト


 俺は壁に魔法を使い触れ、吸収した。ついでに出口にかかってた施錠魔法も吸収しておいた。


 施錠魔法2に拒絶魔法1。いいお土産だったなー。


「魔法が……消えた?一体なにが・・・?」


 魔法が解け、アリアさんは解放された。和かに、そして雷を纏いながら。


「蓮、先に帰っててくれ!私はこいつらとがある!」


「ご……ごゆっくりー」


「ちょっと待って兄弟!!逃げないで助け――」バタン!


 俺は急ピッチでドアを閉めた。別に逃げたかったからではない、早く帰って休みたかったからだ。……ほんとだよ。


 本来なら物凄くしぶりたい角カラスに一目散に乗り込み、俺は飛び去った。飛び立つ直前、建物から電撃と悲鳴が漏れていたような気がするが気のせいだろう。


 しばらくしてアリアさんが無傷で満足そうな顔をして帰ってきたのは言うまでもない。



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