最低が最高に
オーブを前にし、ようやく自分の魔力の高さ、そして何よりどんな魔法を使えるのかという検査が始まる。
……こいつに触れるんだっけかな?俺は掌をオーブに当てた。
するとマルロさんが言っていたように、オーブの中に黒色の煙が溜まって行った。よしよしその調子!運動テストでは散々な結果だったが、せめてこの2つくらいは転移特権として強くあってくれよ!
煙はあっという間に半分を超え、だいぶ充満してきた。恐らく満タンでSランク。いまは多分Bランクくらいまで溜まってる。よし……このままなんかの間違えでSSランクとかになれ!創作の転移者はそれくらいやってんぞ。
そう祈りながら触れていると、ついにAランクに到達した。
「ほう、流石は脳無しですね。平均のBを超えましたよ!」
取り敢えず平均は超えた。だがその他の能力全て最低ランクの俺だ。せめて魔力くらいは最高ランクで……!
――そう願ったのも束の間、煙の充電はここで止まった。結果はAランク、決して悪くは無い。だが唯一期待できそうだったものも中途半端なものだった。
――まじか。頼みの綱だった魔力ですら平均より一個上程度……いや、気を取り直せ!まだ魔法が残ってる。アリアさんのような強くてカッコいい魔法が有れば――
オーブに文字が滲み出る。魔法の名前とその内容。魔力と同じくらい……いや、それ以上に楽しみにしていたこの魔法を知る瞬間。元の世界にいる時でもいくつか妄想したものだ。火や水などの属性系や、召喚魔法、己の身一つで敵を倒す身体強化魔法なんかも妄想した。そんな俺が手にした魔法は――
《
内容は、"自身の体や武器に触れた全ての魔法を吸収し、1吸収につき1度だけその魔法を自身の魔法として使うことが出来る"というものだった。
……強い、のか?要するに相手の魔法を食らったら1度だけその魔法を使えるってことだよな?でもこれ魔法使ってこない相手には何も出来ないしそもそも1人だと相手の魔法待ちってことか?
……終わったかも知れん。どうやら俺は憧れの無双系主人公にはなれないらしい。これ、アリアさんになんて言えばいいんだ?「自信満々に行った結果、運動能力最低で、魔力もそこそこ、魔法に関しては他力本願でした!」って言うの?俺今日のテストめっちゃ自信ある!って言った後余裕でその友達に抜かれてたような恥ずかしさだ。
受付に戻り、ステータスが発行される。テストや魔力検査の結果を総合的に判断して自身のランクが決まる。マルロさんの話だと最初はみんなC〜Dランクくらいらしい。まぁテストでEランクを取りまくった俺は当然――
「完成しました。こちらが蓮さんのステータスプレートです。……その、気を落とさないで下さいね、特訓次第ではいくらでも強くなりますから!」
「……はい……あざす。」
当然Eランク。つまり
詰んだ。全方位で詰み状態。背水の陣の方がまだマシなレベルだ。だっていざとなったら川に飛び込みゃいいじゃん。こっちは言うなれば背壁の陣だ。逃げ場なんてどこにも――
そんな落ち込んでいる俺の元にアリアさんがやってきた。露骨に落ち込んでいる俺をみて、無言で肩に手を置き、「……帰ろう」そう言った。帰り道に肉料理を奢ってもらった。すごい美味かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家に入った俺は、止めてもらっておいて流石に何も言わないままはいけないと思い、アリアさんに事を説明した。
「……そうか。やっぱりEランクだったんだな」
「やっぱりってなんすか?俺ってそんなダメに見えます?」
「魔力はともかくその体でテストを乗り切れるとは思えなかったからな。チェルボから逃げてた時凄い遅かったし、すぐに息切れてただろ?あれを見て期待はできんさ」
ぐうの音もでねぇ。そういえばアリアさんはあの現場を見ていたのだ。そりゃそんな感想になるわな。俺だって50M10秒のやつがリレーに出るってなったらこんな反応になるだろう。
「しかしAランクの魔力にその魔法……これに関してはなかなか使えるかも知れん」
「えっ!この魔法使えるんですか?1人じゃ何も出来ないのに?」
「お前自分で言ってて気づかないのか?1人じゃ意味ないなら常に誰かとペアを組めばいいだろ?」
あっ、自分の能力の低さに落ち込んでて冷静に考えれてなかったがよく考えなくてもそうじゃんか!馬鹿だろ俺。
「自分と同じ魔法を使えるってのは敵なら脅威だし味方なら連携を取りやすい。それにお前はAランク級の魔力を持ってる。よく思い出せ!これは吸収した魔法をそのまま出す魔法じゃない、1度だけ自分の魔法にするという魔法だ!つまり威力などは自身の魔力に左右される」
えっと、つまり……どう言う事だ?
「ここまで言って分からないか?つまりどれだけ微弱な魔法を受け取ったとしてもそれをAランク級の威力で使用できるって事だ!しかもストックが出来る。どうだ?こう考えると結構強い魔法だろ?」
なるほど……!もしアリアさんの魔法を吸収した場合、2人同時にあの鹿擬きを倒したあの必殺技を打てるってことか!しかも供給側はほとんど労力無しに。単純計算2倍以上だ。
「蓮、お前は特に覚えておきな。魔法ってのは解釈次第でどこまでも強くなる。さらに自身が成長する事で魔法を進化することがある。因みに私がそうだ!だからお前も強くなれば1人でだって戦えるかも知れん」
「解釈……進化……!なんか自信出てきました!ほんと、アリアさんに話して良かった。ありがとうございます!」
本当によかった。これでまだ挫けずに生きていくことが出来る。
「――面と向かって礼を言うな!恥ずかしいだろ……」
すると、アリアさんは急に俺を真正面に捉え、こう呟く。
「――なぁ蓮、強くなりたいか?」
「ええ、なりたいですけど、いきなりどうして――」
「なんでだ?強くなくても生きていける。何故強くなりたい?」
――そう言われた瞬間、何故か前の世界で助けた女の子のことを思い出した。
「俺は……その方がかっこいいからってのもあるんですけど、前に死ぬかも知れなかった女の子を助けたことがある――あった気がするんです。その時俺は心から良かったと思えた。あの子のように今にも消えるかも知れない命を助けたい。でもこの世界でそれをするには力がいる。だから……強くなりたい。……えっと、こんな感じですかね」
アリアさんはしばらくポカーンとしていたが、突然吹き出し――
「――ふふっ!いいなそれ!いままで何人かにこの質問をしてきたが、誰かのためと言ったのはお前と、あとレヴィだけだな」
へぇ、あいつそんなこと言ったんだ。意外というかなんというか……
「気に入ったよその回答。決めた、私がお前を強くしてやる!レヴィは時間がなくてBランクまでにしか上げてやれんだが、お前は違う。同居人だから時間はあまりあるし、お前用事とかないんだろ?だったら付きっきりで教え込んで、Aランク……いや、Sランクにまでしてやろう!」
――えっ?この人何言ってんだ?俺今Eランクだぞ、それをSとか……
「あの、鍛えてくれるのは嬉しいんですけど俺Eランクですよ!それをSランクなんて――」
「助けたいんだろ?だったらこれくらいささっとなれ!いざと言う時……私のことも助けてくれるんだろ?だったらせめて私の隣に立てるくらいにはなってもらわないとな」
「そりゃまぁそう……ってアリアさん?……まさか……!」
アリアさんが得意げにステータスプレートを取り出し、俺に向かってこう言った――
「それじゃ早速明日からビシバシ鍛えてあげるよ。この"
俺を拾ってくれた恩人は……最低ランクである俺の師匠は――最高ランクの冒険者でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます