その獣、脳を喰らう〜魔法吸収魔法『異類無礙(アクセプト)』を使って異世界を生き抜く【改訂版】
依澄つきみ
転移か?召喚か?
――視線を一周させる、だが何も無い。あるとすればただの雑草と、すごく遠くに鹿っぽい動物は見える。
ふと視線を上空に移す――真っ青な空の中、角の生えたでかいカラスみたいのが僕の上空をぐるぐると旋回しながら飛んでいる。
……えっ?なにこれ?どここれ?やだこれ!
「ほんとにこれ…………何?」
時は少し前に遡る――
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俺の名前は
いつも通り学校に通い男友達と下らないことで盛り上がり、部活動に勤しむ。因みにこの部活動も普通で、未知のものを発見しようとするものや、友達を作るための部活なんかには入ってない。てか無い。普通に卓球部だ。
帰宅後は1時間ほど勉強をし、夕食後、ゲームやラノベ、アニメを嗜む。この3つとも最近は異世界ものが俺の中のブームだ。この中で1番ハマっているのはゲームかな?やればやる程強くなっていくのは気持ちが良い。ゲームなどに感化され、絶賛体を鍛えているところだ。効果はあまり感じられないけれど……
こんな平凡すぎる毎日を送っていた時、事件は起こってしまった。
信号待ちをしていた俺の横を小さな女の子が1人で通り過ぎていった。なんであんな小さな子が1人で……って!今赤信号だぞおい!
少し遠くで母親らしき人物が大声で名前を呼びながら走って来た。まったく、ちゃんと見てろよ……!
そう思いながらふとその子供の方を見た時、まさに今車がその子を轢きそうになっていたところだった。
――まじかよ!あの距離じゃ母親は間に合わねぇし、他のやつも慌てるだけで動きゃしねぇ。そんな分析をしている内に、俺はいつの間にかその子の元に飛び出していた。
――おいおい!こんなことしてなんになんだよ?絶対死ぬじゃん!……ああもう!どうせ死ぬなら――
俺は子供を抱き込み、向かってくる車に背を向けて振り返った。そして当然衝突された。
――あぁやばい。意識無くなってく……視界は殆ど真っ暗だ。あの子無事だよな?せめてそうじゃなきゃ俺無駄死にだぞ?それだけは頼むから無しで……
そう思い先程まで子供を抱えていた腕の方に耳を澄ます。すると、僅かだが小さな女の子の声が聞こえた。
良かった……何にも……無かったこの俺が……最後の最後で……誰かを救……た、ヒーロー……に……
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こうして、俺の人生は終了した――はずだったのだ。
なのに何故俺はこんなところにほっぽり出されてる?もしかして天国?にしては神様的なのが見当たらないのだが?
足も霊体じゃ無い、頭にも三角巾はついてない。おまけにアニメなどで何度も見たような置いてけぼり光景。
そんな……まさかな。でももしそうだとしたら?こういう状況に立たされた主人公が最初に取ってる行動といえばあれだな。俺は深く深呼吸をし――
「ステータスオープン!!」……しかし何も起こらなかった。
――うん。知ってた、知ってたよ。本当だよ!期待してなかったといえば嘘になるけど、そんなこと本当にある訳がない。そもそもあんなのは幻想だから楽しいのだ。リアルにそんなことになったら多分俺は死――今ここがどこかよりももっと重要なことかも知れないことが起こった。
それは、さっきの鹿もどきの影がだんだんはっきりして来た事だ。この影のスピードを察するに、ここにくるのにあと1分ってところか?
何やら俺に向かって真っ直ぐ向かって来ている。あれもしかして俺餌かなんかだと思われてる……?
これはあれですね、このままいくと俺死にますね。車の次は鹿ですか……?車からせめて段階踏もうぜ。
「なーんて、馬鹿なこと考える暇あるなら……逃げろ!!」
俺は取り敢えず今いる直線上から抜けることにした。一応は運動部だったので足には多少自信はあったが、そんなもの野生動物の前では意味を為さない。すぐさまコースを変更し、俺を再び追いかけてきた。
「おいおいおい!なんだよいきなりこの展開?!もしここがほんとに異世界ならさっさと特別な力発現しやがれー!じゃないとほんとに、死ぬー!」
――くそ鹿擬きどもが。お前ら死ぬ感覚知らないだろ?あれまじで痛いし結構怖いんだからな!
確認のため後ろを振り返ると、もうすでにそいつらの目元まではっきり見える程の距離に来ていた。こいつら目が赤い!怖い!
「やばい、死ぬ!死ぬ!死ぬ!!!誰か――助けてー!!」
「――
上空から突如雷が落ち、鹿擬き共がすべて焼け焦げた。
「んな……?こんな快晴で……雷?」
恐る恐る上空を見上げると、そこには先程のカラスの姿が。そしてそこから人間が飛び降りてきた。
「快晴で雷で角ありカラスから人がジャンプ……ヤベェ、意味わかんねぇ」
混乱しながらその人影を見てみると、なんとその正体は女性だった。赤色の髪で、女性にしては大きい170センチくらいありそうな身長の女性。その女性は俺のことを一瞥し――
「おい、お前何者だ?こんなところまで何をしにきた?」
「えっと……俺は指宿蓮。地元の高校に通うしがない学生です。ここにいる理由は……逆に教えてください」
「お前……ふざけてるのか?」
そう言って彼女は手に電撃を帯びさせながら、さらに俺のことを睨みつけてきた。
「ごめんなさいごめんなさい!中盤ちょっとふざけました!……ただあの、ここにいる理由はほんとに知らないんです。ここどこなんですか?」
――正直漏らしそうだったくらい怖かった事はさて置き、情報を知らなくては。でなければ何も判断できない。
「……お前、本当に知らないのか?もしかしてお前"のうなし"という奴か?」
能無し?もしかして今俺初対面の女性にとんでもなくバカで使えないって言われた?流石にそれは傷つくぞ。
「あの……因みに能無しって?」
「ふむ、それも知らぬと言うとは、本当にのうなしなのだな。初めて見たよ」
「初めてみるレベルのバカってことですか?」
「あぁ済まない、そういう意味じゃないんだ。"脳無し"と言うのは自分の名前以外の記憶を失ってしまっている奴のことだ。昔は"記憶無し"と呼ばれてたみたいだが、「なんか長い」との理由で脳無しとなったそうだ。今ではこの世界のどこでもその名称が通じる程有名だな」
雑すぎるだろ!てか脳無しも記憶無しもそんな変わんねぇだろうが!絶対蔑称としての意味の方が強い。てかあれか、ほんとに怪しい人物だったらそれほど有名な脳無しなんて言葉まで知らないとは言わないってことで信用されたのか。今だけほんと脳無しでよかったー。
「――そういえば貴方は誰なんですか?それにここは一体……?」
「そうか、まだ名乗っていなかったな。私はアリア――"アリア・マクベス"だ。ここの近くにある国、"アラガスタ"周辺の見回りをやっていた。そしてこの鳥は私の相棒の"コルボ"だ。可愛いだろ!」
「は、はい……可愛いっすね。」
角生えたカラスだぞ、可愛くねぇよ!怖えよ!
「さっきも言ったけど私はこの国周辺の見回りをしている。そんな時にたまたまお前を見つけてな、モンスターが普通に出てくる場所でのんびり寝てる奴がいたから、どんなやつかと思って観察してたんだがな……まさか"チェルボ"程度に逃げ出すとは思ってもいなかった」
さっきの鹿擬きチェルボって言うんだ。
そんな感想を抱き、そのチェルボの方を見てみると、なんとさっきまであった死体が霧散していた。
「えっ、ちょ!あいつら散って行きましたけどどうなってるんですか?」
「ん?何を言って……あぁ、そういえば脳無しだったな。モンスターというのは魔素の塊だ。魔法で倒されると分子構造が破壊され、ああやって霧散していく。逆に刃物などで倒した場合は肉体がそのまま残る」
魔素の塊……話を聞く程現実味が薄まっていく。だけどあのモンスター達に襲われたときの恐怖感はあまりにリアルすぎた。第3者なら夢かなにかと切り捨てるだろうが、体感した俺にはそう決めつけることは出来そうに無かった。
「取り敢えず……蓮だっけ?私と一緒に来い。ひとまず私の家に泊めてやろう――お前も聞きたいことまだあるんだろ?」
この人を100%信用することは出来ない。だがこんなとこにいつまでもいるわけには行くまい。ひとまず俺は彼女についていくことに決めた。
この決断が、平凡だった俺の人生を大きく変えることとなる。
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