秘密のノート

天音 花香

第1話

 彼、下谷尊しもや たける君が同じ高校にいると分かった時、私は運命というものの存在を感じた。それは私だけかもしれないけれど、私はそれを信じて、あるノートを書いていた。

 それは何の変哲もないキャンバスノートで、一見、授業のノートにも見える。

 このノートが役に立つ日がくるのか、それすらわからないけれど、私はノートに綴り続けた。


 下谷尊君。

 私、園田青子の前に現れた王子様。


 彼は小学四年生の時に私のいる小学校に転向してきた。背の小さな尊君は少し長めの前髪からのぞく切れ長の目を教室に向けて、自己紹介をした。そして、偶然私の隣の席になった。


 私はその頃、一部の男子たちからからかいの的になっていて、その日も男子の一人が下敷きや定規を使って太陽の光を反射させて私の目に当てるといういたずらをしていた。私は目をチカチカさせながら、でも自分でやめてと言うことが出来ずにいた。すると尊君がその男子を見た。


「やめろよ。嫌がってるだろ?」


 からかっていた男子は舌打ちして、


「何かっこつけてんだよ」


 と嫌味を言ったが、尊君は一瞥しただけだった。

 文句なしにかっこよかった。

 私はこの小さな王子様に恋をした。



 でも、私が尊君に想いを告げることは出来なかった。いつか言おう、いつか言おう。そう思っている間に私は六年生になり、尊君は再び引っ越して行った。


 その尊君が今同じ高校にいる。


 高校二年のクラス替え。

 同じクラスに尊君の名前を見つけた時、私は神様に感謝した。



 そして偶然は続く。


 尊君と私は隣同士の席になった。

 席に着いた時、尊君があまりにも背が伸びていたので驚いてしまった。でも、切れ長の目はそのままで、私は懐かしさで胸がいっぱいになった。


「下谷君。えっと、久しぶり。私、園田青子。小学生のとき、同級生だったの覚えてないかな?」


 私はドキドキしながら尊君に話しかけた。

 尊君は私の方を見て、少し目を見開いた。


「ああ~、園田、さん? えっと、うん、なんとなくわかる」


 尊君の歯切れの悪い返事に、私はちょっとがっかりしたが、その後、尊君は思い出そうとしてくれたようで、


「もしかして、隣の席になったことあった? あの園田さん?」


 と言ってくれたときは思わず笑顔になった。

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