元社畜はVtuberになって幸せに生きる
永遠 虗
プロローグ
「月曜日。
学生や社会人の皆は地獄の様な表情で道を歩いているだろう。
因みに俺は月曜日だけでなく土曜日も日曜日も出勤していた。
そう!
もう俺はこの世の全てを恨むように目を腐らせて歩きなれた道を歩かなくてもいいのだ!!!
自宅のふかふかな布団で8時間以上寝れるのだ!
密かに練習してたラップももう少し時間が取れるのだ!
腐れあのクソブラック広告会社ァァァァァァァ!
24時間広告のPVとか作らせやがってぇえええ!
1人で素材集めて、ない時は描いて、動画作って、効果音当てて、そのうえ『音楽も著作権面倒だからちゃんと勉強してきてね。俺は初心者だからコード進行自体は知ってるけど詳しくは知らないし。1人で曲作れるようになってね。』だよ馬鹿やろぉぉぉぉ!!
そのおかげで耳コピできるようにはなったけどブラックだから音楽聴いてる暇ねぇよド腐れ!!
残業代でないけど給料アホみたいに出るから金は溜まっていく一方!!
ふぁああああああぉおあああああ!!!!
ふうぅぉぅおぉおおおあああああ!」
「お兄ぃうるせぇええええなああああおいいい!!」
部屋越しに叫ぶラブリーでプリティーな俺の妹、沙耶。
「あんた達うるさいわよー!」
「『はぁ……次の仕事どうしよ…』
そう呟きながら俺はマウスを動かし、色んなページを巡ってみる。
『なんかいい仕事ねぇかなー』と愚痴を…なんか俺やってる事ただの変人だなこれ。
実況者になれるんじゃね?」
そこで俺は『Vtuber3期生募集!!』と書かれたページを見つけた。
「よし!!なろう!!!」
「うるせぇ!」
「我が妹!!Vtuberに俺は」
「まじ!?!?」
ドタドタと言う音が数秒したあと、バンッ!と大きな音を立てて扉が開かれた。
「遮るなよ…まあ、応募してみる。会社辞めたし。」
「…まあ頑張って。」
「お、デレか?妹も遂にデレか?」
「うるせぇ黙れ死ね!」
「ぴえん。」
「てか虹ライバーズの受けんの?
滅茶苦茶人気のグループだし、男性Vまだいないよ?
あ、でも男性お断りな訳じゃないんだね。」
「…1次審査は自己紹介動画、結果次第で2次審査。
そのあと都内の面接。前世…所謂実績は問いませんと…」
「とりあえず撮ろうよ!」
「待て。まずは何を撮るかだな…
やっぱVtuberってやべぇ奴ら多いんだろ?」
「…まあそうだけど。」
「つまり第一印象を『やべぇ奴』にすれば興味を持たれるんだ。
だいたい沙耶が言ってることが本当なら応募数もかなり多くて、最初の数秒で見るの辞めるんじゃねぇかな…」
「そういう話聞いたことあるかも!」
「よし、大体決まったわ。撮るから出てけ。
最初にやるのはやる事ただのキチガイだから笑い声とか入るかもだし。」
「…後で見せてよ。リビング行ってくる〜。」
「…よし、やるか。」
俺は録音開始ボタンを押した。
順調に録音していき、録音停止。
「ふぅ…緊張したぁあああ!よし、編集だ!」
カタカタという音だけが響く部屋に静寂が訪れた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!オワッタァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
俺はその場で腕を上げ、精一杯伸びをする。
「まじ!!!?見せろ!」
「…相変わらず登場が早いな。」
再生ボタンを押すと数秒ほのぼのとした音楽が流れ、俺が描いた爽やかな印象を抱く黒髪黒目の俺そっくりのイケメンが現れた。
まあ俺は妹曰く服と髪を整えればイケメンに見えなくはない、なのでめちゃくちゃそっくりという訳では無いが。
そしてその爽やかイケメンから放たれた第一声は…
「なんかのアニメで見たガーゴイルのモノマネします!」
そう言った直後、ドラムやベースが入り音楽が激しくなり、爽やかイケメンは俺が書いた滅茶苦茶ムキムキのガーゴイルに変わり…
「グゴァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!」
と軽く音割れした、しかしクオリティが高い猛々しい雄叫びが耳に入ってくる。
「ぶふぉっ…」
後ろでまとめられた綺麗な黒髪を揺らしながら吹き出す沙耶。
「さて!次です!ラップします!」
いつの間にか爽やかなイケメンに戻っていたアバターは無駄にキラキラしたその辺のチャラ男の様な服装に変わり、DJラック台の傍にたち、真っ赤なヘッドホンに左手を添えて右手でスクラッチのポーズをしながら音楽が流れ始め、そのままラップを始めた。
「心機一転、俺が登場!
ブラックやめて気分上々!
今初日のニートが威風堂々!
もし採用されたら即急上昇!
音楽から編集にお絵描きが、
全部自分でとか俺神か?
好きな動物はポメラニアン!
今はまだ簡単な韻しか踏めないが、
それは勿論付け焼き刃、だから。
これから頑張りメガ進化!
可能性は!無限大だ!
自己紹介を忘れていたな!
歯ごたえ残る『アルデンテ』だ!
送って欲しい、採用通知!
評価してくれ最大級に!
ちゃんと受かったら大号泣し、大興奮!
そのあと自分に買う最高級のG-SHOCK!」
しっかり字幕も付いていて、色やフォントを変えていて見やすいとは思う。
「えぇ…普通に上手いの腹立つんだけど…」
「ありがとうございました!
前世はありません!
これで動画は終わりです!!!」
画面が暗転し、
絵:俺
音楽:俺
編集:俺
ラップ:俺
ラップ音源:俺
スペシャルサンクス:応援してくれた我が妹
とクレジットが出て動画は終了。
「応援なんてして………ばか。」
「え、何それ滅茶苦茶可愛いんだけど。
え、ちょ、可愛い。もっかい。
もっかい『…ばか。』ってぶふっ」
「うるせぇ!!早く応募しろ!」
「ひゃ、ひゃい!」
動画をホームページに添付し、送信した。
「ふぅ…とりあえずもう18時だしそろそろ飯だろうし下降りるぞ。」
「うん。」
「しかしどうなるかねぇ…めちゃくちゃ不安なんだが。」
「初手キチガイムーブしたあとの普通にガチラップは行けるでしょ。たぶん。」
「あ、ちょうどいい時に来た。お米装っといて。」
「へーい。」
「そういえばママ、パパは?」
「今日は飲み会って言ってたわよ。」
「3人分か。」
米を3人分装い、テーブルに持っていく。
「ねえ雅也、職はどうすんの?
高卒だけどまだ20になったばっかりだから就職は出来ると思うんだけど。」
「ん?Vtuberに応募したけど。」
「あー、最近流行ってるわね。
虹ライバーズの風原霞、林里紗、火花来香、山河咲の風林火山しか知らないけど…」
「母ちゃんが現代に生きてる…」
「お兄がそこに応募してたよ!」
「え!?本当に?」
「まあな。」
「てかお兄普通にママに失礼なこと言ってた。」
「え…本当に応募したの?」
「いや本当だって…」
「スルーされたんですけど!」
そのまま母ちゃんに質問攻めされながら食った。
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翌日、目が覚めると丁度起こしに来たのか沙耶が近くにいた。
「あ、起きた?おはよーう。」
「うぃ。」
どうやら未だ社畜根性は抜けきれていないらしく、それでも何時もより遅い朝8時半に目が覚めた。
「やべぇ、寝れることがこんなに幸せな事だとは思わなかった。」
「馬鹿なこと言ってないでご飯食べに行こ。」
「ウィッス。」
「ん…てかメール来てるわ。」
「まじ!?どうだった!?」
「…合格だってよ。」
「いぇーい!!!」
「まあ次に通話面接、都内面接があるけどな。」
「でもまずは一安心だね!んで、通話面接は?」
「今日の15時からDiscordで。」
朝飯の時に母ちゃんにも報告をして、お祝いの言葉を貰った。
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『アルデンテさんでよろしいでしょうか。』
「はい。本日はよろしくお願いします。」
『よろしくお願いします。
ではまあ動画査定で大体のキャラは分かりました。
まずはアピールポイントを教えて頂けますでしょうか。』
「はい。自分で言うのもなんですけど、動画編集やイラスト、音楽作りは高水準だと思ってますね。」
『はい。拝見させて頂きました。』
「かなりブラックな会社に先日まで勤めていまして、そこで上司の無茶振りに答える為に磨いたものです。
他にも企画力や我慢強さはかなりの物だと思っております。」
『はい。動画投稿者としての能力は把握致しました。
Vtuberとしてのこれが自分の強みだ!と言えるものはなんですか?
先程仰っていた企画力以外で何がございますでしょうか。』
「私、会社に勤め始めた時はかなり時間がありまして、その時にゲームをかなりやりこんでいました。
勤めている内に段々と勤務時間が長くなってきまして、如何に早くゲームをクリアできるか、所謂RTAって言う奴をやっていましたね…」
『なるほど。企画力、耐久力、そしてRTAの実績…』
「…はい。」
『ラップ以外での歌などの経験はありますでしょうか?』
「ないですね…ただカラオケはストレス発散の為に1ヶ月に1回は言ってました。」
『大体平均何点ぐらいですかね?』
「90程だった気がします。」
『ラップアレンジでの歌ってみた等の試みもありかもしれませんね。』
「あの、失礼ですがもう既に私がVtuberとして活動する様な感じになっているのですが…」
『いや、合格ですよ。
他の応募者の方々は真っ暗な画面だったり声が小さかったりで…
中々いい人来ないなぁって時にアルデンテさんが初手でガーゴイルのモノマネの時点で人が集まって職場の皆さんが『こいつ、できる!』ってなりましたし…
あぁ、愚痴みたいになってすみません。』
「いえ…なんか大変なんですね…」
『とりあえず能力も性格も申し分ないですし合格です。
詳細等を話し合いたいので明日、もしお時間よろしければ本社の方に来ていただいてよろしいでしょうか。』
「はい。特に予定は無いので、いつでも大丈夫です。」
『ありがとうございます。なら明日、10:30に来ていただいてもよろしいでしょうか。』
「全然大丈夫です。本日はありがとうございました。」
ぷつっと通話が切れる。
俺の緊張の糸も切れたのか、へなへなと力が抜けていく。
「沙耶、受かった。」
「まじ!?」
「うん。明日10:30に本社。8:30に出る。」
「伝えてくるねーん!」
「頼んだ。」
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ほんしゃなう。
この表現滅茶苦茶なうい。
やべぇ、緊張しすぎてもう何考えてるか分かんねぇ。
あ、俺合格って言われてたから別に緊張しなくてもええやん。
無問題無問題。
「アルデンテさんですね。私担当の飯田と申します。」
「はい。本日はよろしくお願いします。」
「とは言っても詳細決めるだけですけどね。」
「はい。」
それから飯田さんに連れられて小部屋にしては少し広いくらいの部屋に通された。
2つのソファの間に木製テーブルがある部屋だ。
ソファに座ると、反対側に飯田さんが座る。
「まず、絵師の事なんですが…自分で描きますか?それとも頼みますか?」
「…うーん……自分で描いてみたいですかね…」
「…なるほど。あとは名前と、設定…ですかね。」
「設定はぶっちゃけ、自分の過去まんまの方がロールしやすいですね。それと名前はなんかコンセプトはありますか?」
「うーん、強いて言うなら貴方の同期に当たる女性Vtuberの名前が《白夜夢寐》って名前なので…」
「安直すぎるとは思いますが《極夜夙夜》…とか?」
「極夜はともかく夙夜の理由を聞いても?」
「確か四字熟語に夙夜夢寐っていうのが有ったはずなので…まあ夢寐がその夢寐なのかは分かりませんが…
虹ライバーズって同期組全員四字熟語じゃないですか。」
「お恥ずかしながら調べても?」
「全然大丈夫ですよ。」
「…ありますね。夙夜夢寐。」
「というか同期ってもしかして白夜さんだけなんですか?」
「そうですね。」
「スーーーーッ…そうですか…」
「てぇてぇ期待してます。」
「あのですね…」
「まあ、冗談は置いておいて、設定の方に移りましょう。」
「別にそのまんまでいいんじゃないですかね?
高卒でブラック企業に就職、2年耐えたものの自由を手に入れるために配信を開始。
みたいな…」
「あー、それでも別に良さそうですね。」
「ただ元社畜だったとしても流石に衣装はスーツじゃないですけど。」
「ラッパー衣装ですか?」
「いや、あれもなしで。普通に最初の服装で。」
「まあ、絵を描いてくだされば連動等の操作はこちらで済ませるので…今日はこんな感じでいいですかね?
なにか質問とか気になることとか…」
「Twitterアカウントはいつ作るべきですかね?」
「公式アカウントで公開された時ですね。配信機材は住所がわかり次第送りますけど…」
「あー、引っ越した方がいいんですかね…やっぱり。」
「まあ、身バレのリスクとかを考えるとやっぱり…」
「家族と相談してみますね。」
「はい。また何かあったらDiscordの方で。」
「あ、分かりました。本日はありがとうございました。」
ふぃー、無事終わったか…
さて、Vtuberになるためにもうひと踏ん張りしますかね。
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