第3話 不穏な気配
俺は、姉ちゃんとの朝稽古の後、王城の中をある人物との約束のため会いに行っていた。
「やっと来たわねレオス。遅いじゃない」
「まぁ、そう言わずに。レオスが剣の腕を磨いてるのは姫様のためなんですから」
「どういうこと?」
向こうで手を振っているのは俺の幼馴染で王女のフレデリカ姫だ。そして、隣にいるのは王女専属のメイド、キサラだ。何でも昔は暗殺者だったらしい。こんな優しいお姉さんからは想像もできないけど。
実は俺が姉ちゃんと稽古してるのはフレデリカのためだ。俺の夢は将来父親みたいに騎士団長になってフレデリカを守ることだ。だが、このことは目の前にいるキサラを筆頭にフレデリカ以外にはばれているってことだ。たまにすれ違う騎士や執事たちに微笑ましく見られることがある。俺はわかりやすいんだろうか・・・・・・
「遅れてすまないな。姉ちゃんがスパルタで」
「どうせ、レオスがまた卑怯なことをしたんでしょ・・・・・・全くこんなに顔を腫らして、これじゃ外に出られないじゃない。待ってなさい、回復魔法をかけてあげるから」
「回復魔法なら私が」
「いや、いいの。私がやりたいから
「左様ですか」
キサラの申し出を断り、フレデリカは俺のおでこに右手を添えると回復魔法をかけた。すると顔の腫れがみるみる惹いていき、痛さもなくなっていた。
「ありがとう。助かったよ」
「そう、良かったわ」
お礼を言うとフレデリカは素直に喜んだ。
「それじゃ出かけましょう」
「いってらっしゃいませ」
「あれ、キサラはこないのか」
俺が聞くと、握りこぶしを作り「行きたいのはやまやまなのですが、やらねばならない仕事がございますので」と残念そうにしていた。
「レオス様、姫様のことをよろしくお願いいたします」
お辞儀をするキサラに「まかしとけ」と告げ、俺たちは王城を後にした。
俺たちが城下町の中心、噴水広場に行くと、
「もう、遅いよ、二人とも」
「レオスのせいで怒られたじゃない」
「悪かったよ。お詫びになにかおごるよ。でも高いものは・・・・・・」
「本当! じゃ、いくわよ」
「あ、話、聞いてない」としょんぼりしてると耳元で「もうフレデリカに告ったの」、
「バカいえ、そ、そんなんじゃないし」
「もう、早くした方がいいよ」
俺に聞いてきた男は俺とフレデリカの幼馴染のアーサーだ。俺たちと同じように英雄の一人アルベルトが先祖でアーサーもまた騎士団を目指している。
「あなたたち、早くしなさい。食べ物がなくなるわよ」
「ああ、今行く。行くぞアーサー」
「もうしょうがないね」
今日は英雄たちが魔王を倒したことを記念して町中に屋台がでたりパレードがあったりとお祭り騒ぎである。そんな中フレデリカはすでに焼きそばにタコ焼き、綿菓子と手に持っていた。
「じゃぁ、支払いよろしく」
「奢るのは一つじゃないのかよ」
俺が意気消沈してると、「僕も払うから」とアーサーが言ってくれ、店員たちにはご愁傷様という顔で見られた。俺たちがフレデリカのところに行くとベンチに先ほど買った食べ物を並べ「あなたたちも座って食べましょう」と促してきた。
「全部、フレデリカが食べるんじゃないのか?」
「レオス、あなた、仮にも姫たる私が食い意地が汚い女だっていうの?」
「え、そうだけど」
「そんな意地悪をいう人にはあげません」
そう言ってフレデリカは食べ物を取り上げようとする」
「じょ、冗談だよ」
「君たちって相変わらず仲がいいね。見てるこっちが恥ずかしいよ」
「「よくない!!」」
「ほら、ハモった」
アーサーに言われレオスとフレデリカは顔が真っ赤になりうつむいてしまった。
俺たちは食い終わるといろんな屋台を見て回ることにした。
「向こうに的あてがあるぜ。勝負しようぜ、アーサー」
「いいよ、レオス」
俺たちは店員に「銅貨三枚ね」と言われたので俺とアーサーで三枚ずつ出した。
「まずは俺からだ」
と、的あての前に立った。
的あては欲しい商品が陳列してある棚の前に丸い的があり、初級魔法のファイヤーボールで的を撃ち抜くか、風魔法のウインドカッターで、的を一刀両断したら獲得できる。的をかすめたりしても形が残ってたら失敗になる。魔法のコントロールが重要になるため、これが意外と難しい。ちなみに的までの距離は十メスある。(十メスは十メートルのこと)
「そうだな・・・・・・フレデリカ、何か、欲しいのあるか?」
「そうねぇ・・・・・・二段目の左から三つめの猫のぬいぐるみがいいわ」
その商品を探してると猫がマントを身につけてポージングしているぬいぐるみがあった。
「よし、あれだな。≪ファイヤーボール≫」
俺は手のひらで狙いを定めファイヤーボールを放った。すると、放たれた火の玉は的をかすめただけで粉砕はできなかった。
「はい、ハズレね」
「オヤジ、もう一回!」
「ダメだよ。次は僕の番なんだから」
アーサーが指定の位置に立つと的が新しいのに変わった。さっきのレオスのファイヤーボールで一部が欠けたため新しいのに変わったのだろう。
「狙いを定めて・・・・・・≪ウインドカッター≫」
風の刃が的めがけて飛んでいくと真っ二つに切り裂いて、カラーンと二つの板が落ちた。
「どうやら僕の勝ちだね。レオス」
「クッソ~!!」
露店のオヤジがぬいぐるみを渡してくれた。
「やるなー、坊主。その年で大したもんだ」
「・・・・・・ど、どうも。はい、フレデリカ」
「ありがとう! アーサー」
フレデリカは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめていた。
「次だ、次行くぞ」
「はい、はい」
「どうせ、負けるのにレオスも懲りないわね・・・・・・でも、何に対しても諦めないのは好きよ」
「そ、そうか」
「勝つためには卑怯なこともするのは玉の傷だけどね」
「う、うるせー」
そんな、三人を不穏な目で見ている輩がいた。
「お、おい。あそこにいるのはフレデリカ姫じゃないのか?」
「・・・・・・そのようだな。他にはガキ二人だけのようだな。これは捕まえたら奴隷商に高く売れるかもしれないな」
鼻に傷がある小柄ないかにも怪しそうな男の質問に、無精髭を生やした筋肉質な男が答えていた。
「どうする。捕まえるか」
「まぁ、待て。ここでは人目がある。もうちょっと様子を見てみるぞ。念のために増員メンバーをあと、四、五人呼んどけ」
「ああ、わかった」
レオスたちは狙われてるとも知らずに次の露店を目指していた。
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