第162話 湖畔の月の城

今日の晩の満月は夢のように綺麗だった

月が綺麗だ・・ポッンとアーシュはつぶやいた・・


昨日は悪い夢を見た


こんな綺麗な場所にいるのに・・過去の記憶が胸を刺し

あんな夢の形で出てきたのだ・・・


大きな金の天秤に それぞれ一人づつ

一人は立ち上り 黒い長い髪の少女


鎖に片手をかけて握りしめ

もう一人の少女は金の髪 ・・


うつ伏せになり血まみれで 天秤の盆の中は血で満たされていた


片手がだらりと・・

二の腕は 火傷に 他の怪我で血が大地に向かって

腕から流れた血で滴り・・


「兄さま・・これは貴方のせい?

それとも生き残り こうして生きて貴方を脅かす私 のせい? 」

立ち上っている美しい 黒い髪の少女の背中や肩には呪いの刺青


金の髪の少女はよく知ってる 気を失っているのだろうか?

盆の中の自らの血の中にいるのは・・ 誰よりも愛しい・・


「満月が綺麗だ」

ぽっんと 城のバルコニーの長イスに持たれ つぶやいた


「そうだね。」とあいずちをうつ


「お城に招待してくれたアルテシア姫に感謝しなくっちゃね。」と

金色の髪と左右違う瞳の美しいエルトニア姫ことエイル


あいずちをうったエイル・・彼女こそ・・・夢の中の盆の中の血まみれの少女・・・


エイルは 今 この湖畔の月が見える城で

嬉しそうに笑う


城から見える湖畔に満月が映り

見とれてると 遠くの方で ひょこりと湖から湖に住みついてる


水竜達が長い首をもたげ 顔を出してる ・・


「あんなに大きいのに 草食で湖の藻とか食べてるらしいよ」

「 ふぅーん・・ 」とアーシュ


「ねぇ!そろそろ 姫が準備してくれた食事会に行かなきゃ♪

うふふ♪」

「今日はね 服はおニューなんだな ウフフ♪

アクセサリーも一部 新調したの♪」


二の腕の魔法の宝石が埋め込まれた金の腕輪に目をやる


「腕輪も服に合わせて ちょっと替えてみました。」


黙って、そのまま腕を捉えると 何も言わずに二の腕の腕輪を外した

夕べの夢

金の髪の彼女の赤い血と黒々とした傷で 飾られた腕


あの時のままの傷跡・・


えぐられたような幾つかの傷と

焼かれた刻まれた焼き印の文字


それは・・黒髪の少女の名前


「・・・俺のせいだ・・ 」とアーシュは暗くつぶやく


「もっと早くあの時 探しだせたなら・・間に合っていたなら・・」


エイルは 笑顔を見せながら

「傷・・少しづつ・薄くなって来てるの

アーシュが 背丈を追い越す頃には きっと消える」


微笑

お日様のようなキラキラとした笑顔 でも


それはウソ・・ 魔法で焼かれた文字は焼いた本人でも・・


おそらくは消せない・・所有の呪い


暗い表情を見せる アーシュの顔を覗きこみ

「 だから・・そんなに悲しい顔しないで」


優しく微笑


見つめて顔を近ずけて

目をとじて 唇を合わせようとする その瞬間だった


扉の向こうから

短く魔法の呪文 パチンと音がして ドアの鍵が開く!


「 僕らもアルテシア姫にお呼ばれしたワンワン!♪ 」


「お呼ばれ その二♪」


「 ドアの鍵の解除の呪文を唱えたリアンさんだワン」


「 普通 先にノックするのでは・・」渋い顔で さりげなく抗議するアーシュ


影に隠れ 慌てて 腕輪をつけるエイル


「したですワン! ねっ!」

うなずくリアン 目がやぶ睨みがちにリアンを見ながら


「邪魔したかったのか? 」

「当たり!」リアンは にっこり微笑む


「 そうそう アルテシア姫

真紅の薔薇のようなドレスと胸元に赤い宝石つけて 凄く素敵でしたワン!」

「 待ってるワンワン!」


小声でリアンそっとつぶやく


「つまり やる気マンマン という事♪ モテモテだね」


引きつり笑顔で何も言えず、リアンを見ていた


リアンはバルコニーの外の美しい風景に目をやる


そして 無くした片方の自分自身の腕の先を無意識に撫でている


「腕が痛むのか? 」そっと尋ねる


「 たまにね 」明るく笑顔で答える


「無くしたものが たまにせつないな

楽器を扱うのは好きだったからね! それにしても 満月がとても綺麗だ」


それぞれが痛みをかかえてる


それに答えるかのようにつぶやく

「 ああ・・満月が・・とても綺麗だ 」

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