第3話

 おはようございます(ATOS風)。現在時刻6:10。電車の中から日の出が拝めてしまう時間だ。小田急線新百合ヶ丘駅から大手町まで乗り、そこから歩いて集合場所の丸の内南口に到着した。大手町の自販機で買った缶コーヒーをすすりつつ、部員たちの到着を待つ。レンガ造りのモダンな駅舎が特徴の東京駅。ここからかつて、数多の寝台特急、夜行列車が発着していたと考えると感慨深いものがある、気がする。そんなことを考えていると早速部員が到着したようだ。


 「おはよ~。早いね、横瀬くん。」

 曳舟先輩だ。いつもは(といってもこの間の一回だけだが)サイドテールで活発さを感じる姿だったが、今日は髪を後ろに伸ばしているようだ。

 「おはようございます。他の人たちは?」

 「先週君が地下鉄使ってきた方が早いって言ってたから、青春18きっぷの始点を東京駅にしようってことになったの。で、佐貫君が青春18きっぷを買ってくるはずだったんだけど、買い忘れたから今南口の券売機で発券してるの。」

 「え、そんな急場しのぎみたいな感じで発券できるくらい安いんですか?」

 「さすがに私たちの割り勘なのだ。」

 「あ、先輩方」

 佐貫のやらかした話を聞いていると、指定席券売機があるであろう方角から雫石先輩たちが歩いてきた。

 

 「先輩たちは先に着いてたんですね」

 「ええ、始発で来たわ。美冬と竹ノ塚、そして戦犯の佐貫とね。」

 「申し訳ないなり…」

 「昨日あたりに買っておけばよかったのに…」

 佐貫は意外にもずぼらな性格をしていた。賢そうなメガネ男子の佐貫だが、この間世界史の授業で爆睡をかまして先生に怒られていた。極めつけに宿題もやってきておらず、こってり絞られていた。……僕?ちゃんとやってきましたとも。


 「さて、みんな揃ったところでそろそろ出発といこうか!」

 「え、金山先生来てませんけどいいんですか?」

 「大丈夫、あの人はどこに行くときも新幹線で来るから。」

 「しかもグリーン課金なのだ」

 「ええ…」

 貧富の差をしかと感じたところで高崎線に乗車。駅員さんに青春18きっぷを見せて改札内に入場。乗車する電車は7番線から6:20発の普通前橋行。さも当然のようにグリーン券発券機に並ぶ一行。

 

 「……高くないんすか?」

 「今日は休日だから800円ね。ちなみに2時間近くかかるから私は普通車には行きたくないわね。」

 「私も遠慮するのだ。楽して行きたいのだ~」

 「僕もグリーン課金するよ」

 こう言われてしまうとボッチで普通車へ…となるのは避けたいところだ。諭吉5枚を持ってくるという決断は正しかったかもしれない。ピピッと小気味いい決済音とともに無事スイカグリーン券を確保できた。そして乗車する電車に乗車。

 

 「やっぱグリーンね。」

 「たまんねぇぜ!!」

 「雫石先輩のテンションがおかしい」

 一行はグリーン車の上階座席を選んだ。朝が早いためか幸いにも乗客は少ない。ちょうどいいので女子と男子で別れるようにして座った。


 電車はほどなくして東京駅を出発した。タタンタタンと列車は早朝の都会をかけていく。流れていく車窓に、遥は目を奪われていると不思議な形をした窓が特徴的な車両が奥の方に停まっているのに気がついた。

 「竹ノ塚先輩、あの車両って何て名前の列車なんですか?」

 「TRAIN SWEET 四季島だね。団体専用の寝台特急で、旅行商品を一泊以上買わないと乗れないんだ。かなり高額なことで有名で、ななつ星in九州、トワイライトエクスプレス瑞風と並んで三大クルーズトレインと言われることもあるよ。」

 「そうなんですね。」

 「ここ、尾久車両区はかつて数多の客車が所属し、北斗星やあけぼの、カシオペアなんかの客車が多く存在していた場所なのだ。近くには田町機関区なんかもあって、この周辺でありとある寝台列車が編成されていたのだ!」

 「え、でもカシオペアはちらっと見えてましたよ?」

 「定期運行終了後はカシオペア紀行っていう臨時列車扱いになって、一応今も不定期で使う機会があるからそのために尾久の奥の方に停めてあるって感じよ。」

 

 

 「「「「「……ダジャレ?」」」」」

 


 「…そうよ。爆笑必至のやつを披露したつもりよ…」

 「あっはっは」

 「やめてあげましょうよ…雫石先輩…」















 勿来先輩が柄にもなく涼しい()ダジャレを披露していると、横には様々な車両が展示されている施設が見えてきた。

 「ここが大宮鉄道博物館…」

 「大宮のてっぱくを見てから横川に行ってもいいけど金山先生が多分そろそろ高崎だろうから…」

 「あ…確かに…」

 「でもなんで大宮に鉄道博物館があるんですか?都内でもいいと思いますけど。」

 「いくつか理由が考えられて、一つはここが北の玄関口として知られていたから。東北、北海道、上越、長野、北陸と大体の新幹線が通っているし、夜行列車全盛期にはほぼすべての列車が大宮を停車駅の一つにしていたからね。玄関口と呼ばれるのもうなずけるよね。二つ目に、ここには大規模な貨物の操車場、いわゆる貨物ヤードが存在したこと。東西南北あらゆる方向に向かうことのできる大宮はまさに貨物駅としてうってつけの立地だった。東日本大震災のときにはここいらから被災地に向けての貨物列車が運行されていたぐらいだよ。あともう一つ挙げるなら大宮総合車両センターの存在が大きいかな。ここは車両の開発、製造、改修、廃車までやる施設なんだ。院線とか省線とか言われてた時代から大宮には鉄道車両用の工場があるんだ。だから、JR東日本もここにてつー」 

 「だから長い」

 いつの間にか雫石先輩はこっちのボックスに来ていた。


 









 「高崎、着いた〜!!」

 東京駅から2時間近くかけて、やっと高崎に到着。途中には暴動が起こったことで有名な上尾駅や、ゼリーフライで有名な行田駅、駅舎が東京駅に似せた外見をしている深谷駅、秩父鉄道との乗換駅である熊谷駅、この駅から先はドアを車掌が開閉しなくなる籠原駅と見どころは満載。その度竹ノ塚先輩が早口解説を披露していた。


 「さて、ここから件の信越本線に乗車して横川に行くよ!」

 「EL・DLレトロうすいには乗らないの?」

 「快速扱いだから指定席券だけ取ればいいから別に乗ってもいいけど…混んでるかもしれないわね…」

 「まあ普通列車でいいと思うなり。なるべくお金は温存するのが吉なり。」

 「ずぼらな性格なのに財布のひもは硬いんだな…」

 「横瀬君は一言余計なりよ!」

 佐貫をいじったところで信越本線に乗り換え。8:50発の普通横川行に乗車。無事席を確保し、写真を撮ったり伸びをしてたりすると。


 「お〜、全員揃ってんね。佐貫と横瀬は昨日ぶりだね。」

 ゆる〜い雰囲気を醸し、手にはビニール袋をぶら下げた鉄研の顧問、金山由美先生が現れた。


 「おはようございます、先生。」

 「今日もお酒買ってきたんですか…先生…」

 「ん〜、峠の釜めしをゲッチュできると聞いてね〜」

 引率中に飲酒はいかがなものかと…そんなわけで、すでに酔ってるようなテンションのこの人が金山先生だ。ちなみに英語の先生で、授業中はもうちょっと真面目な先生だ。



 一行の乗る電車は顧問との合流からほどなくして高崎駅を定刻で出発した。だが、このときの僕らは甘く見ていた。鉄研の部活旅行を、もっと言えば先輩方のとんでもない気まぐれ行程を…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る