鉄研に入ったら女子部員とそこそこ仲良くなった話

奥入瀬璃央

第1話

 うららかな春の日差しに照らされ、僕は通学路を行く。将来に明確な展望を持とうと持たなかろうと、新入生は新たな環境でのこれからの生活にある程度期待をし、そして些少の不安感を抱くことだろう。かくいう僕は、将来の展望などという高尚なビションなど持ち合わせてはいない。大学に入れればそれで、と思ってる節すらある。まあ受験終わりで賢者タイム(?)みたいな感じだからね、仕方ないね。



 そんなことを考え、十数分歩くと学校についた。初日から遅刻という不名誉極まる事態に陥らず一安心。15分は余裕を持って着けたから目立つというほどでもなかろう。


 入学式はつつがなく終了。校長先生や来賓の方の挨拶もそこそこに、我々は自分の教室へ退散。ちなみに僕はA組だった。この後はプリント等をもらい、入部する部活を決めねばならない。とりあえず自分の席に腰を落ち着けてじっくり部活を選ぶとしよう。別に部活は強制というわけではないが、折角の高校生活、楽しまなければ損だろう。かといって入りたい部活があるかと言われると…テニス?バドミントン?吹奏楽?趣向を変えて茶道部とか?いや、長々正座を組んでいられるほど僕の足は強くない。うんうん頭を悩ませていると前の席から部活リストと入部届の紙が回ってきた。


 思ったよりも部活の数は多かった。ラクロスなど運動部は20。文化部は合唱、吹奏楽、華道部とこちらは30近くもの部活があった。

 「こんだけあるとは…」

 結局、リストを見るだけでは決められなかった。幸い、提出期限はまだ先なので考える猶予は十分にある。それに、昇降口や階段の踊り場などには部活のポスターもあるのでそういったところから選ぶのも手だろう。

 教室を出て階段を下っていると踊り場の掲示板に目が行く。

 「ん?」

 一枚のポスターだけ他のものから離して貼られている。興味が湧いたので見てみると、

【部員急募!!】と用紙の上部にデカデカと書かれている。まあここまで部活の数が多いと自然と人数の少ない部活も出てくるよな。肝心の部活の名前は…っと。


鉄道研究部


 ほう。これまた定番な…受験校選びで何校か高校を見に行ったが、鉄道研究部はどこもいわゆるヲタク系の部活の中でも花形のような扱いだったと思う。これもなにかの縁だろうし見学してみるか…


 











 来てしまった…ここは鉄道研究部の部室前。ふと思い立ち、広い校舎内を部室棟の方へ歩を進め今は使われてなさそうな隅の教室にやってきた。一見何でもなさそうな空き教室だ。本当にここで部活をやっているのか?一応活動予定日だし、灯りもついているから十中八九活動しているだろうが。

 意を決して木製の引き戸を開けるー

 

 開かない。

 「んっ!?」

 もう一回引き戸を引く。しかし、開かない。施錠されてるのか…

 「はーい、どなたー?」

 中から声がした。多分女性。


がららららっ。


 「はいっ?」


 解錠音とともに戸が開き、中から女性の先輩が。うん、美人さんですね()美人な先輩の肩越しに部室を見る。男性二人に女性二人。そして目の前の先輩。


 「もしや新入部員?」と男子部員A。

 「嬉しいなり!これでこの部活も安泰なり!」と男子部員B。

 「一人入るだけでも万々歳ね。」と女子部員C。

 「部員が増えるよ!やったねた○ちゃん!」と女子部員D。


 どうやら歓迎されているらしい。悪い気はしない。ただ、男子部員Bの語尾と女子部員Dのテンションが気になる。「〜ナリ」って…ヲタクさん丸出しじゃないですか〜。


 「というわけで、ようこそ!鉄道研究部へ!」

 

 これが僕のこの部活との邂逅だ。僕の高校生活3年間は良くも悪くもこの部活に振り回されることだろう…


 

 

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