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皇紀八三六年植月二十七日六時00分
アキツ諸侯連邦帝国新領総軍第二十八軍第九河川戦闘群叢林分屯地
起床ラッパに叩き起こされるなんて何十年ぶりだ?
空挺師団時代は起床前に床を這いだし、まだ必死で惰眠をむさぼってる戦友のケツの穴に指カンチョーをするのが朝の日課だったし、特挺群に居た時は夜行性動物みてぇな暮しだった。
歯磨き洗面糞ションベンを済ませ、士官用食堂でクソマズイ朝飯を食い、忠実な執事か当番兵みたいにシスルお嬢様のご寝室にお伺いし叩き起こしに行くと、驚いたことにもう起きていて、床の上に荷物一式を広げて点検してやがった。
それにしても、コイツの持ってる荷物の中身を始めてみる。
あの恐ろしい蛮刀クッラの他に、棒手裏剣に幅広な両刃の短刀、折り畳み式の弓に組み立て式の矢、棒手裏剣や矢に塗る毒の入った小さな壺。腰に下げる小さな袋には、財布代わりの皮袋、薬袋、消毒した布、火打石、火口になる乾燥させたキノコや油分の多い樹皮。肩掛けの頭陀袋には着替え少々、裁縫道具、小さなすり鉢やおろし金、懐紙代わりの大きな木の葉、竹の水筒、小鍋にゴトク。
これだけの荷物で二年間も殺し屋として新領をほっつき歩いて来たんだから大したもんだと改めて思う。因みにお年頃の女の子らしいものと言えば、竹の櫛一個とユイレンさんお手製の刺繍の入った
小さいと言っても精緻な金象嵌でフルベ家のお印である笹をあしらった文様が入った一級品で、孫ほどの歳のシスルを甚く可愛がられた夫人が『勇ましいお仕事をしてると言っても女の子、鏡の一つも持ってないというのはよろしく無いわ』と恩自ら手渡しされた品だ。
で、頂戴した本人も喜ぶには喜んだんだが『物陰から相手を覗いたり、車の下に仕掛けが無いか調べたりするのに調度いいな』との事、これには夫人もオホホとお笑いになるほか無かった。
「ご精の出る事で。朝飯食っちまえよ」
俺の言葉にクッラの刃を親指の腹でなぞりつつ。
「ここの飯は食いたくない。マズイ。ここで食うくらいなら外で買い食いする」
と仰せだ。どうも俺が日ごろから面白がって良いもんばかり食わせるから、舌が肥えてきやがった。
ま、確かに兵営の飯はお世辞にも美味いと言えたもんじゃねぇ、圧力釜でドロドロに成るまで煮込んだ野菜の煮物やパサパサの干物、塩味だけの汁物に、あと何とも言えない臭いの麦飯。でも俺はそれで大人になったのだよ。お嬢ちゃん。
っても、兵営をウロウロされて皇帝陛下の赤子たる帝国軍人諸君の気を惑わせても行けないと考え。
「あ、そ、ほんじゃ営外に揚げ
そう言い残し自分にあてがわれた部屋に戻る。俺も“遠足”の支度をしなきゃな。
まず大事なのは得物だ。密林での戦闘を考えて二十式だけじゃ不安なんで長物を一丁持って行くことにした。
コンゴウ式二十番手動連発散弾銃。猟師たちが「シャックリ」と呼び兵隊たちが「塹壕銃」と呼ぶ手動連発式の散弾銃。九粒散弾を弾倉に五発と薬室に一発の計六発装填でき、銃身の下の先台を前後させることで給弾と排莢が出来る。
狭い塹壕の中や密林、街中や建物内での接近戦には持って来いの道具で、ややこしい機構を備えて無いので兎も角丈夫で信頼性が高く全球大戦中は俺自身何度も世話になった。
こいつを主にして二十式は副武装とする。弾はコンゴウ式の散弾を百二十発、二十式の弾倉は六つほど。
あとはミンタラ刀。こいつにはちょっとした工夫の施した。特務機関の装備部に頼んで鍔を交換し柄の尻に着剣装置をつけてもらったのだ。
軍に納品されてるコンゴウ式は着剣が可能で、これと組み合わせれば森の中で敵と不意に遭遇しても対処できる。
軍艦が空を飛ぶ時代でも、わが一軍の勝敗は
あと刃物系は革脚絆にブッ刺した小刀。それに行くとことが行くところ何で自動車の板バネで作った山刀も持って行く。
そして無線機。航空軍の操縦士や特別挺身隊の隊員が持たされる小型の救助要請用の奴を一つ。
送受信できる距離は限られてるがモワル湖西岸からソガル島西海岸あたりまではギリギリ電波が届く。こいつが無いと首尾よく敵地から脱出できても救助要請が出来ない。
あとは行軍の為の装備、将校用図嚢には軍用方位磁石、単眼鏡、鏡、拡大鏡、軍用包帯、折り畳み式の十特小刀、
着ていくもんもオシャレとは無縁。長袖長裾の防暑衣に雨除けの中折れ帽、危ない虫が多い所なんで革脚絆で足元を固め、
準備万端、あとはあのザノガミ先生からのお返事待ちだが、昼前位にケツからフサフサの巻尾を生やした二等兵が俺を呼びに来て「拓洋大学のザノガミ助手様からタケベノ少佐殿にお電話です」との事。
二等兵君の巻尾について行って電話室に行き受話器を取ると。
「結果、誘惑に負けました。暮しもあるし研究にも金が要る。それに一応男なんで出世欲もありますしね。お供しますよ、支度を整えて叢林分屯地にお伺いします」
さてさて、愉快な密林旅行の始まり始まりだ。
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